独りでに動き出す雪だるま
これは、怪談や噂話が大好きな、仲良し3人組の女子生徒たちの話。
「独りでに動き出す雪だるま?」
「そう。
山奥の村に、うちの別荘があるんだけど、
その村で、
独りでに動き出す雪だるまが出るって、
そういう怪談があるんだよ。」
「それで、
調査を兼ねたスキー旅行に行こうってことね。
あなた、
怪談をスキー旅行の口実にしてるでしょう。」
「雪だるまが動き出したら、
可愛らしくてみんな喜ぶんじゃないかな。」
同じ高校に通う、仲良し3人組の女子生徒たち。
黒くて長い髪の女子生徒。
髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。
おかっぱ頭の女子生徒。
これが、その3人。
その3人は、学校の中でも外でもいつも一緒。
放課後の学校に居残っておしゃべりをしたり、
一緒に街を歩いたり、どこかに出かけて行ったり。
特に、怪談や噂話が大好きで、
そういった話を聞きつけては、その謎を解明するために調査をする。
今回のスキー旅行も、発端は怪談だった。
白銀の雪に覆われたスキー場。
ツインテールの女子が、雪の上をスキーで軽やかに滑っていく。
そして、
雪の中で尻もちを突いていた、おかっぱ頭の女子の前で、
雪飛沫を上げて止まった。
その少し後ろから、長い髪の女子が、
こちらも危なげ無く滑って来て止まった。
二人で揃って、おかっぱ頭の女子に手を差し出す。
「結構派手に転んでたけど、大丈夫?」
「一人で滑れるようになるまで、私が見ていてあげるわね。」
「・・・ありがとう。」
おかっぱ頭の女子は、二人の手を取って立ち上がった。
その3人がこのスキー場に来た事情。
それは、少し前まで遡る。
時は正月。
冬も本番に入ろうかという時期。
学校はもちろん冬休み中。
その日その3人は、学校で顔を合わさない代わりに、
電話でおしゃべりをしていた。
ツインテールの女子が、砂糖たっぷりのコーヒーを一口含んで、
それから受話器に向かって話しかけた。
「でさ、
うちの別荘がね、山奥にあるんだ。
その山は避暑地なんだけど、冬は雪が積もるらしくって、
新しくスキー場を作ったんだって。
今度の連休に、3人でスキー旅行に行かない?」
それを聞いて、
おかっぱ頭の女子が嬉しそうに返事をする。
「スキー良いな~。
わたし、スキーしたことないんだ。
行ってみたい。」
しかし、長い髪の女子は、
長い髪を指で弄びながら心配そうに口を開く。
「でもあなた、
学校の課題はちゃんと出来ているのかしら。
この冬休みだけじゃなくて、来月が締切のものもあるのよ。」
その3人が通う高校は、ちょっとしたお嬢様学校。
進学の心配はいらないが、
その分、課題がたくさん課される。
その3人はまだ受験生ではなかったが、
受験シーズンに合わせて、課題や試験がいくつも予定されていた。
ツインテールの女子は、課題の提出遅れや補講の常連で、
先生に目をつけられている。
長い髪の女子の心配を他所に、
ツインテールの女子は涼しい顔で返事をする。
「平気平気。
どんな課題でも、二日間もあれば何とかなるよ。
試験だって、
出題範囲を予想するの、あたし得意なんだ。」
そんな返事を聞いて、長い髪の女子の声が高くなる。
「あのねぇ。
私はそういうことを言ってるんじゃないの。
うちの学校は厳しいんだから、油断していると、
あなただけ後輩になる、なんてこともありえるわよ。」
おかっぱ頭の女子が、慌てて取りなす。
「それだったら、
勉強道具を持っていって、
夜はその別荘で勉強するのはどうかな。
3人で集まれば、苦手なところを教えてもらったりできると思うよ。」
「ぶー。
せっかくのスキー旅行なのに、
勉強道具なんて持っていったら、楽しい気分が台無しだよ。
教科書やノートって、持ち運ぶには重たいし。」
おかっぱ頭の女子の提案に、
ツインテールの女子が、ぶーぶーと文句を言う。
それでも、渋々といった様子で従う。
「まあでも、勉強するなら3人の方がいいかな。
それじゃあ、
今度の連休にスキー旅行ってことで、二人ともいい?」
「わたしはもちろんいいよ。
初めてのスキー旅行、楽しみ~。」
「スキー旅行じゃなくて、勉強合宿ね。
ところであなた、
急にスキーに行きたいなんて言い出して、
何か隠していることがあるんでしょう。
ちゃんと事情を説明して頂戴。」
長い髪の女子の指摘に、ツインテールの女子が膝を打つ。
「さすが!
