78話→体育祭、其のいちっ!
「では、開会式を始めます。理事長先生、どうぞ」
放送係の声に、理事長が朝礼台の上に立つ。
「よし・・・・では・・・・・・」
理事長、もとい母さんは俺の方を見てニカッと笑うと、俺を指差して叫ぶ。
「うちの葉雇に負けないように頑張れや!!」
ほら、そんなこと言うから・・・。
全校の、主に男子の視線が痛い。
母さんはかなり若いし、夫もいないし。
狙ってる奴は少なからず全校男子の3分の1はいるはずだ。
たぶん、虐めの原因に母さんが関わっていることは間違いない。
だって小等部の頃から毎度の事だし。
「ごほん・・・まぁ島の人の殆どが来ていると思うが、やり過ぎないように盛り上がろー!!」
「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」
母さんの仕切りなおしの言葉に声援を送る生徒達(ほぼ男子)。
一般参加の競技も多いせいか、島の殆どの人がこの体育祭に参加している。
生徒に混じって一般の人たちからも声援があがっているのは気のせいだよな?
いや、気のせいであってください・・・・。
そんなこんなで体育祭は開幕した。
「では、第一競技の男子120m走に参加する生徒は入場門前に集まってください〜」
・・・・120mとは中途半端な・・・。
俺はため息をつきながらも、優と一緒に入場門へ向かう。
俺と優は、実際に全部の競技に出場しなければならなくなった。
しかもそれを知らされたのは今日の朝。
昨日までは冗談だと思ってたんだけどなぁ。
入場門に着くと、グリムとケンがいた。
「お、二人も出るのか?」
俺の言葉に頷くケンとグリム。
「はやとも優も出るんだ。グリム、負けられないね」
「だな。よし!二人とも手加減は無用だからな!!」
・・・今気付いたが、同じコースを走るみたいだな。
「手加減は無用って言われても・・・・なぁ?」
「だね。僕とはやとは全部の種目に出ないといけないから本気で走りたくないなぁ」
俺が同意とばかりに頷くと、ケンとグリムは顔を見合わせてニヤッと笑う。
「実は俺とケンも全部の種目に参加するんだよな」
「・・・まじかよ。大変だなぁ」
「と、いうわけで全力で楽しもうぜ!」
・・・なんかグリムのテンションが異様に高いな。
「・・・・はやと、どうする?」
優の言葉に、俺は一つ頷くとニヤリと笑う。
「やれるだけ、やってみようか」
俺の言葉に優は頷くと、プッと吹き出した。
「はやとが何かに全力で取り組むなんていつ以来だろ」
「・・・・さぁな」
俺は笑いながらそれに答える。
虐められ初めてからは、目立たないようにやる気のないふりをしていたのだ。
本当に、体育祭で全力出すなんて何年ぶりだろうか。
係委員の指示に従って入場門をくぐり、走る順番が来るのを待つ。
どんどんと順番は流れていき、俺たちの番になった。
「負けた奴、ジュース奢りな」
俺の言葉に、3人は頷く。
ケンとグリムは俺の母さんから、月に3000円づつ貰っている。
今月は金銭的にかなりピンチな俺は、この勝負だけは負けられない。
というか、飲み物買う金ないから奢ってもらわないと体力的に保たない。
「位置に着いて・・・・よーい、「パンッ!!」」
ピストルの音とともに地面を蹴ると、思い切り走る。
こう見えても足には自信あるんだよね。
50mのカーブを曲がった時点で少し後ろを振り返ってみる。
3人ともすぐそこまで来ていた。
・・・・予想外に早いな。
ゴールまであと少し。
俺は気を緩めないように全力で走る。
白いゴールテープを切ると、不意に某鍵ゲーの鳥の詩が頭の中で流れ始めた。
なんとか1位をとれた俺は、“1”と書かれた旗を持っている人の後ろに立つ。
悔しそうにに舌打ちをする3人に、俺は軽く声をかけた。
「ジュース、ありがたく飲ませてもらうぜ?」
僅差で4位になった優は、うーっと唸る。
「・・・次は負けないからね?」
ゆっくりと退場しながら応援席に戻る俺たちは、優の言葉に笑顔で答える。
体育祭はまだ始まったばかりだ。