9話→お風呂!
部屋に戻った俺が、特にやることもないのでどうやって暇をつぶそうか考えていると、アリスが何か言いたそうにこちらをちらちら見てくる。
「アリス、どうした?」
「えっと、その・・・・」
アリスは顔を赤くしながら口ごもる。
「ん?あれか、一緒に寝たいとか?」
俺はからかうようにアリスを見る。
「ち、違うもん、いや、別に嫌とかじゃないんだけど、あの、その、お風呂とかどうかなって。」
「風呂?こっちの世界にあるのか?あったら行きたいなぜひ。」
俺の一言にアリスの顔がぱぁっと笑顔になる。
「ほ、本当!?良かったぁ。」
その前に問題が一つある。
「アリス、俺下着の着替えないんだが。」
そう、制服は夏用に3着、冬用に2着と支給されているが、俺の下着は今着けているもの以外持ってない。
「あ、大丈夫だよ。はい、コレ。」
と、アリスが紙袋を渡してくる。
添えてあった手紙を開くとこう書いてあった。
『ムフフ、夜の営みで下着を汚すこともあるだろう。心おきなく汚せるように替えをプレゼントしようーーーーーーーー理事長。』
俺は、手紙を丸める。
エロ理事長の頭の中はどうなってるんだか。
しかし、替えの下着が貰えたのは結構嬉しい。
そこだけは感謝してやるか。
「アリス、行くか?風呂。」
「あ、うん。行こう!」
アリスはこくっと頷くと、パタパタと走る。
そんなに急がなくてもなぁ。
(そういえば、お姫様たち居なかったなぁ。まだ食事中か?)
「はやと、はやくはやく〜」
「はいよ〜。」
アリスが急かすので、急いで適当な下着を選び、アリスの横に並んだ。
そうだな、俺は今猛烈に悩んでいる。なぜか、といえば・・・・
風呂場に着いた俺は、男湯、女湯、混浴の表札を見てどうするべきか考えていた。
男のロマンを考えるなら混浴。いや、しかし、もし見知らぬ女子に会ったら微妙に気まずくなるような気がする。
「はやと、混浴に入ろう。ね?」
ぐはっ、やめてくれ。アリス。そんな上目遣いで恥ずかしそうに混浴に入ろうなんて、まじでやばい。
「アリス、いいのか?」
「うんっ!」
これは、あれだ。アリスから無理矢理混浴に入れと言われたのだ。俺は悪くない悪くない。
中に入ると脱衣場は流石に別々らしく、俺はアリスと一旦別れた。
脱衣場で服を脱いだ俺は自分にこう言い聞かせる。
大丈夫。アリスは小さいから、そう、近所の小学生と銭湯に行くくらいの気持ちで・・・。
よしっ、と気合いを入れ直すと、タオルで前を隠して風呂場に乗り込んだ。
「すっげぇぇぇ。なんじゃこりゃ。」
風呂は、露天風呂だった。総檜で出来ているみたいで、木の匂いがなんだか懐かしい。
「ふわぁ、やっぱりユナ先生が言ったとおり大きいお風呂だぁ〜。」
アリスの声が聞こえる。どうやらアリスも驚いてるらしい。
俺は、風呂に浸かる前に体の汚れを落とすため、辺りを見回すと、シャワーらしきものがあったのでそっちに向かう。
シャワーらしきもの、は先端はシャワーのそれに似ているが他は違う。
いや、むしろシャワーの先端だけしかないシャワーってところか。
スイッチらしきものがあったので押してみると、魔方陣のようなものが現れて、お湯が出てきた。
「それ、火の補助魔法と水の発生系の魔法を組み合わせて作ってあるんだよ」
声がした方を見るとアリスが立っていた。
タオル一枚のアリスの体は、服を着ていてはわからないところがよく目立つ。
あんまないと思っていた胸もBくらいはあるようだ。
俺は、あんまりじろじろ見ると何か言われそうなので、適当に相づちをうって体を洗い始めた。
石鹸の類いは、ちゃんと据え置きされているみたいだ。
男性用、女性用とシャンプーが二種類あるのは学費の無駄遣いなのではないだろうか、などと思いつつさっさと洗う。
洗い終わると横から視線を感じる。
「はやと、もう洗い終わったの?」
「あぁ、まぁな。」
ふと、アリスが悲しそうな顔をする。
俺何かしたかな?
