57話→近づく恐怖!
俺は自分の家に向かいながら、どうやってこっちの世界に来たのかをアリス達に聞いていた。
で、最初に思ったことは、また会えると知ってて何も説明してくれなかった理事長に対する呆れ。
もう会えないと思って、無駄に浪費した気持ちを返してほしい。
それと、1週間以上滞在するつもりらしいが住居はどうするのか?という疑問。
グリムやケンは俺の家に泊めてもいいが、女の子の集団を泊めるわけにはいかないだろ。
精神衛生上よろしくないし、俺んちはそこまで広くない。
一つだけ手はあるんだが・・・・・姫様達に、家事や炊事ができるかが問題だ。
とりあえず、母さんに相談しないと。
そう思い、みんなを一旦家に招くことにした。
この見た目外人っぽい集団の説明をするためには、この前のような嘘の理由ではなく事実を話さなければならないだろうな。
俺は家に着くまでの間、興味深げにキョロキョロと辺りを見回す集団を引き連れながらため息を吐く。
家の前に着いた俺は、鍵を開けて居間にみんなを案内する。
一般家庭に比べてわりと広いその場所も、人がこんだけ集まれば狭く感じる。
俺は「お茶でも用意するよ」と言ってキッチンにむかう。
アイリスが手伝うと申し出てきたので、遠慮なく手伝ってもらうことにした。
「はやと様、こういうのはメイドの役目ですから、はやと様も皆さんと一緒にくつろいでてください」
アイリスの言葉を聞き、苦笑しつつコップなどの準備を始める。
「いや、アイリス食器の場所とかわからんだろ?」
俺の言葉に、「あぅ〜」と落ち込むアイリス。
やばい・・・あぅ〜は反則だろ?
俺は心の中でアイリスの言葉に悶えつつ、表面では落ち着いたように飲み物の準備を始める。
と、言っても、なぜか常に買い置きしてある炭酸ジュースをコップに注ぐだけだが。
ついでにスナック菓子も3つほど。
アイリスは初めて見るものばかりなのか、キラキラ目を輝かせながら俺の作業を見ていた。
「は、はやと様・・・なんですか?そのしゅわぁ〜ってなってる紫色の飲み物は・・・・・匂いはシゥの実に近いかな?」
シゥの実、というのはこっちの世界でいう葡萄に近い果物のことだ。
「まぁまぁ、飲んでみればわかるって。とりあえず運ぶの手伝ってくれる?」
俺の言葉に頷いたアイリスに、6つくらいのコップが乗ったおぼんを持たせる。
さすが本業のメイドといったとこか。
ブレがないし、安定してる。
残りのコップが乗ったおぼんを片手に、もう片方にはお菓子の袋を持って俺は歩きだす。
もともとこういう仕事が俺の役割なのだ。
帰ってきて2、3日は母さんや夏凪がしてくれたけど、今となっては俺の仕事に戻っている。
アイリスは、予想外だという感じで器用におぼんを持つ俺の方を見て関心したような視線を送ってくる。
「はやと様は何でもできて、メイド泣かせですね」
俺はアイリスの言葉に適当に相づちを打つと、みんなが待つ居間へと足を運ぶ。
炭酸、というものはビールに似た所謂お酒しかないらしくみんなは割と喜んで飲んでくれた。
ジャガイモを揚げただけのチップスもわりと好評だったし、よかったよかった。
アイリスも含め、みんなで談笑していると玄関の辺りで物音がした。
母さんかな?と思ったが、不意に夏凪と梓の顔が頭に浮かんだ。
少しづつ歩いてくるその足音に嫌な予感がどんどん募る。
ガチャ。
居間のドアが開くとともにみんなの視線が集まり、母さんが顔を出した。
安堵の息をつこうとした時・・・・・・時間が止まった。
母さんの後ろからものすごくどす黒いオーラを纏ながら現れた二人に、俺の体感時間が止まる。
あぁ、言い訳とか絶対聞いてくれないよな?あの二人。
そんな俺に熱い視線が二つ。
ゆっくり振り返れば、親指を立てているケンとグリム。
助けは、ないかな・・・。
俺はゆっくりと近づいてくる母さん達から視線をそらして一言。
「早いお帰りで・・・・」
今日に限って学校の用事とかで家に来てない優に助けを求めつつ、このまま何事もなく1日が過ぎるのを祈った。