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仲良し3人娘の怪談

独りでに動き出す雪だるま

作者: ウォーカー
掲載日:2021/02/01

 これは、怪談や噂話が大好きな、仲良し3人組の女子生徒たちの話。


 「独りでに動き出す雪だるま?」

「そう。

 山奥の村に、うちの別荘があるんだけど、

 その村で、

 独りでに動き出す雪だるまが出るって、

 そういう怪談があるんだよ。」

「それで、

 調査を兼ねたスキー旅行に行こうってことね。

 あなた、

 怪談をスキー旅行の口実にしてるでしょう。」

「雪だるまが動き出したら、

 可愛らしくてみんな喜ぶんじゃないかな。」


 同じ高校に通う、仲良し3人組の女子生徒たち。

黒くて長い髪の女子生徒。

髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。

おかっぱ頭の女子生徒。

これが、その3人。


その3人は、学校の中でも外でもいつも一緒。

放課後の学校に居残っておしゃべりをしたり、

一緒に街を歩いたり、どこかに出かけて行ったり。

特に、怪談や噂話が大好きで、

そういった話を聞きつけては、その謎を解明するために調査をする。

今回のスキー旅行も、発端は怪談だった。


 白銀の雪に覆われたスキー場。

ツインテールの女子が、雪の上をスキーで軽やかに滑っていく。

そして、

雪の中で尻もちを突いていた、おかっぱ頭の女子の前で、

雪飛沫を上げて止まった。

その少し後ろから、長い髪の女子が、

こちらも危なげ無く滑って来て止まった。

二人で揃って、おかっぱ頭の女子に手を差し出す。

「結構派手に転んでたけど、大丈夫?」

「一人で滑れるようになるまで、私が見ていてあげるわね。」

「・・・ありがとう。」

おかっぱ頭の女子は、二人の手を取って立ち上がった。

その3人がこのスキー場に来た事情。

それは、少し前まで遡る。


 時は正月。

冬も本番に入ろうかという時期。

学校はもちろん冬休み中。

その日その3人は、学校で顔を合わさない代わりに、

電話でおしゃべりをしていた。

ツインテールの女子が、砂糖たっぷりのコーヒーを一口含んで、

それから受話器に向かって話しかけた。

「でさ、

 うちの別荘がね、山奥にあるんだ。

 その山は避暑地なんだけど、冬は雪が積もるらしくって、

 新しくスキー場を作ったんだって。

 今度の連休に、3人でスキー旅行に行かない?」

それを聞いて、

おかっぱ頭の女子が嬉しそうに返事をする。

「スキー良いな~。

 わたし、スキーしたことないんだ。

 行ってみたい。」

しかし、長い髪の女子は、

長い髪を指で弄びながら心配そうに口を開く。

「でもあなた、

 学校の課題はちゃんと出来ているのかしら。

 この冬休みだけじゃなくて、来月が締切のものもあるのよ。」

その3人が通う高校は、ちょっとしたお嬢様学校。

進学の心配はいらないが、

その分、課題がたくさん課される。

その3人はまだ受験生ではなかったが、

受験シーズンに合わせて、課題や試験がいくつも予定されていた。

ツインテールの女子は、課題の提出遅れや補講の常連で、

先生に目をつけられている。

長い髪の女子の心配を他所に、

ツインテールの女子は涼しい顔で返事をする。

「平気平気。

 どんな課題でも、二日間もあれば何とかなるよ。

 試験だって、

 出題範囲を予想するの、あたし得意なんだ。」

そんな返事を聞いて、長い髪の女子の声が高くなる。

「あのねぇ。

 私はそういうことを言ってるんじゃないの。

 うちの学校は厳しいんだから、油断していると、

 あなただけ後輩になる、なんてこともありえるわよ。」

おかっぱ頭の女子が、慌てて取りなす。

「それだったら、

 勉強道具を持っていって、

 夜はその別荘で勉強するのはどうかな。

 3人で集まれば、苦手なところを教えてもらったりできると思うよ。」

「ぶー。

 せっかくのスキー旅行なのに、

 勉強道具なんて持っていったら、楽しい気分が台無しだよ。

 教科書やノートって、持ち運ぶには重たいし。」

おかっぱ頭の女子の提案に、

ツインテールの女子が、ぶーぶーと文句を言う。

それでも、渋々といった様子で従う。

「まあでも、勉強するなら3人の方がいいかな。

 それじゃあ、

 今度の連休にスキー旅行ってことで、二人ともいい?」

「わたしはもちろんいいよ。

 初めてのスキー旅行、楽しみ~。」

「スキー旅行じゃなくて、勉強合宿ね。

 ところであなた、

 急にスキーに行きたいなんて言い出して、

 何か隠していることがあるんでしょう。

 ちゃんと事情を説明して頂戴。」

長い髪の女子の指摘に、ツインテールの女子が膝を打つ。

「さすが!

