53話→作り話!
母さんの言葉を聞いた夏凪と梓は、予想どおり俺をすごい目で睨んできた。
俺は助けを求めるように優に視線を送るが、見事にスルーされてしまった。
・・・・俺の友達は、助け合う心というものを理解していないらしいな。
優だけじゃなく、ケンやグリムにもいえることだが。
俺は、ゆっくりと後退りを始める。
とりあえず、この場から離れよう。
そう思い、部屋の出口へ近づく。
「はーくん、真里逢〈まりあ〉さんが言ってる女の子のことについてじっくり聞きたいんだけど」
そう言いながらフラフラと近づいてくる梓。
ちなみに、真里逢というのは母さんの名前だ。
名前に騙されちゃダメだ。
どっかの聖母みたいな名前だが、優しさなんて全然持ってないしな。
「いや・・・な?それは別に母さんの思い込みで俺はそんな女の子なんて知らないし」
「夏凪ちゃん・・・」
「うん!」
梓の言葉に、夏凪が俺の方に走ってきて後ろに回り込む。
くそっ!もう少しで逃げれたのにぃ!
俺は思わず舌打ちをする。
「はやにぃ?今の舌打ちは何かな?」
背後から物凄い視線を感じまくった俺は、両手をあげて降参の意を示す。
「それでいいんだよ。で、はやにぃ。詳しく聞かせてくれるよね?」
俺は、素直に頷くと家に帰ってくるまでの経緯を話した。
もちろん嘘、作り話だけど。
みんなに話した内容は、ありふれた話だった。
飛行機事故で目が覚めると知らない場所にいて、その場所に日本語を理解できる人がいて助けてもらった。
帰ってくるまでにいろんな場所を巡ったから、価値観とかが変わって、俺が前と違うように見えるんだろ?と。
なんとかその説明でみんなは納得してくれたらしい。
「じゃあ葉雇、その人にいつかお礼しなきゃね?」
「・・・・あぁ」
うん。優の今の発言には冷や汗をかいたね。
その人って実はこの世界の人じゃないから、なんて言えるわけもなく、梓や夏凪がその人物について詳しく質問してくるのには参ったね、まじで。
30代のおっさん、とだけ言っといた。
まぁ、俺の嘘に気付いてるのは母さんくらいだろうな。
母さんは無駄に勘がいいし、さっきからニヤニヤとこっちを見てくるし。
「あっ、僕、そろそろ帰らないと」
色々話し込んで気づかなかったが、いつのまにか19時を過ぎていた。
早く梓も帰らないかなぁ、とか思いつつ部屋から出ようとしない梓と夏凪を放置して、玄関まで優を見送る。
「じゃあ、また明日な」
「うん。学校・・・・がんばろうね?」
まぁ、何を頑張るかは聞かずともわかるが。
「おう。じゃあな」
そう言って優を見送り、自分の部屋戻ろうとすると、階段を降りたとこあたりに母さんが立っていた。
「何かあったら、相談してくれ、な?」
母さんはそう言い残してキッチンの方に歩いていった。
俺はその背中に心の中で声をかける。
相談なんて、心配かけるようなことしないから。
母さんの姿が完全に見えなくなってから自室に戻る。
「さぁて、はーくん?このえっちな本について何か反論はある?」
「はやにぃ、かなだけじゃもの足りなかったんだね?」
部屋に戻った俺は、すっかり忘れていた宝物をパラパラ捲りながら不気味な笑いを浮かべている二人にため息をつく。
今度こそ変な言い訳はできない。
はぁ・・・・・・。