よく気が付いたねぇ。
実はね、その村には出るらしいんだよ。
人為らざるものが。」
ツインテールの女子は、スキー旅行の本当の目的を話し始めた。
都会から少し離れた山奥。
そこにある鄙びた村は、知る人ぞ知る避暑地として知られている。
それだけではなく、
ある怪談の舞台としても知られていた。
それは、独りでに動き出す雪だるまの言い伝え。
冬に雪が積もった時、決して雪だるまを作ってはならない。
もしも雪だるまを作ってしまった場合は、夜が遅くなる前までに壊しておくこと。
雪だるまを夜遅くまで残しておくと、災いが訪れるという。
その話を聞いて、長い髪の女子が早速反応した。
「災いってどういうことかしら。」
「人が死ぬとかじゃない?」
間髪入れず、ツインテールの女子がぞんざいな返事を返す。
おかっぱ頭の女子が、少し遅れて言葉を継ぐ。
「雪だるまのせいで人が死ぬなんてことがあったら、
ニュースになってるんじゃないかな。」
「それが、
最近はその災いは起こってないんだって。
最後に起こったのは数十年前で、
その時は村の中だけで解決して、外部には漏らさなかったらしいよ。」
ツインテールの女子の補足に、長い髪の女子が揚げ足を取る。
「外部に漏らさなかったのに、
どうしてその話をあなたが知っているのかしら。」
「夏に別荘に行った時に、地元の子たちに聞いたんだよ。
で、その言い伝えを確認したくて、
ついでにスキー旅行もしようと思って、
あんたたち二人を誘ったんだ。」
「どっちにしろ、わたしは行きたいな。
スキーも怪談も、両方とも興味あるもの。」
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が、長い髪の女子に返事を促してくる。
長い髪の女子は少し逡巡したが、やはり好奇心には逆らえなかった。
「・・・あくまで勉強合宿よ。
勉強のついでにスキーと怪談、それなら行ってもいいわよ。」
そんなこんなで、その3人は、
山奥の村に勉強合宿、ついでにスキーと怪談の調査に行くことになった。
スキー旅行当日。
その3人は学校の授業が終わると、
各自の家には帰らず、学校の近くの公園へ向かった。
その公園から、ツインテールの女子の家の車で出発することになっていた。
待ち合わせ時間より少し早く到着したその3人は、
公園のベンチに座って迎えの車を待っていた。
「ねえ、喉乾かない?
あの自販機で飲み物を買ってくるよ。」
ツインテールの女子が、
自動販売機で飲み物を買おうと立ち上がった。
自動販売機の方へ向かって歩いていって、それからギクリと立ち止まった。
「あー!ガム踏んだ!