 よく気が付いたねぇ。

 実はね、その村には出るらしいんだよ。

 人為らざるものが。」

ツインテールの女子は、スキー旅行の本当の目的を話し始めた。


都会から少し離れた山奥。

そこにあるひなびた村は、知る人ぞ知る避暑地として知られている。

それだけではなく、

ある怪談の舞台としても知られていた。

それは、独りでに動き出す雪だるまの言い伝え。

冬に雪が積もった時、決して雪だるまを作ってはならない。

もしも雪だるまを作ってしまった場合は、夜が遅くなる前までに壊しておくこと。

雪だるまを夜遅くまで残しておくと、わざわいが訪れるという。


その話を聞いて、長い髪の女子が早速反応した。

「災いってどういうことかしら。」

「人が死ぬとかじゃない?」

間髪入れず、ツインテールの女子がぞんざいな返事を返す。

おかっぱ頭の女子が、少し遅れて言葉を継ぐ。

「雪だるまのせいで人が死ぬなんてことがあったら、

 ニュースになってるんじゃないかな。」

「それが、

 最近はその災いは起こってないんだって。

 最後に起こったのは数十年前で、

 その時は村の中だけで解決して、外部には漏らさなかったらしいよ。」

ツインテールの女子の補足に、長い髪の女子が揚げ足を取る。

「外部に漏らさなかったのに、

 どうしてその話をあなたが知っているのかしら。」

「夏に別荘に行った時に、地元の子たちに聞いたんだよ。

 で、その言い伝えを確認したくて、

 ついでにスキー旅行もしようと思って、

 あんたたち二人を誘ったんだ。」

「どっちにしろ、わたしは行きたいな。

 スキーも怪談も、両方とも興味あるもの。」

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が、長い髪の女子に返事を促してくる。

長い髪の女子は少し逡巡したが、やはり好奇心には逆らえなかった。

「・・・あくまで勉強合宿よ。

 勉強のついでにスキーと怪談、それなら行ってもいいわよ。」

そんなこんなで、その3人は、

山奥の村に勉強合宿、ついでにスキーと怪談の調査に行くことになった。


 スキー旅行当日。

その3人は学校の授業が終わると、

各自の家には帰らず、学校の近くの公園へ向かった。

その公園から、ツインテールの女子の家の車で出発することになっていた。

待ち合わせ時間より少し早く到着したその3人は、

公園のベンチに座って迎えの車を待っていた。

「ねえ、喉乾かない?

 あの自販機で飲み物を買ってくるよ。」

ツインテールの女子が、

自動販売機で飲み物を買おうと立ち上がった。

自動販売機の方へ向かって歩いていって、それからギクリと立ち止まった。

「あー!ガム踏んだ!

