伝わるか伝わらないか、実物がないと多分分からない象革の話
ポチった。
諭吉さん一人と英世さん一枚が虚空に呑まれる幻を見た。
後悔は、無い。
もう遅いけれど、一応、もう一度、確認しよう。商品画像を。購入した品物の一覧の、一番上にきている、茶色いソレの画像をクリックする。
マウスのくるくる回る輪っかみたいなやつをくるくる回す。
カララララ――
ぎゅいいん、って大きくなる。400%! なんかすごい。迫力が、すんごい。
それは、全体的に茶色だ。う○こではない。それは、しわしわだ。縦横無尽に。浅かったり深かったり。けど、そこにクラックはない。履いていて付いた折り目、という訳ではなくて、等間隔じゃあないけれど、平行な皺が目立つ。後は、牛にしては少し深いような、皮膚の凹凸というか模様? 毛穴っぽい毛穴もよく見える。人工皮革である可能性はやっぱりゼロだ。
これが本当に例のあの革だとは限らないけれど。ただの牛の仲間の革だって可能性もある。水牛、とか?
けど、やっぱり、等間隔じゃあない平行な皺が目立つ。折り目じゃあない、元からあっただろう、それが、とある革の証であるかのような皺。
履く、と言った。つまりこれは、靴だ。
縫い目は靴底と、踵と、淵にだけある。他にはなくて、だからこそ、上等な取り方をした革だと分かる。一枚のぴらっとした大きな革から、切り出されて、靴の甲革のパーツは用意される訳だが、傷とか破れとか穴とか、そんなものがところどころに、普通、ある訳だ。
そのようなものは、材料としては弾かれる。つまり、大きなパーツになればなるほど、破れや傷といった問題のないものを用意するハードルは高い。
どうなのだろうか? どうなんだろうか? ほんとうにこれは、例のあの革――象革なのだろうか?
よくあるのはサイフとか鞄とかだけど、残念ながら持っていない。だからこそ、本物かどうかの判断が、つかない訳だ。多分本物だとは思うのだけど、確信は持てない。
分かるだろうか? 写真で革の種類を特定するのって、意外と難しい。出品する側が分かっていなかったり、間違っていることもしばしば。それが都合よく働いて、実はこれはラクダ革ですよ、けれど出品者が水牛革だとかとして出してる場合もある。
あとは、どっからどう見たってアンテロープなのに、詳細不明とかとして出されてる場合とかがある。悪く働く場合は、だいたいこれの逆で、エナメルと言われてたのがただのガラスレザーだったり、最悪なことに合皮だったり、時折コルファムという珍しいけれどもウンチクとして憶えておきたくなるような経緯もあるけれども合皮なものだったりとか、あるあるよくある。よくあってもらったら困るのにすんごいよくある。
アンテロープというのは、レイヨウとかとも言われる。雑に言えば、ヤギの角を長くしたかのようなぐわんと曲がった立派な角をしている牛の仲間のこと、そいつらの革のこと。
象革も、レイヨウも、俗に言う、エキゾチックレザーと呼ばれるものだ。雑に言えば、珍しい革ってことだと思って貰えばいい。
色々ある。だいたい、よく見る革以外、って思っておいたらいいかと思う。
象革。ワニ革。トカゲ革。エイ革。サメ革。カバ革。ウナギ革。カメ革。鯉革。ラクダ革。ダチョウ革。
挙げれば挙げるときりがない。高級品の代名詞みたいなやつから、えっ? そんなの革になるの? というようなものまで色々と。
その中のいくつかは、ワシントン条約に引っ掛かっているものもある。だからこそ、より希少になり、値段がつり上がっているものも多々。
とはいえ、意外かもしれないけれども、生産量がゼロになるような完全な意味での生産禁止になっているものは意外なこと無い(確かそうだったと思う)
象とかまさにそう。
生産国の一例としては、あのお金が積み上がる紙束のようなゴミみたいなものになる、超絶スーパーインフレを起こして、一度通貨として消滅したことでも有名な、ジンバブエドルで有名なあのジンバブエなどがある。
まあ――この靴は関係無さそうだけれども。
ロゴ的に1970年代の靴だもの。ん? ひょっとして引っ掛かってる? いやでも、こうやって手に入ったから多分違う。いや、中古だし、元から国内にあったものだろうから、どっちにせよ関係なさげ。
革靴などは、ロゴやサイズなどの文字の記載などから、作られた年代が推定できる。ネットで情報は転がっているし(但し、ガチで探そうと思うと英語読まないといけないからそれなりにしんどい)、下手すればその品が載っていた当時のチラシが見つかったりして非常に面白い。
手に入れようとおもっている、若しくは、手に入れたそれの価値を、歴史背景という形で水増しして感じられるから。
あぁ、満足したからもういいや。
実は、合間合間に結構時間が飛んでいる。実は先ほど、実物が手元にやってきた。箱に入ったままだけれども。
かこんっ、ガサガサッ!
包みを剥がして、目に入ってきたそれは――んん……
手を伸ばした。人差し指をのばして、その腹で、ゆっくりと――触れた。
穏やかに息が漏れた。
触れば分かる。牛とは違う。水牛とも違う。厚みが違う。それでいて、柔らかさが、ざらっとしていそうでそんなことなくて、そして、ごくり。
爪を、立てた。恐る恐る、けれども、躊躇せず、線を引くつもりで指を引いた。固さとしなやかさが、爪を弾く。
「おおおぉぉ……」
なんか、台詞でもなかなか言わないような声が零れた。
そのまま頬づり――しそうになって、すんでのところで堪えた。
革好きな方になら分かっていただけるかと思う。
後出しになるけれども、答え合わせになっているか分からないけれども、想像して欲しい。
ハイカットのローテクスニーカーライクな作り。踝を覆ってあまりある履き口は、ふんわりと厚みあって柔らかい感じになっている。そのくせ、触ってみたら固いので履く前に手入れが必要かもしれない。
甲部分に飾り気は無い。外ハネであり、履き口の部分を除いたらチェッカーブーツっぽくも見える。3アイレットでもあるしその辺りもすごく。それ意外飾り気ない、無表情な作りのはずなのに、使われているのが象革だけあって、皺による皺々な主張がすごい。すんごい。もう十二分にド派手だ。
クレイジーカラーとかクレイジーパターンとか、原色ビビットな感じとは全く違う。なんか、重々しいというか、圧というか、圧倒される。
語彙が半壊してるのは、たぶん、それだけ呑まれてるってことだとおもう。書いてて気持ち悪さと、舞い上がり具合を感じる羽目になっている。
さて、と。
踵のことはあるとはいえ、やっぱり抑えたくない。履こう。そう、言いたいところだが、もう夜だ。楽しみは明日にとっておくことにした。
クリーム手にしてにんまりだ。きっと、狂おしいくらいに、でこぼこと鈍く光るぞ、磨いたら。
こんどこそ、これでおしまい。