誰だよ、こんなところにガム捨てたの。」
怒りの悲鳴をあげて、靴の裏を見ながら地団駄を踏んでいる。
その様子を見て、
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子が駆け寄る。
「どうしたの?」
「ガム踏んだんだよ。
靴の裏にべっとりくっついて、最悪。」
「ちょっと見せてご覧なさいな。」
長い髪の女子が屈んで促す。
ツインテールの女子が、見て見てとばかりに片足を上げて見せた。
靴の裏だけではなく他のものまで見えそうになるのを、
長い髪の女子が窘める。
「ちょっとあなた。
スカートなんだから、そんなに足を上げないでいいわよ。
・・・どれどれ。」
靴の裏を覗き込む。
すると靴の裏には、誰かが吐き捨てたらしいガムが、
べっとりとくっついていた。
横から覗き込んだおかっぱ頭の女子が言う。
「ほんとだー。
ガムがべっとりくっついてるよ。
これは取るの大変だろうねー。」
「う~。
これから旅行なのに、どうしよう。」
ツインテールの女子が、悔しさのあまり半べそになっている。
見かねた長い髪の女子が、腰に手を当てて言った。
「仕方がないわね、ちょっと待ってなさい。」
そう言って、鞄の中に手を入れる。
取り出したのは、ガムの包み。
ガムの一つを口に入れると、もごもごとガムを噛み始めた。
それから、噛んでいたガムを包み紙の上に吐き出した。
「ガムなんか急に噛み始めて、どうかしたの。」
「まだ噛み始めたばっかりなのに、勿体ないよ~。」
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子には、その意味が分からない。
長い髪の女子は返事をせず、
吐き出したガムをツインテールの女子の靴の裏にくっつけた。
元々くっついていたガムに、
自分が噛んだばかりのガムをくっつけて、混ぜるように揉む。
すると、
面白いくらい綺麗に、ガムは剥がれてしまった。
「ガムが取れた!」
「わ、わ、すごい。どうやったの?」
二人が上げる歓声に、長い髪の女子が応える。
「ガムにはガムをくっつけることが出来るのよ。
同じガム同士でくっつければ、靴の裏から剥がしやすくなるの。
本当は、氷で固めるか油で溶かすのが良いのだけれど。
今は手元にこれしかないから、我慢して頂戴。」
長い髪の女子はそう言うと、
取ったガムを公園のゴミ箱に捨ててから、手を洗った。
「ありがと、助かったよ。」
ツインテールの女子の機嫌が直ったのに合わせたように、
間もなく迎えの車がやってきたのだった。
車に揺られること数時間。
その3人は、山奥の別荘に到着した。
評判通り、別荘の周りは鄙びた場所だった。
途中で通り抜けた村には、
ちょっとした商店と、
それとバッティングセンターなどの娯楽施設がある程度だった。
ツインテールの女子の家の車は、
帰りの日になったら迎えに来ると言い残して、引き上げていった。
差し当たって、別荘に荷物を置いて、
その3人は早速スキーをするために出かけていった。
その村のスキー場は、別荘のすぐ目の前にあった。
あるいは、スキー場と言えるかどうか。
ゲレンデと呼ぶには、あまりにも狭い。
大きめの山道程度の広さで、すぐ脇には森の木や茂みが顔を覗かせている。
どうやら、村にある小さな山を改装した程度のようだ。
まだ日も高い時間なのに、他に観光客の姿は無く、
そこにいるのは村の子供たちだけだった。
そんなスキー場とも言えないような光景を前にして、
その3人は呆然と立ち尽くしていた。
「・・・なんだか、予想していたのと違うわね。」
長い髪の女子が、ポツリと言葉を溢す。
その前を、ソリに乗った村の子供が滑り降りていった。
脇にある茂みでは、獲物を咥えた狸のような動物が穴を掘っていた。
「うふふ。
スキー場って言うより、村の遊び場だよね。」
おかっぱ頭の女子が可笑しそうに、口元を両手で覆いながら言う。
ツインテールの女子が口を尖らせる。
「あたし、スノボが良かったのに、
こんなに狭いんじゃスノボは無理だよ。」
「ゲレンデ部分以外は雪も少ないし、
スキーだってどうかしら。」
ツインテールの女子と長い髪の女子の愚痴に、
おかっぱ頭の女子が焦って応える。
「ほ、本来は避暑地って話だものね。
スキー場の方はきっとまだ作りかけなんだよ。
わたしはスキーやったことないし、教えて欲しいな。
ね?ね?」
「・・・そうね。
折角ここまで来たのだから、楽しみましょう。」
そうしてその3人は、
気を取り直してスキーを楽しむことにした。
狭くてささやかなスキー場でも、
実際にスキーで滑り始めてみると楽しいものだった。
上級者には物足りないかもしれないが、初心者と一緒に滑るには悪くない。
その3人は、ひとしきりスキーを楽しんだ。
それから、雪溜まりに腰を下ろして休憩をしていると、
村人らしい年老いた男が近付いてきて話しかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、もしかして外から来たのかな。」
「はい、そうですが。」