 誰だよ、こんなところにガム捨てたの。」

怒りの悲鳴をあげて、靴の裏を見ながら地団駄を踏んでいる。

その様子を見て、

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子が駆け寄る。

「どうしたの?」

「ガム踏んだんだよ。

 靴の裏にべっとりくっついて、最悪。」

「ちょっと見せてご覧なさいな。」

長い髪の女子が屈んで促す。

ツインテールの女子が、見て見てとばかりに片足を上げて見せた。

靴の裏だけではなく他のものまで見えそうになるのを、

長い髪の女子がたしなめる。

「ちょっとあなた。

 スカートなんだから、そんなに足を上げないでいいわよ。

 ・・・どれどれ。」

靴の裏を覗き込む。

すると靴の裏には、誰かが吐き捨てたらしいガムが、

べっとりとくっついていた。

横から覗き込んだおかっぱ頭の女子が言う。

「ほんとだー。

 ガムがべっとりくっついてるよ。

 これは取るの大変だろうねー。」

「う~。

 これから旅行なのに、どうしよう。」

ツインテールの女子が、悔しさのあまり半べそになっている。

見かねた長い髪の女子が、腰に手を当てて言った。

「仕方がないわね、ちょっと待ってなさい。」

そう言って、鞄の中に手を入れる。

取り出したのは、ガムの包み。

ガムの一つを口に入れると、もごもごとガムを噛み始めた。

それから、噛んでいたガムを包み紙の上に吐き出した。

「ガムなんか急に噛み始めて、どうかしたの。」

「まだ噛み始めたばっかりなのに、勿体ないよ~。」

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子には、その意味が分からない。

長い髪の女子は返事をせず、

吐き出したガムをツインテールの女子の靴の裏にくっつけた。

元々くっついていたガムに、

自分が噛んだばかりのガムをくっつけて、混ぜるように揉む。

すると、

面白いくらい綺麗に、ガムは剥がれてしまった。

「ガムが取れた!」

「わ、わ、すごい。どうやったの?」

二人が上げる歓声に、長い髪の女子が応える。

「ガムにはガムをくっつけることが出来るのよ。

 同じガム同士でくっつければ、靴の裏から剥がしやすくなるの。

 本当は、氷で固めるか油で溶かすのが良いのだけれど。

 今は手元にこれしかないから、我慢して頂戴。」

長い髪の女子はそう言うと、

取ったガムを公園のゴミ箱に捨ててから、手を洗った。

「ありがと、助かったよ。」

ツインテールの女子の機嫌が直ったのに合わせたように、

間もなく迎えの車がやってきたのだった。


 車に揺られること数時間。

その3人は、山奥の別荘に到着した。

評判通り、別荘の周りは鄙びた場所だった。

途中で通り抜けた村には、

ちょっとした商店と、

それとバッティングセンターなどの娯楽施設がある程度だった。

ツインテールの女子の家の車は、

帰りの日になったら迎えに来ると言い残して、引き上げていった。

差し当たって、別荘に荷物を置いて、

その3人は早速スキーをするために出かけていった。


 その村のスキー場は、別荘のすぐ目の前にあった。

あるいは、スキー場と言えるかどうか。

ゲレンデと呼ぶには、あまりにも狭い。

大きめの山道程度の広さで、すぐ脇には森の木や茂みが顔を覗かせている。

どうやら、村にある小さな山を改装した程度のようだ。

まだ日も高い時間なのに、他に観光客の姿は無く、

そこにいるのは村の子供たちだけだった。

そんなスキー場とも言えないような光景を前にして、

その3人は呆然と立ち尽くしていた。

「・・・なんだか、予想していたのと違うわね。」

長い髪の女子が、ポツリと言葉をこぼす。

その前を、ソリに乗った村の子供が滑り降りていった。

脇にある茂みでは、獲物を咥えた狸のような動物が穴を掘っていた。

「うふふ。

 スキー場って言うより、村の遊び場だよね。」

おかっぱ頭の女子が可笑しそうに、口元を両手で覆いながら言う。

ツインテールの女子が口を尖らせる。

「あたし、スノボが良かったのに、

 こんなに狭いんじゃスノボは無理だよ。」

「ゲレンデ部分以外は雪も少ないし、

 スキーだってどうかしら。」

ツインテールの女子と長い髪の女子の愚痴に、

おかっぱ頭の女子が焦って応える。

「ほ、本来は避暑地って話だものね。

 スキー場の方はきっとまだ作りかけなんだよ。

 わたしはスキーやったことないし、教えて欲しいな。

 ね?ね?」

「・・・そうね。

 折角ここまで来たのだから、楽しみましょう。」

そうしてその3人は、

気を取り直してスキーを楽しむことにした。


 狭くてささやかなスキー場でも、

実際にスキーで滑り始めてみると楽しいものだった。

上級者には物足りないかもしれないが、初心者と一緒に滑るには悪くない。

その3人は、ひとしきりスキーを楽しんだ。

それから、雪溜まりに腰を下ろして休憩をしていると、

村人らしい年老いた男が近付いてきて話しかけてきた。

「お嬢ちゃんたち、もしかして外から来たのかな。」

「はい、そうですが。」

長い髪の女子が訝しげに応えると、

年老いた男はゆっくりと頭を下げて微笑んでみせた。

「これは失礼した。

 私は、この村で村長みたいなことをしている者です。

 外の人から見て、この村は如何ですかな。」

年老いた男が村長だと名乗ると、

おかっぱ頭の女子が微笑んで応えた。

「ほのぼのしていて楽しいです。

 わたしはスキー初めてなので、ゆっくり滑れて丁度いいですし。」

「こんな小さなスキー場、珍しいよね。

 リフトがただのロープなところとか・・・ぐえっ!」

そう言いかけたツインテールの女子を、長い髪の女子が小突く。

そんな様子を見て、村長である年老いた男が声を出して笑った。

「あっはっは。

 これは面目無い。

 なにせここはまだ、スキー場にしようと決まったばかりですからな。

 今はまだ、村の子供たちの遊び場でしかないのですよ。

 スキー場にするには、ここは手狭ですからなぁ。

 それに、雪が少ない。

 山の上は雪が多いのですが、麓のここは雪が少なくて。

 これでも人工降雪機を使って雪を増やしているくらいでして。

 ・・・それはそうと、

 あなたたちにちょっとお願い事があるのですが、よろしいですかな。」

「お願い事?」

その3人がちょっと真剣な顔になる。

その様子を確認して、村長が話し始めた。

「実はこの村では、

 いくつかの掟、つまり決まりごとがありまして。

 その中の一つに、

 雪だるまを作らない、というものがあるのです。」

「あっ、それって怪談の・・・」

ツインテールの女子が言葉を溢し、その3人は顔を見合わせた。

村長が、ちょっと意外そうに話を続ける。

「おや、ご存知でしたか。

 口さがない幼子が、広めてしまいましたかな。

 実は、この村では昔から、

 雪だるまのことを雪達磨ゆきだるま様と呼んで、神聖な存在としているんです。

 神聖なものなので、粗末にすると罰が当たる。

 村の子供たちには、そう教えています。

 だから、あなたたちもこの村に滞在する間は、

 雪だるまは作らないで欲しいのです。」

その3人はまた顔を見合わせて、それからいくつか質問を返した。

「それは構いませんが、

 いくつか聞いてもよろしいでしょうか。」

「いいですよ、どうぞ。」

「もしも雪だるまを作ってしまったら、どうなるのでしょう。」

「毎日、夜になる前に村の大人が見回りをしていて、

 雪だるまは見つけ次第、壊すことにしています。」

「神聖な雪だるまを壊すの?