「じゃあ、先にお湯に浸かっとくから」
「気持ちぃぃぃ〜」
俺はお湯に浸かりながら体中の疲れを癒す。
五分くらいすると、アリスも来た。
俺から少し離れたとこに浸かると、ふにゅぅ〜と奇妙な声をあげる。
お湯の中にタオルを持ち込まないのはこっちでも常識らしく、アリスはお湯に浸かると体に巻いてたタオルをお湯の外に出す。
たぶん湯気がなければアリスの裸体は見えてただろう。
俺は湯気を憎らしげに睨む。
「ねぇ、はやと」
ふいにアリスが話しかけてきた。
「なんだ?」
「はやとは強いよね。」
何のことを言ってるかわからず俺は首を傾げる。
「そっち行っていい?」
俺が肯定する前に肌が触れ合うくらいの距離までアリスが近づいてくる。
おいおいおいおい。お湯の中ねアリスの裸がぼんやりと見えるよ、はぁはぁ
「はやと、はやとは寂しくない?」
俺が悶えていると、アリスが悲しそうに喋る。
「何が寂しいんだ?俺は別に・・・・」
「・・・・やっぱりはやとは強いね。昨日この世界に来たばかりなのに泣いたりしないし。」
「・・・・」
「ぼくがはやとの立場だったらきっと泣いちゃうな。だって、知ってる人が誰もいない世界なんて寂しいし。」
「アリス。」
俺が声をかけると、アリスが俺の顔を見上げる。
「泣くって、俺男だし。そんな泣けないよ。それに、この世界の人はいい人ばっかだし、友達も出来た。確かに、両親や妹とかに会えないのは寂しいけどね」
俺は苦笑する。
「・・・・ぼくには、はやとが笑える理由が分からないよ。」
「・・・・俺がこの世界に来て最初に思ったことは楽しもうってことなんだよ。俺はまぁ、こんな非日常に少しの憧れがあったし、この世界に来れたのなら帰ることもできるはず、って確証のない自信もあった。」
「・・・・」
「実際に帰ることできそうだしな。」
にこっ、と笑う俺を見てアリスが涙をこぼす。
「な、なんで、そんなに笑えるのかなっ、ぼ、ぼくがはやとだったらっ、楽しむとしても、やっぱり寂しいよぉ・・・・」
俺は、アリスの頭を撫でる。
「なんで、アリスが泣くんだよ。俺は寂しくないって。」
「・・・・何で?」
「・・・・アリスが居るから。」
俺の言葉にアリスは目を丸くする。
「たぶん、最初にアリスと会えたから俺は今こうして笑えると思うんだ。誰とも会わずに一人だったら、寂しさに押し潰されて・・・・死んでたかも。」
「ぼくに、会えたから?」
俺は頷く。
「アリス。ありがとう」
俺が笑いかけると、アリスは顔を赤くして俯いた。
たぶん、アリスが恥ずかしいの我慢して一緒に風呂に入ってくれたのも、俺の事を気遣ってくれたからだろう。
体洗うときの悲しそうな顔は、背中でも流そうとか考えてたんじゃないだろうか。
「あ、あの、ぼく、先に部屋に帰ってるね!」
突然立ち上がったアリスは走って風呂から出ていった。
「・・・・丸見え。」
俺は、今見たアリスの裸を頭の中に永久保存すると、空を見上げた。
暗い夜空には、今の俺の気持ちを表すように星がキラキラ輝いていた。
(ど、どうしたんだろ、ぼく。はやとの事思い出すと胸がドキドキするよ。なんかの病気かなぁ?)
部屋に戻って、布団を頭までかぶったアリスは高鳴る胸を押さえながら一人で悶えていた。