長い髪の女子が訝しげに応えると、
年老いた男はゆっくりと頭を下げて微笑んでみせた。
「これは失礼した。
私は、この村で村長みたいなことをしている者です。
外の人から見て、この村は如何ですかな。」
年老いた男が村長だと名乗ると、
おかっぱ頭の女子が微笑んで応えた。
「ほのぼのしていて楽しいです。
わたしはスキー初めてなので、ゆっくり滑れて丁度いいですし。」
「こんな小さなスキー場、珍しいよね。
リフトがただのロープなところとか・・・ぐえっ!」
そう言いかけたツインテールの女子を、長い髪の女子が小突く。
そんな様子を見て、村長である年老いた男が声を出して笑った。
「あっはっは。
これは面目無い。
なにせここはまだ、スキー場にしようと決まったばかりですからな。
今はまだ、村の子供たちの遊び場でしかないのですよ。
スキー場にするには、ここは手狭ですからなぁ。
それに、雪が少ない。
山の上は雪が多いのですが、麓のここは雪が少なくて。
これでも人工降雪機を使って雪を増やしているくらいでして。
・・・それはそうと、
あなたたちにちょっとお願い事があるのですが、よろしいですかな。」
「お願い事?」
その3人がちょっと真剣な顔になる。
その様子を確認して、村長が話し始めた。
「実はこの村では、
いくつかの掟、つまり決まりごとがありまして。
その中の一つに、
雪だるまを作らない、というものがあるのです。」
「あっ、それって怪談の・・・」
ツインテールの女子が言葉を溢し、その3人は顔を見合わせた。
村長が、ちょっと意外そうに話を続ける。
「おや、ご存知でしたか。
口さがない幼子が、広めてしまいましたかな。
実は、この村では昔から、
雪だるまのことを雪達磨様と呼んで、神聖な存在としているんです。
神聖なものなので、粗末にすると罰が当たる。
村の子供たちには、そう教えています。
だから、あなたたちもこの村に滞在する間は、
雪だるまは作らないで欲しいのです。」
その3人はまた顔を見合わせて、それからいくつか質問を返した。
「それは構いませんが、
いくつか聞いてもよろしいでしょうか。」
「いいですよ、どうぞ。」
「もしも雪だるまを作ってしまったら、どうなるのでしょう。」
「毎日、夜になる前に村の大人が見回りをしていて、
雪だるまは見つけ次第、壊すことにしています。」
「神聖な雪だるまを壊すの?
それって矛盾してない?」
「災いを防ぐため、と言い伝えられています。」
「雪だるまを壊さずに置いておいたら、どうなるの?
怪談の通りに、独りでに動き出すのかな。
雪だるまが歩き出したら、可愛らしいとわたしは思うんだけど。」
おかっぱ頭の女子ののんびりとした疑問に、村長は苦笑いをする。
「うーん。
私も実際に見たわけでは無いのですが、
災いが起こるらしいと伝えられています。
最後に災いが起こったのは、私がとても小さかった頃でしてね。
その時は、人の被害こそ無かったのですが、
村の建物がほとんど壊れてしまうほどの被害が出ました。
それを避けるためにも、協力していただきたいのです。」
村長の話を総合すると、この村では、
雪だるまは神聖なものなので作らない。
大人が毎日見回りをして、夜になる前に雪だるまを壊している。
もしも雪だるまを夜まで残しておくと、災いが起こる。
何十年も前の災いでは、
人に被害は無かったが村の建物がほとんど壊れてしまった。
ということのようだ。
内容はおおよそ、怪談で聞いていた通りのようだ。
理由などは分からないが、
スキー旅行に来ただけの自分たちが逆らっても、村人たちに迷惑なだけだろう。
その3人は素直に頷いた。
長い髪の女子が代表して返事をする。
「わかりました。
言いつけの通りにします。」
「それはありがとう。
実のところ、見回りはほとんど年寄りでやってましてな。
雪だるまを探す作業は、骨が折れるのですよ。
手間を省いて頂けると助かります。
ではそういうことで・・・」
話を切り上げようとする村長の後ろから、
小さな子供たち数人が、ぴょこんと顔を覗かせた。
うずうずした様子で、村長にしがみついてくる。
「お爺ちゃん、お話終わった?」
「あたしたち、このお姉ちゃんたちと遊びたい!」
小さな子供たちの様子に、村長は優しく微笑んでみせた。
「ほっほっほ。
まったく、元気な子たちじゃ。
すみませんがあなたたち、
この子たちの遊び相手になってやってくれませんかのう。
きっと、遊び相手が少なくて寂しいのですよ。」
「はい、もちろん。」
その3人も微笑んで返事をした。
そうしてその3人は、村の子供たちと遊ぶことになった。
「それっ!」
「やったな、お返しよ!」
村のスキー場と言う名の遊び場で、
その3人と村の子供たちが、雪玉を作って雪合戦をしている。
お互いに雪まみれになるような白熱した戦いになっていた。
そうしていると、雪まみれになった子供が、
雪玉をゴロゴロと転がし始めた。
おかっぱ頭の女子が、膝に手を突いて屈み込んで尋ねる。
「何してるの?」
「囮にするために、雪だるまを作ってるんだよ。」
「雪だるま?