 それって矛盾してない?」

「災いを防ぐため、と言い伝えられています。」

「雪だるまを壊さずに置いておいたら、どうなるの?

 怪談の通りに、独りでに動き出すのかな。

 雪だるまが歩き出したら、可愛らしいとわたしは思うんだけど。」

おかっぱ頭の女子ののんびりとした疑問に、村長は苦笑いをする。

「うーん。

 私も実際に見たわけでは無いのですが、

 災いが起こるらしいと伝えられています。

 最後に災いが起こったのは、私がとても小さかった頃でしてね。

 その時は、人の被害こそ無かったのですが、

 村の建物がほとんど壊れてしまうほどの被害が出ました。

 それを避けるためにも、協力していただきたいのです。」

村長の話を総合すると、この村では、


雪だるまは神聖なものなので作らない。

大人が毎日見回りをして、夜になる前に雪だるまを壊している。

もしも雪だるまを夜まで残しておくと、災いが起こる。

何十年も前の災いでは、

人に被害は無かったが村の建物がほとんど壊れてしまった。


ということのようだ。

内容はおおよそ、怪談で聞いていた通りのようだ。

理由などは分からないが、

スキー旅行に来ただけの自分たちが逆らっても、村人たちに迷惑なだけだろう。

その3人は素直に頷いた。

長い髪の女子が代表して返事をする。

「わかりました。

 言いつけの通りにします。」

「それはありがとう。

 実のところ、見回りはほとんど年寄りでやってましてな。

 雪だるまを探す作業は、骨が折れるのですよ。

 手間を省いて頂けると助かります。

 ではそういうことで・・・」

話を切り上げようとする村長の後ろから、

小さな子供たち数人が、ぴょこんと顔を覗かせた。

うずうずした様子で、村長にしがみついてくる。

「お爺ちゃん、お話終わった?」

「あたしたち、このお姉ちゃんたちと遊びたい!」

小さな子供たちの様子に、村長は優しく微笑んでみせた。

「ほっほっほ。

 まったく、元気な子たちじゃ。

 すみませんがあなたたち、

 この子たちの遊び相手になってやってくれませんかのう。

 きっと、遊び相手が少なくて寂しいのですよ。」

「はい、もちろん。」

その3人も微笑んで返事をした。

そうしてその3人は、村の子供たちと遊ぶことになった。


 「それっ!」

「やったな、お返しよ!」

村のスキー場と言う名の遊び場で、

その3人と村の子供たちが、雪玉を作って雪合戦をしている。

お互いに雪まみれになるような白熱した戦いになっていた。

そうしていると、雪まみれになった子供が、

雪玉をゴロゴロと転がし始めた。

おかっぱ頭の女子が、膝に手を突いて屈み込んで尋ねる。

「何してるの?」

「囮にするために、雪だるまを作ってるんだよ。」

「雪だるま?

 でも、雪だるまは作っちゃ駄目だって。」

咎めるような言葉に、村の子供は鼻先で笑って返した。

「僕たち村の子供は、みんなやってるよ。

 雪だるまに服を着せたりして、雪合戦の囮にするんだ。

 どうせ夕方に大人が見回りに来て、全部壊しちゃうけどね。

 自分で壊す手間が省けるから、丁度いいよ。」

話を聞いてその3人は肩をすくめた。

都会でも田舎でも、子供たちは大人を上手く欺いて利用するものだ。

ツインテールの女子が、にやりとほくそ笑んで、

その子供と並んで雪玉を作り始めた。

「そっか!

