31話→フラグ!〜後編〜
「てめぇ!!今の話聞いてやがったな!?頭ぁ!殺っちまいましょう!」
盗賊団の一人が斧のような物を担ぎ立ち上がる。
「・・・・ヨシザ、待て。見た感じここの生徒みたいだが・・・・・・どんな魔法を使うかわからん。気をつけろ」
リーダーっぽい男の言葉に頷くヨシザと呼ばれた男。
その男がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「おいおい坊主ぅ、正義気取りで憤るのはいいが・・・・・・・・・相手が悪かったなぁ!!」
ヨシザは膝を少し折ると、それをバネにして俺の方に突進してくる。
俺は目に魔力を集中させる。
まず相手の攻撃を見切る・・・・・
グリムやケンと、密かに実戦訓練をしていたことを思い出す。
1ヶ月前、周りの変化に気づいたケンとグリムが、俺が落ち込まないように実戦訓練でもして気を紛らわそうと話を持ちかけてきた。
実際、精神的にもかなりキテたからいいストレス発散になった。
いくら元の世界でクラスの女子とあまり喋らなかったといっても、クラスの女子全員から無視されるのはさすがにきつかった。
(あの訓練を思い出せ。相手はグリムやケンばかりだったけど、あの二人がこんな盗賊団なんかより弱いはずがない・・・・・・まだ、負けられない)
敵が斧を振り下ろす軌道を詠み、体を少し逸らして回避する。
そして、すぐさま魔力を手に集中させる。
(やるなら1発で・・・・・・)
俺は手を軽く開く。
そして、敵の喉を狙って爪をたてる。
魔力によって強化されたとはいえ所詮爪。
指に走る痛みから察するに2、3枚の爪が剥げたみたいだ。
しかし、相手の喉を裂くには十分だったらしい。
「ヨシザぁぁぁぁあ!?」
仲間の叫びとともに、斧を持った男が倒れる。
しゃがみこんで脈を計ってみた。
どうやらちゃんと死んでくれたらしい。
爪が剥がれた指は泣きそうなくらい痛むが、人一人の命に比べれば軽い。
むしろ、よく爪だけで人を殺せたな、と自分を誉めたくなる。
普通なら、人を初めて殺したりしたら気分が悪くなるらしいが、グロいアニメやゲームをやったことのあるからか、全く気分が悪くならない。
むしろ清々しい。
これで、グリム達が殺される確立が減った。
そう思えば何も苦にならない。
「てめぇぇ!!よくもヨシザを!!」
今度は、二人の男が立ち上がってこっちに走ってくる。
俺は再び目に魔力を集中させる。
二人はそれぞれ60cmくらいの刀を持っている。
一人目の刀を避ける。
すると、二人目も刀を振りかぶる。
なんとかギリギリのラインで避けまくる。
しかし、それが10分くらいも続くと、消費した魔力と緊張からの疲れで体力がやばい状態に。
盗賊の二人は肩で息をしているが、俺は過呼吸になりそうなくらいぜぇはぁと喘いでいる。
さすがに二人相手じゃきつすぎる。
てか、敵の剣が上下交互に襲ってきて膝がかなりやばい状態だ。
とりあえず、こいつらまでは殺す。
12人から9人に減れば、盗賊団の動きは少しは鈍くなるだろうし、ドラゴニスを抜いてもそれ以外の生徒を相手にするのはきついだろう。
俺は後のことを考えるのを止める。
今出せる全力でぶっ殺してやる。
俺は二人の剣を急所から逸らしながら自分の体に刺す。
二人の刀が止まるのを確認すると、今あるだけの全部の魔力を両拳に集中させて二人の顔を殴る。
グチャッ。
でっかいバケツプリンの中に手を突っ込むような感触がする。
二人は顔を殴られて後ろに吹っ飛ぶ。
座って呑気に俺と二人の殺し合いを見ていた他の盗賊団のやつらは、顔を引きつらせながらそれぞれ武器を持って立ち上がる。
「頭ぁ、やつ、何者でヤンスか?」
後ろの方に飛んでいった仲間の二人を見て顔を青ざめながら、ヤンス野郎が呟くように喋る。
二人の顔はぐちゃぐちゃに潰れていて、生きていないことは見てわかる。
「さぁ・・・わかんねぇが、仲間を3人もやられて黙っちゃいられねぇなぁ。」
怒りを現わにする盗賊団のリーダーっぽい男。
今更怒っても遅いな。
俺は魔力が尽きかけているうえに、爪は剥げていて、体に刀を二本刺してる状態だ。
あいつらが怒りを晴らす前に死ねる。
体の力がゆっくりと抜けていき片膝をつく。
盗賊団のやつらが何か喋っているが、今の俺に聞き取る力なんて残ってない。
しかし、まだいける。
残る力を振り絞ればあと一人くらいはいける。
俺は体に刺さっている刀を抜くと両手に構える。
まだやり残したことはある。
積みゲー状態のゲームや予約していたギャルゲ。
色んな漫画にラノベ。
それに彼女も作ったことないし、まだ童貞だ。
死ぬ前に何を考えてるんだ、と自然に笑みがこぼれる。
さて、最後くらい格好よく決めさせてくれよ?
俺は姿勢を低くすると、持てる力を振り絞り走りだす。
今だけは神様に感謝してやろうか。
普通の死に方より、こうやって死ぬ方が男って感じするしな。
よし、そろそろこの死亡フラグを成立させてやろうか。