でも、雪だるまは作っちゃ駄目だって。」
咎めるような言葉に、村の子供は鼻先で笑って返した。
「僕たち村の子供は、みんなやってるよ。
雪だるまに服を着せたりして、雪合戦の囮にするんだ。
どうせ夕方に大人が見回りに来て、全部壊しちゃうけどね。
自分で壊す手間が省けるから、丁度いいよ。」
話を聞いてその3人は肩をすくめた。
都会でも田舎でも、子供たちは大人を上手く欺いて利用するものだ。
ツインテールの女子が、にやりとほくそ笑んで、
その子供と並んで雪玉を作り始めた。
「そっか!
じゃああたしも、雪だるまを作って囮にしよう。
でっかい雪だるまを作るぞ。」
おかっぱ頭の女子も、可笑しそうに笑ってそれに続いた。
「郷に入れば郷に従え、だよね。
わたし、雪だるまってあんまり作ったこと無かったんだよね。」
「ちょっと、止めておきなさいよ。」
長い髪の女子が止めるのも聞かず、
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子は協力して、
人の大きさ程もある雪だるまをひとつ作ってしまった。
仕上げに、ツインテールの女子が、
自分が被っていた毛糸の帽子を脱いで、雪だるまの頭に被せた。
「これでよし!」
「遠目には、人に見えるかも知れないね。」
雪だるま作りを楽しんでから、
その3人はまた雪合戦へと戻っていった。
それからその3人は、村の子供たちとひとしきり遊んで、
夕方頃に別荘へと戻っていった。
別荘に戻って、冷え切った体をお風呂で温めながら、
湯船の中でツインテールの女子がふと呟いた。
「あ、帽子忘れてきちゃった。
まあいいか、明日取りに行こうっと。」
それからその3人は、夕飯を作って食べると、
旅の疲れもあって、勉強もそこそこに早々に床に就いたのだった。
その3人が寝静まった深夜。
遠くから、ずしん・・ずしん・・と、
地響きが聞こえてきた。
最初にそれに気が付いたのは、おかっぱ頭の女子だった。
寝ぼけ眼でベッドから上半身を起こすと、周りをゆっくりと見渡した。
「・・・地震、かな。」
しかしその地響きは等間隔に続いていて、地震とは違うようだ。
しばらくして、他の二人も目を覚ました。
「・・・どうしたの、トイレ?」
「違うよ。
何、この地響き。」
ツインテールの女子がベッドから出て窓に近付いた。
カーテンを開けて、窓の外を確認する。
すると、そこには、
別荘の前の山道の先に、大きな白い塊が立っているのが見えた。
高さは5階建てのビルほどはあるだろうか。
ちょっとした丘ほどの大きさの塊が、
ずしんずしんと地響きを鳴らしながら、ゆっくりと山を下って来ていた。
「・・・何、あれ。」
「あの白いの、雪の塊じゃないかしら。」
「もしかして、怪談にあった、独りでに歩き出す雪だるま?」
「怪談の雪だるまって、あんなに大きなものだったんだ。
わたし、子供くらいの大きさかと思ってた。
あんな大きさの雪だるまが独りでに歩き出したら、災いにもなっちゃうよ。」
「こうしていられないわね。
外に出ましょう。
村の人たちに知らせないと。」
その3人はスキーウェアに着替えると、
荷物も何も持たずに別荘の外へと飛び出していった。
別荘の外の山道では、
既に村の大人たちが集まり始めていて、騒ぎになっていた。
投光器が用意されて、大きな白い塊が照らし出されている。
それは確かに、大きな雪だるまだった。
ずんぐりした体には、小さな雪の四肢が付いていて、
下にいくほど太くなる三角形の形をしていた。
歩くというよりは体を引きずるという感じで、山道をずりずりと歩いている。
大きな雪だるまが向かう先は、
山を下った先にある、近くの村のようだ。
その3人が白い息を吐きながら、山道に姿を現した。
大きな雪だるまの姿を見上げて、信じられない様子で言葉を漏らす。
「不格好だけど、
やっぱり雪だるまだよ、あれ。」
「ええ、そうね。
信じられないけれど、あの怪談は本当だったわ。」
「まずいよ。
このまま進むと、村が踏み潰されちゃう。」
大きな雪だるまが進む先では、村の大人たちが集まって、
土嚢を積んだり柵を立てたりしていた。
「こっちだ!