 じゃああたしも、雪だるまを作って囮にしよう。

 でっかい雪だるまを作るぞ。」

おかっぱ頭の女子も、可笑しそうに笑ってそれに続いた。

「郷に入れば郷に従え、だよね。

 わたし、雪だるまってあんまり作ったこと無かったんだよね。」

「ちょっと、止めておきなさいよ。」

長い髪の女子が止めるのも聞かず、

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子は協力して、

人の大きさ程もある雪だるまをひとつ作ってしまった。

仕上げに、ツインテールの女子が、

自分が被っていた毛糸の帽子を脱いで、雪だるまの頭に被せた。

「これでよし!」

「遠目には、人に見えるかも知れないね。」

雪だるま作りを楽しんでから、

その3人はまた雪合戦へと戻っていった。


 それからその3人は、村の子供たちとひとしきり遊んで、

夕方頃に別荘へと戻っていった。

別荘に戻って、冷え切った体をお風呂で温めながら、

湯船の中でツインテールの女子がふと呟いた。

「あ、帽子忘れてきちゃった。

 まあいいか、明日取りに行こうっと。」

それからその3人は、夕飯を作って食べると、

旅の疲れもあって、勉強もそこそこに早々に床に就いたのだった。


 その3人が寝静まった深夜。

遠くから、ずしん・・ずしん・・と、

地響きが聞こえてきた。

最初にそれに気が付いたのは、おかっぱ頭の女子だった。

寝ぼけ眼でベッドから上半身を起こすと、周りをゆっくりと見渡した。

「・・・地震、かな。」

しかしその地響きは等間隔に続いていて、地震とは違うようだ。

しばらくして、他の二人も目を覚ました。

「・・・どうしたの、トイレ?」

「違うよ。

 何、この地響き。」

ツインテールの女子がベッドから出て窓に近付いた。

カーテンを開けて、窓の外を確認する。

すると、そこには、

別荘の前の山道の先に、大きな白い塊が立っているのが見えた。

高さは5階建てのビルほどはあるだろうか。

ちょっとした丘ほどの大きさの塊が、

ずしんずしんと地響きを鳴らしながら、ゆっくりと山を下って来ていた。

「・・・何、あれ。」

「あの白いの、雪の塊じゃないかしら。」

「もしかして、怪談にあった、独りでに歩き出す雪だるま?」

「怪談の雪だるまって、あんなに大きなものだったんだ。

 わたし、子供くらいの大きさかと思ってた。

 あんな大きさの雪だるまが独りでに歩き出したら、災いにもなっちゃうよ。」

「こうしていられないわね。

 外に出ましょう。

 村の人たちに知らせないと。」

その3人はスキーウェアに着替えると、

荷物も何も持たずに別荘の外へと飛び出していった。


 別荘の外の山道では、

既に村の大人たちが集まり始めていて、騒ぎになっていた。

投光器が用意されて、大きな白い塊が照らし出されている。

それは確かに、大きな雪だるまだった。

ずんぐりした体には、小さな雪の四肢が付いていて、

下にいくほど太くなる三角形の形をしていた。

歩くというよりは体を引きずるという感じで、山道をずりずりと歩いている。

大きな雪だるまが向かう先は、

山を下った先にある、近くの村のようだ。

その3人が白い息を吐きながら、山道に姿を現した。

大きな雪だるまの姿を見上げて、信じられない様子で言葉を漏らす。

「不格好だけど、

 やっぱり雪だるまだよ、あれ。」

「ええ、そうね。

 信じられないけれど、あの怪談は本当だったわ。」

「まずいよ。

 このまま進むと、村が踏み潰されちゃう。」

大きな雪だるまが進む先では、村の大人たちが集まって、

土嚢を積んだり柵を立てたりしていた。

「こっちだ!

 どんどん持ってきてくれ!」

しかしそれも虚しく、大きな雪だるまは、

障害物を踏み潰すようにしてその上を通り過ぎていった。

慌てて大人たちが避難する。

跡に残ったのは、大きな雪の轍だけだった。

「だめだ!止められない。」

「まさか、本当に大雪達磨おおゆきだるま様が現れるだなんて。」

「雪だるまの撤去は、ちゃんとしておいたはずのに。」

それを呆然と見ているその3人の目の前を、

大きな雪だるまが通り過ぎようとした、その時。

目の前を進んでいた大きな雪だるまが、

雪溜まりに足を取られて、よろけて地面に手を突こうとした。

大きな雪だるまの腕が、その3人の頭上を通り過ぎる。

その先にあったのは、その3人が泊まっていた別荘。

別荘は無残にも、ぺちゃんこに潰されてしまった。

その拍子に、頭上から何かがポトリと落ちてきた。

大きな雪だるまが落としたであろうそれは、

ツインテールの女子が忘れてきた、毛糸の帽子だった。

「・・・これ、あたしの帽子だ。

 もしかして、あの大きな雪だるまって、

 日中にあたしが作った雪だるま?」

おかっぱ頭の女子が続く。

「帽子を被せてあったから、

 雪だるまに見えなくて、撤去されなかったとか?」

事実に気が付いて、長い髪の女子が汗を一滴垂らした。

「もしそうなら、私たちは無関係とは言えないわね。

 どうにか出来ないかしら。」

「どうにかって言っても、

 あんなデカブツをあたしたちでどうにかするなんて無理だよ。

 別荘も潰されちゃったんだよ。」

改めて、別荘があった場所を見てみると、

別荘が無残な瓦礫の山に姿を変えていた。

その3人が血相を変える。

「別荘を一撃で壊しちゃうような雪だるまが村にたどり着いたら、

 大変なことになっちゃうよ。」

長い髪の女子が、こめかみに指を当てて声をあげる。

「考えるのよ!

 いくら図体が大きくても、相手はただの雪だるまよ。

 私たちが知っている知識で、役に立つことがあるはずよ。」

「お湯をかけて溶かす、とか。」

「そんなに大量のお湯、どこから持ってくるの。」

「じゃあ、落とし穴を掘って落とすとか。」

「そんなに大きな落とし穴、今から掘っても間に合わないよ。」

その3人は頭を突き合わせてうんうんと唸った。

その間も大きな雪だるまは、障害物を物ともせずに進んでいく。

大きな雪だるまを止める術は無い、

諦めかけた、その時。

「そうだ、ガムだよ!」

おかっぱ頭の女子が、素っ頓狂な声を上げた。

長い髪の女子とツインテールの女子が、驚いて尋ねる。

「急に大声を出してどうしたの。」

「何か思いついた?」

おかっぱ頭の女子が、わたわたと慌てながら言う。

「だから、ガムだよ!」

「ガムがどうしたっていうの。」

「落ち着いて、私たちにも分かるように説明して頂戴。」

おかっぱ頭の女子が、一呼吸置いてから言う。

「二人とも、今日ここに来るまでの事、覚えてる?」

「ここに来るまで?

