76話→すべてはラノベが面白過ぎるのが悪い件!
あれからクラスメイトの態度が変わった。
虐められることはなくなったが、肩がぶつかったりすると土下座までして謝られるようになった。
しかもそれは、うちのクラスから全校に広まりつつある。
ヤンキーをボコした件は、担任の先生が弁解してくれたお陰で正当防衛ということになりお咎めなしだった。
俺としては停学にでもなった方が気楽だったんだがな。
ヤンキー達はあれ以来見かけてない。
噂によると退学処分になったらしいけど、ボコされて退学なんて少し気の毒だな。
あれから2週間。
俺は高校生活最後の体育祭の準備に勤しむクラスメイトを横目で見ながら、お気に入りのラノベを読み進める。
さっきからアリスとかカルアが手伝えとうるさいが、無視している。
残念ながら俺は体育祭なんてどうでもいいんだけどな。
それに俺とは関わらないほうがいい、まじで。
最近は一部の教師まで俺にびびってんだから目をつけられるぞ?
「はやと!聞いてるの!?」
ちゃんと聞き流してますよ、アリスさん。
「はやと!!ちゃんとこっち見てよ!」
無理です。いくらカルアが可愛くてもラノベから目を離すことができません、はい。
今いいとこなんだよな。
馬耳東風な俺に二人は痺れを切らせたのか、ゆさゆさと揺さぶってきやがった。
「・・・読めないから、やめろ」
俺の脅すような声にも、二人は怯んだりしない。
他のクラスメイトなら土下座してくれるんだがなぁ・・・・。
「ほら、池谷君。本ばかり読んでないで参加したい競技を言ってください」
担任の先生が近寄ってきた。
「・・・はぁ・・・・別になんでもいいですけど」
この先生は嫌いだ。
ヤンキーにはびびりまくってたくせに、俺が何言ってもビビらないし。
相性悪いんだよな。
俺の適当な言葉に眉を顰める担任の先生。
「はやと、ならわたしが決めていいかな?」
・・・なんでカルアは俺に対してだけ会長言葉使わないんだろうな。
素が可愛いとか言ってしまった気もするが、俺にだけ会長言葉じゃないとか変に勘違いされかねないじゃないか。
「別にいいけど」
俺は自分が言ってしまったことをすぐに後悔した。
カルアはにやりと笑うと、黒板の前に駆けて行って何か書き始めた。
教室にはチョークの音と、「まじかよ・・・」という呻き声だけが響く。
俺はゆっくりとラノベから顔を上げた瞬間吹き出した。
『はやと→全種目しつじょー』
と可愛らしい日本語で黒板に大きく書いていた。
・・・・2週間足らずで日本語マスターするなんて凄いよなぁ〜。
「って違ぁぁぁぁあう!なんで俺が全種目に出なきゃいけねぇーんだよ!!」
「いや、はやと、決めていいって言ったよね?」
カルアが可愛らしく首を傾げる。
くそぉ!!俺はそんな仕草には騙されないぞ!
「いや、だからってそんな全部なんて」
「「はやとは嘘なんてつかないよね?」」
成り行きを見守っていたアリスとカルアが声を揃ながらニコリと笑う。
な、なんなんだこいつら・・・・。
妙なタイミングでシンクロしやがって。
「では、池谷君が全種目に出場で決定ですね。他の人も何に出場するか決めてくださいね〜」
教卓の前に行った先生は、メモ用紙にカキカキしている。
・・・・・・本当に決定しやがった。
「はいはい!!先生、なら優も全種目で!」
俺は呑気そうに笑っていた優を巻き込むことにした。
「ち、ちちちちょっと待って!僕はそんな」
「わかりました〜。では日野君も決定ですね」
よっしゃあ!先生グッジョブ!!
「は、はやと!!なんてこと言うのさ!」
「ざまぁ。いつもいつも見てるだけでいいなんて許さねぇよ!」
俺の高らかな笑いとともにうなだれる優。
「先生、かなはお兄ちゃんと二人三脚を走りたいです」
ビシッと手を上げる夏凪。
「はいはい、ではそれも決定ですね〜」
書き込む先生と、しまった!!といわんばかりの顔をしている梓とアリスとカルア。
それに続くようにそれぞれの競技次々に決まっていく。
俺はこっちを睨んでくる優の視線を無視してラノベの続きを読み始める。
話し合いはまだまだ続くみたいだ。