どんどん持ってきてくれ!」
しかしそれも虚しく、大きな雪だるまは、
障害物を踏み潰すようにしてその上を通り過ぎていった。
慌てて大人たちが避難する。
跡に残ったのは、大きな雪の轍だけだった。
「だめだ!止められない。」
「まさか、本当に大雪達磨様が現れるだなんて。」
「雪だるまの撤去は、ちゃんとしておいたはずのに。」
それを呆然と見ているその3人の目の前を、
大きな雪だるまが通り過ぎようとした、その時。
目の前を進んでいた大きな雪だるまが、
雪溜まりに足を取られて、よろけて地面に手を突こうとした。
大きな雪だるまの腕が、その3人の頭上を通り過ぎる。
その先にあったのは、その3人が泊まっていた別荘。
別荘は無残にも、ぺちゃんこに潰されてしまった。
その拍子に、頭上から何かがポトリと落ちてきた。
大きな雪だるまが落としたであろうそれは、
ツインテールの女子が忘れてきた、毛糸の帽子だった。
「・・・これ、あたしの帽子だ。
もしかして、あの大きな雪だるまって、
日中にあたしが作った雪だるま?」
おかっぱ頭の女子が続く。
「帽子を被せてあったから、
雪だるまに見えなくて、撤去されなかったとか?」
事実に気が付いて、長い髪の女子が汗を一滴垂らした。
「もしそうなら、私たちは無関係とは言えないわね。
どうにか出来ないかしら。」
「どうにかって言っても、
あんなデカブツをあたしたちでどうにかするなんて無理だよ。
別荘も潰されちゃったんだよ。」
改めて、別荘があった場所を見てみると、
別荘が無残な瓦礫の山に姿を変えていた。
その3人が血相を変える。
「別荘を一撃で壊しちゃうような雪だるまが村にたどり着いたら、
大変なことになっちゃうよ。」
長い髪の女子が、こめかみに指を当てて声をあげる。
「考えるのよ!
いくら図体が大きくても、相手はただの雪だるまよ。
私たちが知っている知識で、役に立つことがあるはずよ。」
「お湯をかけて溶かす、とか。」
「そんなに大量のお湯、どこから持ってくるの。」
「じゃあ、落とし穴を掘って落とすとか。」
「そんなに大きな落とし穴、今から掘っても間に合わないよ。」
その3人は頭を突き合わせてうんうんと唸った。
その間も大きな雪だるまは、障害物を物ともせずに進んでいく。
大きな雪だるまを止める術は無い、
諦めかけた、その時。
「そうだ、ガムだよ!」
おかっぱ頭の女子が、素っ頓狂な声を上げた。
長い髪の女子とツインテールの女子が、驚いて尋ねる。
「急に大声を出してどうしたの。」
「何か思いついた?」
おかっぱ頭の女子が、わたわたと慌てながら言う。
「だから、ガムだよ!」
「ガムがどうしたっていうの。」
「落ち着いて、私たちにも分かるように説明して頂戴。」
おかっぱ頭の女子が、一呼吸置いてから言う。
「二人とも、今日ここに来るまでの事、覚えてる?」
「ここに来るまで?