 学校の授業を受けて、公園で待ち合わせをして、車で来たわね。」

「公園であたしがガムを踏んだんだっけ。」

「そう、そのガム。

 靴の裏に張り付いたガムを、どうやって取ったか覚えてる?」

「ガムにガムを付けて取ったわね・・・あっ!」

おかっぱ頭の女子が言うことの意図が伝わったのか、

長い髪の女子とツインテールの女子が、目を丸くした。

「そうか。

 雪だるまには、雪をつければいいんだ!

 土嚢や柵では止められなかったけど、同じ雪なら足止めできるかも。」

「あの大きな雪だるまは、今でも足を擦るようにして歩いてるわ。

 その体に雪をつけていって、もっと体が大きくなったら、

 動けなくなるでしょうね。」

「うん!そうだよ。

 村の大人の人たちに伝えて、協力してもらおう!」

その3人は以心伝心、

全てを言葉にしなくても、お互いの考えが伝わったようだった。

お互いに頷き合うと、

丁度向こうに村長の姿を見つけて、そちらへと駆けていった。


 「なんと。

 大雪達磨様に雪玉をぶつけろと、あなたたちはそう仰るのか。」

村長である年老いた男は、目を丸くして言った。

その3人は、興奮気味に説明を続ける。

「はい、そうです。

 あの大きな雪だるまの体は、大きいけれど、

 雪であることには違いがありません。」

「土嚢や柵を並べてもびくともしないけど、同じ雪ならくっつくかも。」

「あの大きな雪だるまは、

 今でさえ、自分の重さのせいで動くのがやっとです。

 もっと雪をくっつけて大きく重くしてやれば、

 動くこともできなくなるかも。」

そんな説明を聞いて、

村長は腕組みをして考え込んでしまった。

しかしそれは少しの間だけのことで、すぐに頷いて返した。

「他にあてはないし、考えている時間はなさそうですな。

 いいでしょう。

 あなたたちの話に乗るとしよう。

 しかし、

 大雪達磨様に雪をぶつけるとは言っても、どうしたら良いものか。」

そんな村長の疑問に、その3人はニヤリと笑って返した。

「それは簡単。

 この村には、雪合戦の達人たちが何人もいるんですもの。」

「あの子たちならきっと、雪玉はいくつでも作ってくれるよ。」

「それと、村の設備をいくつか使わせてもらいたいんですが。」

そうしてその3人と村長は、

山道を下っている大きな雪だるまの横を追い越して、

村へと下っていった。


 「もうだめだ!足止めも限界だ。」

「大雪達磨様が、村に到達するぞ!」

村の大人たちが悲痛な叫び声を上げる。

足止めをしようとした村人たちの苦労も虚しく、

大きな雪だるまが、間もなく村にまでたどり着こうとしていた。

村の端にある民家を、

その巨体が押し潰そうとした、その時。

大きな雪だるまの大きな顔の、その横っ面に、

強烈な一撃が浴びせかけられた。

大きな雪だるまは思わず体をふらつかせた。

足を止めて、一撃が飛んで来た方を見る。

そこには、

バッティングセンターで使うピッチングマシーンが、

ずらっと並べられていた。

大きな雪だるまの横っ面を叩いたのは、

ピッチングマシーンから打ち出された雪玉だったのだ。

傍らでは、村の子供たちがせっせと雪玉を量産している。

仁王立ちをしていた長い髪の女子が、

ピッチングマシーンを撫でながら、大きな雪だるまに大声で言った。

「どう?

 効いたでしょう。

 ピッチングマシーンに雪玉を詰めた、雪の大砲よ。

 一発だけじゃないわ、弾はまだまだあるわよ。

 全門斉射、撃て!」

長い髪の女子の号令の元、

並べられたピッチングマシーンたちが、砲弾の如く雪玉を撃ち出し始めた。

雪玉の大群が、大きな雪だるまに襲いかかる。

雪玉は命中すると弾けて散ってしまうが、

いくつかは大きな雪だるまの体にこびりついた。

それを確認して、長い髪の女子が満足そうに頷く。

「よし!

 思った通り、雪が体にくっついてるわ。

 みんな、続けて頂戴!」

他方では。

ツインテールの女子が指揮を執って、人工降雪機がいくつも並べられていた。

「こっちもいくよ、攻撃開始!」

ツインテールの女子の号令の元、人工降雪機が一斉に稼働を始める。

上空に向けて、人工の雪が吹きすさぶ。

人工降雪機の軌道が交差し、

雪の十字砲火となって大きな雪だるまに襲いかかった。

大きな雪だるまの腰から上が見る見る肥え太っていく。

「よし!効いてる。

 これからあたしが距離を詰める!

