80話→体育祭、其のさんっ!
俺は借りるものが書かれた紙をギュッと握り締めると、夏凪とカルアとアリスの3人がいるであろう応援席に向かった。
応援席はクラスメイトで溢れかえっていたが、アリス達を見つけるのは容易かった。
俺は応援席の前で動きを止めて、誰に声をかけるか考える。
「・・・・あれ?はやと?走らなくていいの?」
お喋りに夢中になっていたアリスが俺に気づくと、続けるようにカルアと夏凪もこっちを見た。
梓はどっかに行ってるみたいだな。
「いや・・・・・走りたいんだがな。コレ、どうしようかと」
俺はそう言って借り物競走の紙をちらつかせる。
「借り物競走の紙?はやにぃ、見せてよ」
夏凪の言葉にどうするか少し悩んだが、自分だけじゃ決められそうにないので紙を渡す。
「とりあえず、誰でもいいから一緒に来てくれると助かるんだが」
紙を見た3人は、俺の言葉に複雑そうな表情をする。
「わたしは、別に行ってもいいけど」
ゆっくりと手を上げるカルア。
「んじゃあ、カルアでいいから・・・」
「ちょっと待って、はやにぃ。かなが行くからね?カルちゃんはここで待っててくれないかな?」
「ちょっと待って。夏凪ちゃん、わたしが先に名乗りをあげたんだよ?」
ん?なんかいつの間にかちゃん付けで呼び合う仲になってるし。
まぁ、友達が出来るってのはいいことだ。
二人が言い争っている間にも、時間が経過していく。
早くしないと優に負けるじゃないか・・・。
俺は、さっきからこっちをじーっと見ているアリスの手を掴むと走りだす。
「ふぇ!?は、はやと?い、いきなりどうしたの!?」
アリスはビックリしながらも、どこか嬉しそうな顔をしている。
呼び止めるような夏凪とカルアの声が聞こえるが、無視無視。
後から少し恐いけどな。
俺はアリスの手を引いてゴールを目指す。
「もうちょっとスピード上げて大丈夫か?」
アリスは俺の言葉に大きく頷くと、俺をリードするようにスピードを速めた。
俺も負けじと加速する。
前を走っていたやつを抜かし、後ろにチラッと見えた優にかなりの差をつけて、俺とアリスはゴールの白いテープを切った。
少し息を切らしながら、アリスが俺に抱きついてくる。
「やったー!はやと、1番だよ?勝ててよかったね!!」
「ん、こっちこそありがとうな。助かったよ」
俺はアリスを引き離しながら、無駄にはしゃぐアリスの頭を撫でる。
公衆の面前で抱きつくなんて、なんて恥ずかしいやつなんだ。
「はやと、あんまりイチャつかないほうがいいよ?」
3着でゴールした優が、こっちに歩いてきながら俺に注意を促す。
「いや、アリスが抱きついてきたんだし、俺に問題はなくない?」
「いや・・・頭を撫でたりするのも十分なイチャつき行為じゃないかな?」
・・・・・む、そう言われてみればそんな気もするな。
俺はゆっくりアリスの頭から手を離すと、誤魔化すように苦笑いをして、優の隣に立っている『年上の可愛い人』に挨拶をする。
「優の姉さん、こんにちは・・・・」
「ん・・・?はー君の幽霊が見えるんだけど」
優の姉さんは、可愛らしく首を傾げる。
「お姉ちゃん・・・だから、はやとは帰ってきたってメール送ったじゃん」
優は疲れたようにため息を吐く。
優の姉さんは容姿端麗の成績優秀な人なんだが、どこか抜けてるとこがあって、一緒にいるとかなり疲れてしまう。
「はやと・・・誰?この人」
まぁ、アリスは初対面だろうな。
なんたって、優の姉さんは最近まで海外留学してたし。
そんなアリスに、優の姉さんのおおまかな人物紹介をする。
「えっと、優の姉さんで日野 海巳〈ひの うみ〉さん。ちなみに大学部の1年生で俺らの1つ上な」
俺の大雑把な解説に、コクッと頷くアリス。
なんとか伝わったみたいだな。
「でも、はやとが幽霊とかどうとかって言ってなかった?」
「あぁ、それはだな・・・・」
まぁ、俺は行方不明になってたわけだし。たぶん死んだと勘違いされてたんだろうな。
「実はさ・・・「それ、本当!?」」
俺の声に優の姉さんの声が重なる。
「うん。だからメールで送ったて言ったでしょ?」
「本当に、本当?」
妙な会話をしている優姉弟。
「では、午前の部はこれで終わりです。生徒のみなさんはしっかり休憩をとって午後の部に備えてくださいね」
午前の終わりを告げる放送が聞こえたので、さっき言えなかった幽霊の理由を説明しながら昼飯を食べに行く。
確か中庭に席を取るって母さんが言ってたな。
まだ話が終わる気配がない優達はほったらかして、鳴りまくる腹の虫を治めるために中庭へ急いだ。