学校の授業を受けて、公園で待ち合わせをして、車で来たわね。」
「公園であたしがガムを踏んだんだっけ。」
「そう、そのガム。
靴の裏に張り付いたガムを、どうやって取ったか覚えてる?」
「ガムにガムを付けて取ったわね・・・あっ!」
おかっぱ頭の女子が言うことの意図が伝わったのか、
長い髪の女子とツインテールの女子が、目を丸くした。
「そうか。
雪だるまには、雪をつければいいんだ!
土嚢や柵では止められなかったけど、同じ雪なら足止めできるかも。」
「あの大きな雪だるまは、今でも足を擦るようにして歩いてるわ。
その体に雪をつけていって、もっと体が大きくなったら、
動けなくなるでしょうね。」
「うん!そうだよ。
村の大人の人たちに伝えて、協力してもらおう!」
その3人は以心伝心、
全てを言葉にしなくても、お互いの考えが伝わったようだった。
お互いに頷き合うと、
丁度向こうに村長の姿を見つけて、そちらへと駆けていった。
「なんと。
大雪達磨様に雪玉をぶつけろと、あなたたちはそう仰るのか。」
村長である年老いた男は、目を丸くして言った。
その3人は、興奮気味に説明を続ける。
「はい、そうです。
あの大きな雪だるまの体は、大きいけれど、
雪であることには違いがありません。」
「土嚢や柵を並べてもびくともしないけど、同じ雪ならくっつくかも。」
「あの大きな雪だるまは、
今でさえ、自分の重さのせいで動くのがやっとです。
もっと雪をくっつけて大きく重くしてやれば、
動くこともできなくなるかも。」
そんな説明を聞いて、
村長は腕組みをして考え込んでしまった。
しかしそれは少しの間だけのことで、すぐに頷いて返した。
「他にあてはないし、考えている時間はなさそうですな。
いいでしょう。
あなたたちの話に乗るとしよう。
しかし、
大雪達磨様に雪をぶつけるとは言っても、どうしたら良いものか。」
そんな村長の疑問に、その3人はニヤリと笑って返した。
「それは簡単。
この村には、雪合戦の達人たちが何人もいるんですもの。」
「あの子たちならきっと、雪玉はいくつでも作ってくれるよ。」
「それと、村の設備をいくつか使わせてもらいたいんですが。」
そうしてその3人と村長は、
山道を下っている大きな雪だるまの横を追い越して、
村へと下っていった。
「もうだめだ!足止めも限界だ。」
「大雪達磨様が、村に到達するぞ!」
村の大人たちが悲痛な叫び声を上げる。
足止めをしようとした村人たちの苦労も虚しく、
大きな雪だるまが、間もなく村にまでたどり着こうとしていた。
村の端にある民家を、
その巨体が押し潰そうとした、その時。
大きな雪だるまの大きな顔の、その横っ面に、
強烈な一撃が浴びせかけられた。
大きな雪だるまは思わず体をふらつかせた。
足を止めて、一撃が飛んで来た方を見る。
そこには、
バッティングセンターで使うピッチングマシーンが、
ずらっと並べられていた。
大きな雪だるまの横っ面を叩いたのは、
ピッチングマシーンから打ち出された雪玉だったのだ。
傍らでは、村の子供たちがせっせと雪玉を量産している。
仁王立ちをしていた長い髪の女子が、
ピッチングマシーンを撫でながら、大きな雪だるまに大声で言った。
「どう?
効いたでしょう。
ピッチングマシーンに雪玉を詰めた、雪の大砲よ。
一発だけじゃないわ、弾はまだまだあるわよ。
全門斉射、撃て!」
長い髪の女子の号令の元、
並べられたピッチングマシーンたちが、砲弾の如く雪玉を撃ち出し始めた。
雪玉の大群が、大きな雪だるまに襲いかかる。
雪玉は命中すると弾けて散ってしまうが、
いくつかは大きな雪だるまの体にこびりついた。
それを確認して、長い髪の女子が満足そうに頷く。
「よし!
思った通り、雪が体にくっついてるわ。
みんな、続けて頂戴!」
他方では。
ツインテールの女子が指揮を執って、人工降雪機がいくつも並べられていた。
「こっちもいくよ、攻撃開始!」
ツインテールの女子の号令の元、人工降雪機が一斉に稼働を始める。
上空に向けて、人工の雪が吹きすさぶ。
人工降雪機の軌道が交差し、
雪の十字砲火となって大きな雪だるまに襲いかかった。
大きな雪だるまの腰から上が見る見る肥え太っていく。
「よし!効いてる。
これからあたしが距離を詰める!