 みんなそのまま頼んだよ!」

ツインテールの女子が、持ち運びできる小型の人工降雪機を抱えて、

大きな雪だるまの方へ果敢に駆け出していった。

その姿は、火炎放射器を投射する兵隊のようだった。

そんな雪の戦場から少し離れたところでは。

おかっぱ頭の女子が、村人たちと共にお湯のバケツリレーをしていた。

「みんな、火傷しないように注意してね。

 お湯は熱湯じゃなくても効果があるはずだから。」

後方でお爺ちゃんお婆ちゃんたちがお湯を沸かし、

お湯が入ったバケツやたらいを、村の人たちが並んで受け渡ししていく。

先頭付近では、そのお湯を大きな雪だるまの足元付近にかけていく。

お湯をかけられた足は、溶けて形が曖昧になっていった。

雪の大砲で動きを止め、

雪の火炎放射器で肥え太らせて、

お湯のバケツリレーで足を溶かす。

ひとつひとつの攻撃は、それだけでは効果が薄いかもしれない。

しかし、三つの攻撃が一体となって、大きな雪だるまを確実に消耗させていった。

顔に雪玉を浴びせられて身動きが取れず、

人工降雪機で上半身が重くなり、

お湯で足を溶かされて、

やがて大きな雪だるまはバランスを崩すと、

大きな地響きとともに地面に崩れ落ちたのだった。


 「やったぁ!あの雪だるまを倒したよ!」

「みんな、よくやったわね!」

「誰も怪我してない?」

大きな雪だるまを倒して、その3人が歓声を上げる。

それにつられて、村人たちも歓声を上げた。

「俺たち、大雪達磨様を倒しちまったよ。」

「まさか、災いを人間の手で退けただなんて。

 それもこれも、あんたたち3人のおかげだ。」

その3人の元に、村人たちが駆け寄る。

そうして、ひとしきり感謝の言葉を頂いて、

それからその3人と村人たちは、大きな雪だるまの残骸を確認した。

大きな雪だるまは地面に倒れると、砕けてばらばらになってしまっていた。

あちこちに雪の塊と中身が散らばっている。

それを見て、村人たちが声を漏らした。

「・・・なんだこりゃ。」

砕けた大きな雪だるまの中から現れたのは、

木の根や動物の臓物、それに蔦やつららなどだった。

それらがまるで血管や筋肉や臓器のように、

大きな雪だるまの体内に張り巡らされていた。

周囲に広がる臓物の臭いに、村人たちが顔をしかめる。

長い髪の女子が口元をハンカチで押さえながら、

落ちていた残骸を摘んで見せた。

「これを見て頂戴。

 木の根や枝が、まるで血管や筋肉や神経みたい。

 動物の臓器や木の根が雪の中に詰まって、

 巨大な生き物となって大きな雪だるまを動かしていたんだわ。」

しかしその言葉を、ツインテールの女子が否定する。

「まさか。

 こんなの、ただのゴミ屑だよ。

 山の動物が獲物を食べて、残りを雪の中に埋めただけ。

 それが偶然、あの雪だるまの体内に取り込まれてたんだよ。

 生き物として機能するわけがない。」

おかっぱ頭の女子が、控え目に反論する。

「それはどうかな。

 生き物がどうやって発生したのか、まだ解き明かされてないんだよ。

 森の動物さんたちが偶然それを再現しちゃうことも、あるんじゃないかな。」

それには誰も応えられない。

しばらくの間を空けて、長い髪の女子がポツリと言った。

「その話は置いておくとして。

 村を守れたのはよかったけれど、

 私たち、泊まるところが無くなってしまったわね。」

「別荘、潰れちゃったんだっけ。

 親になんて説明しよう。」

「折角泊まらせてくれたのに、悪いことしちゃったね。」

「それだけではないわ。

 私たちにとっても大問題よ。

 学校の課題のノートや教科書は、あの瓦礫の下敷きになってるのよ。」

「・・・あの中から掘り起こすの?」

一晩にして村の英雄になったその3人だったが、

ただの高校生として直面した問題に、頭を悩まされたのだった。


 それから夜が明けて。

その3人は災いを退けた村の英雄として歓待を受けた。

宿泊場所は村で用意するので、もっと泊まっていって欲しいと懇願されたが、

学校があるからと丁重にお断りして、翌日には迎えの車で家に帰っていった。

課題のノートや教科書は、村人たちの協力もあって何とか回収できたが、

その進捗状況は言うに及ばず。

翌週の週末には再び、その3人で集まって勉強会を開くことになった。


 日にちはあっという間に過ぎ去って、次の週末。

ツインテールの女子の家に、その3人が集まった。

名目は勉強会だったが、

しかしやはり話題の中心は勉強ではなく、あの村での出来事についてだった。

ツインテールの女子が、テーブルの上に身を乗り出して言う。

「聞いた?

