63話→覚悟!
「は・・・はやにぃ・・・・何してるの?」
夏凪が声を震えさせながら質問してくる。
「・・・・・・・」
俺は質問に答えようと思ったが、アイリスに唇を塞がれていて喋ることができない。
つか、アイリスさん。
長くないですか?
俺は夏凪から目を逸らしてアイリスを見る。
ウルウル。
そう表現した方がいいような瞳で俺を見つめているアイリス。
顔も赤くなってるし、何故かとっても身の危険を感じる。
俺は、上半身を倒しながらアイリスから離れようと試みる。
しかし、倒れる俺の後を追うようにアイリスも体を倒してくる。
俺の体がベッドに完全に倒れた時、アイリスがゆっくりと唇を離した。
「・・・はぅ・・・・はやと様。私、負けたくないから・・・・・・がんばります」
アイリスはそう言うと、夏凪を一瞥して俺の耳たぶを噛んでくる。
「うっ・・・・アイリス、耳たぶは・・・」
俺はアイリスから離れようと身をよじらせる。
耳たぶはダメなんだよ、まじで。
「・・・・っっ!!はやにぃ!」
そんな俺を見て、夏凪がこっちに走ってくる。
「夏凪さん、邪魔しないでください」
俺の耳たぶから口を離したアイリスが夏凪を睨む。
「やだ。だって、早い者勝ち。そう決めたよね?」
「・・・そうですが・・・・」
俺は二人が何の話をしているかまったくわからないが、とりあえず俺に関係ある話なのだろう。
二人とも睨み合いつつも、俺の方をチラチラ見てくるし。
「なぁ、二人とも。学校あるし、そろそろ朝飯食べたいんだが・・・」
俺の言葉に二人は黙り込むと、渋々と言った感じで俺から離れていく。
アイリスが退けてくれて楽になった体を起こし、二人が部屋から出ていくのを待つ。
だって、ねぇ。
俺の息子さんが、いきり立っているから。
・・・・・・・・・ってアレ?
何で二人とも出ていかないのかな?
「ちょ、二人ともさぁ・・・・着替えたりしたいんだけど」
俺の言葉を無視したように、アイリスが手を叩いて呟く。
「私、はやと様の朝食を作ってきますね。私もまだ食べてませんし」
そう言って、キッチンのある方へ小走りで走っていくアイリス。
料理作る手間が省けて嬉しいんだが・・・・色々と複雑だな。
まぁ、いいっか。
俺は、諦めにも似た感じで納得すると、まだ立っている夏凪に声をかける。
「おい、夏凪。早く出ていけよ」
そう言うと、夏凪がすごい勢いで睨んできた。
「はやにぃは、あのメイドと二人きりになりたいの?」
どこか目が潤んでいるようにも見えるし、どうしたんだろうか。
「いや、別にそーいうわけじゃないんだがな」
「ならいいじゃん。かなは、はやにぃと一緒にいたいんだもん」
「・・・まぁ、いっか。アイリス、夏凪の分の朝飯も作ってくれ〜」
俺はアイリスに声をかける。
「わかりました〜」
アイリスからの返事を聞くと、夏凪を見る。
「朝飯、食ってないだろ?」
「・・・・うん。よくわかったね」
俺は夏凪の言葉に苦笑する。
「なんとなく、だな。兄妹なんだし」
まぁー、夏凪が料理できないことは知ってるし、本当になんとなくなんだけどな。
「・・・・・・兄妹か」
夏凪は何か呟くと、俺の方に歩いてきてベッドに腰掛けた。
「・・・はやにぃは、かなのこと、好き?」
突然の質問に俺は首を傾げる。
「ん?まぁ、兄妹だし。普通に好きだぞ?」
俺の言葉に、夏凪は親指を噛むような仕草をする。
その仕草は、夏凪が何かを考えている時によくするのだ。
「・・・兄妹・・・・何かアクションを・・・・・・うん・・・・・負けないから」
独り言のように何かを呟く夏凪。
俺はそんな夏凪を見ながら、漂ってくる料理の匂いに腹の虫を鳴かせる。
そして、昨日の夜決めたことを頭の中で繰り返す。
みんなに高校生活を楽しんでもらうために、自分を捨てる。
わざわざ別の世界から来たアリス達に嫌な思いをさせたくないし。
寮に帰ってきて怒られるかもしんないけど、これが俺に出来る償いだ。
こっちの世界に帰ってきて1ヶ月の間、周りの態度はよくなるわけもなくむしろ酷くなっていた。
だから、心配させたお詫びに元凶の俺が、夏凪、夏凪の友達の海知瑠、梓、優に出来る唯一のこと。
あっちの世界から俺に会いに来てくれたアリス達にできる唯一の感謝の表現。
それが、自分を捨ててみんなとの関わりを断つこと。
さすがに、学校外でも1人でいれるほど俺は強くないから。
せめて学校内だけでもな。
俺は再度覚悟を決めると、料理を運んできたアイリスに笑いかけた。