39話→星の見える丘で!
夜9時40分。
ユアとの約束より少し早めに正門の所に来た。
アリス達からは、「こんな夜遅くに何処に行くのか?」と怪しまれたが、「理事長室に行く」と答えると、すんなり行かせてくれた。
突飛に考えたことだったんだが・・・・今度から抜け出すときに使えそうだ。
頭の中にメモメモっと・・・・・
俺が、頭の中に新しい知識を書き込んでいると不意に声をかけられた。
「・・・はやと?」
その声に振り向くと、少し驚いた顔のユアがいた。
まぁ、表情はあんま変わんないからよくわかんないけど。
「っと・・・・・来たか。で、今日は何の用なんだ?」
俺は質問しながらユアが手に持っているものに視線を向ける。
「・・・・・星」
その手に持ってるものを俺に差し出して一言呟くユア。
「それって、ユアが作ったのか?」
俺はそれを指さす。
それは、紛れもなく望遠鏡そのものだった。
「・・・・・・うん。異世界人〈にんげん〉の資料に似たようなものがあったから・・・・・」
ユアの話によると、双眼鏡に似たものはこの世界にもあるらしく、それを資料なんかを見て改造、もとい新しく最初から作り直したらしい。
つまり望遠鏡という物は、今この場所にしか存在していないということだ。
俺はその望遠鏡を見ながら一つ質問する。
「これ、本当に見える?」
俺の一言に、わざとらしく頬を膨らませながらユアは頷く。
「・・・・・・見える。こっち」
俺はユアから服を掴まれて引っ張られる。
抵抗することはせず、おとなしくユアについて行った。
「すっげぇぇぇ〜」
俺は思わず声をあげてしまう。
ユアから連れてこられた場所は、学校の裏の方にある森をさらに奥に行った所にある丘。
そこには、一面星の空が広がっていた。
それはとても神秘的で、元の世界じゃ見れる景色じゃないだろう。
それに、学園と商店街付近は人が遅くまでいるのかなかなか明かりは消えず、星の輝きも少し薄れてしまう。
つまり、こういう場所じゃないと見ることができないということだ。
「・・・・私のお気に入りの場所・・・・・・みんなには内緒」
そう言いながら口元に人差し指を当てるユアはとても神秘的な雰囲気を纏っていた。
「・・・・じゃあ、何で俺に?」
ユアに見惚れつつ、そのことを悟られないように質問する。
「・・・はやと・・・・・・星好きだって言ってたから・・・・見せたかった・・・・・それに」
ユアは、一回言葉を区切ると思い切ったように言葉を紡ぎだす。
「ミウから聞いた・・・・・・はやとはもうすぐ元の世界に帰るって・・・・・だから、何か思い出を作ってほしかった」
俺はユアの言葉に少し感動してしまった。
俺のために手作り望遠鏡まで持ち出してきて、誰にも教えたくなかったであろう場所まで教えてくれた。
「ユア、ありがとう」
その『ありがとう』は心からの感謝。
ユアの気持ちがとても嬉しくて、その言葉は意識せずとも自然にでてきた。
「・・・・・・どういたしまして」
ユアは照れたように呟きながら手作り望遠鏡の設置をはじめる。
手伝おうか?という俺の言葉に首を横にふるユア。
俺はユアの準備が終わるのを、星を見上げながら待つ。
「・・・出来た」
ユアはそう呟くと、俺を手招きする。
「はやと、こっち」
俺はユアの横に並び、指示されるがままに望遠鏡を覗く。
ゴクッ。
思わず唾を飲み込んでしまった。
望遠鏡から見る星は、肉眼で見るのとはかなり違った。
星を目の前にかんじる迫力。
星一つ一つの儚さ。
あまりの綺麗さに時間が止まった感じすらする。
「・・・・・・どう?」
遠慮がちに質問してくるユア。
俺は望遠鏡から顔を離すとユアの顔を見る。
「とっても、すんごく綺麗だった!」
興奮気味にはしゃぐ俺を見て、くすっとユアが笑う。
ユアは、空を見上げて星を指差す。
「・・・あれがデネブ・・・・あれがアルタイル・・・・・・あれはベガ」
星の名前を呟くユア。
「知ってる。夏の大三角形だろ?」
俺の言葉に、嬉しそうに頷くユア。
星の名前とかは元の世界と変わらないのか・・・・などと思いつつ、ユアと星の名前を言い合う。
ゆっくり、ゆっくりと時間は流れていった。
俺が部屋に帰り着いたのは深夜1時を過ぎた頃だった。