 あの村、来年にはスキー場をオープンする予定なんだって。」

「あら、スキー場にするには雪が足りないって言ってなかったかしら。」

長い髪の女子が、指先でペンを振りながら言った。

ツインテールの女子が、頭の後ろで腕を組んで話す。

「そこはそれ、

 独りでに動き出す雪だるまがあれば、山から雪を運んできてくれるって。

 あんなことがあったのに、

 独りでに動き出す雪だるまを逆に利用するだなんて、

 あの村の連中も、ちゃっかりしてるよねー。」

おかっぱ頭の女子が、もじもじと上目遣いで言う。

「そんなに簡単に、独りでに動き出す雪だるまが作れるかな。

 あの時は、偶然再現されることもあるなんて言っちゃったけど、

 よく考えたらそんなの、そうそう出来るとも思えないよね。

 それこそ、百年に一度も無いんじゃないかな。」

「その時は、人工降雪機でも使うんじゃないの。

 それか、雪の大砲で山から雪を運ぶとか。」

「それはいいから、二人とも口より手を動かしなさい。」

「はーい。」

長い髪の女子のお小言に、

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が声を揃えて返事をする。

それからしばらく、3人は黙々とペンを走らせた。

部屋の中に、時計の進む音とペンが走る音だけが響く。

そんな静寂を打ち破ったのは、おかっぱ頭の女子の呟きだった。

「・・・あの大きな雪だるま、

 独りでに動き出して、何をしようとしてたんだろうね。」

「そんなの、村を壊そうとしたんじゃないの。」

「何のために?」

長い髪の女子が、うっかり疑問を挟んでしまう。

「さあ。

 愚かな人間に、罰を与えたかったんじゃないの。」

ツインテールの女子が、ぶっきらぼうに応えた。

しかし、おかっぱ頭の女子には違う考えがあるようだ。

おかっぱ頭の女子が、ポツリと言った。

「もしかしたらね、一緒に遊びたかっただけなんじゃないかな。」

長い髪の女子とツインテールの女子が、意外そうな顔をする。

「遊びたかった?

 独りでに動き出した雪だるまが、人間と?」

「そう。

 だって、もしも村を壊そうとしたのなら、

 たとえわたしたちに邪魔をされたとしても、

 転がるなり何なりすれば、出来たと思うの。

 歩いていく必要無いもの。

 それに、あの大きな雪だるまが別荘を壊した時のこと、覚えてる?

 あの時、大きな雪だるまは、転びそうになって手を突いただけなんだよ。

 その先に、たまたま別荘があっただけ。

 ううん、もしかしたら本当は、

 近くにいたわたしたちの上に転びそうになって、それを避けたのかも。」

「あなたがそう思う根拠はあるのかしら。」

「根拠ってほどじゃないけど、

 何十年も前にあった災いの話を覚えてる?

 その時は村の建物がほとんど壊されたけど、人の被害は無かったって。」

そこまで話を聞いて、ツインテールの女子が腕組みをして言った。

「言われてみれば、変だよねそれ。

 村を破壊するのに、わざわざ人を避けて壊したみたい。

 むしろ、人に危害を加えるつもりは無かったのかも。」

「そうだとしても、じゃあ目的は何なのかしら。」

「わたしたちや、村の子供たちと同じだよ。

 きっと、独りでいるのが寂しかったんだよ。

 村の人たちに遊んで欲しかったんだよ。

 だから、わざわざ人を潰さないようにして、

 村に向かってたんじゃないかな。」

「それじゃ私たち、

 あの雪だるまに悪いことをしてしまったわね。」

その3人がしんみりとした時、

ツインテールの女子が口を大きく開けた。

「あっ!思い出した。」

「・・・何?

 勉強の邪魔をしないでくれるかしら。」

「勉強なんて、してなかったけどね~。」

そんな二人の話は置いておいて、ツインテールの女子が言う。

「あたしたち、先週はおみやげを買う暇もなかったじゃない。」

「うんうん、それで?」

「何か記念になるものは無いかなーと探したら、これが見つかったんだよね。」

ツインテールの女子が、机の引き出しを何やらガサゴソ漁ると、

手に何かを持ってやってきた。

その手に乗せられていたのは、あの雪だるまに被せられていた毛糸の帽子だった。

帽子を逆さにして振ると、

その中から、小さな木の枝が一本、ポロッと落ちてきた。

その小さな木の枝を、その3人が頭を重ねるようにして覗き込む。

「これ、あの大きな雪だるまの体の一部、だよね。」

「ええ、そうね。

 こうして枝だけになってしまえば、無害なものね。」

「・・・ねえ、春になったら、またあの山に行かない?

 雪だるまと遊ぶのは無理かもしれないけど、

 こうして木や花となら、一緒に遊べると思う。」

「そうだね。

 雪だるまになる前の山と、一緒に遊びたい。」

「それは良いわね。

 また3人で、あの山に挨拶に行くとしましょう。」

それから誰からともなく、小さな小枝を指で摘んで見せる。

「春はもうすぐ、だね。」

「・・・うん。」

その小さな木の枝には、

小さな芽が顔を覗かせていたのだった。



終わり。


 今週は関東にも雪が降ったので、雪をテーマにしました。


もしも雪だるまが独りでに動き出すとしたら、

内部に生き物としての材料が揃った場合かもしれない。

自分の意思で動けるようになったら、雪だるまは何をしようとするだろうか。

そのようなことを考えて、この話を作りました。


お読み頂きありがとうございました。


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