みんなそのまま頼んだよ!」
ツインテールの女子が、持ち運びできる小型の人工降雪機を抱えて、
大きな雪だるまの方へ果敢に駆け出していった。
その姿は、火炎放射器を投射する兵隊のようだった。
そんな雪の戦場から少し離れたところでは。
おかっぱ頭の女子が、村人たちと共にお湯のバケツリレーをしていた。
「みんな、火傷しないように注意してね。
お湯は熱湯じゃなくても効果があるはずだから。」
後方でお爺ちゃんお婆ちゃんたちがお湯を沸かし、
お湯が入ったバケツやたらいを、村の人たちが並んで受け渡ししていく。
先頭付近では、そのお湯を大きな雪だるまの足元付近にかけていく。
お湯をかけられた足は、溶けて形が曖昧になっていった。
雪の大砲で動きを止め、
雪の火炎放射器で肥え太らせて、
お湯のバケツリレーで足を溶かす。
ひとつひとつの攻撃は、それだけでは効果が薄いかもしれない。
しかし、三つの攻撃が一体となって、大きな雪だるまを確実に消耗させていった。
顔に雪玉を浴びせられて身動きが取れず、
人工降雪機で上半身が重くなり、
お湯で足を溶かされて、
やがて大きな雪だるまはバランスを崩すと、
大きな地響きとともに地面に崩れ落ちたのだった。
「やったぁ!あの雪だるまを倒したよ!」
「みんな、よくやったわね!」
「誰も怪我してない?」
大きな雪だるまを倒して、その3人が歓声を上げる。
それにつられて、村人たちも歓声を上げた。
「俺たち、大雪達磨様を倒しちまったよ。」
「まさか、災いを人間の手で退けただなんて。
それもこれも、あんたたち3人のおかげだ。」
その3人の元に、村人たちが駆け寄る。
そうして、ひとしきり感謝の言葉を頂いて、
それからその3人と村人たちは、大きな雪だるまの残骸を確認した。
大きな雪だるまは地面に倒れると、砕けてばらばらになってしまっていた。
あちこちに雪の塊と中身が散らばっている。
それを見て、村人たちが声を漏らした。
「・・・なんだこりゃ。」
砕けた大きな雪だるまの中から現れたのは、
木の根や動物の臓物、それに蔦やつららなどだった。
それらがまるで血管や筋肉や臓器のように、
大きな雪だるまの体内に張り巡らされていた。
周囲に広がる臓物の臭いに、村人たちが顔をしかめる。
長い髪の女子が口元をハンカチで押さえながら、
落ちていた残骸を摘んで見せた。
「これを見て頂戴。
木の根や枝が、まるで血管や筋肉や神経みたい。
動物の臓器や木の根が雪の中に詰まって、
巨大な生き物となって大きな雪だるまを動かしていたんだわ。」
しかしその言葉を、ツインテールの女子が否定する。
「まさか。
こんなの、ただのゴミ屑だよ。
山の動物が獲物を食べて、残りを雪の中に埋めただけ。
それが偶然、あの雪だるまの体内に取り込まれてたんだよ。
生き物として機能するわけがない。」
おかっぱ頭の女子が、控え目に反論する。
「それはどうかな。
生き物がどうやって発生したのか、まだ解き明かされてないんだよ。
森の動物さんたちが偶然それを再現しちゃうことも、あるんじゃないかな。」
それには誰も応えられない。
しばらくの間を空けて、長い髪の女子がポツリと言った。
「その話は置いておくとして。
村を守れたのはよかったけれど、
私たち、泊まるところが無くなってしまったわね。」
「別荘、潰れちゃったんだっけ。
親になんて説明しよう。」
「折角泊まらせてくれたのに、悪いことしちゃったね。」
「それだけではないわ。
私たちにとっても大問題よ。
学校の課題のノートや教科書は、あの瓦礫の下敷きになってるのよ。」
「・・・あの中から掘り起こすの?」
一晩にして村の英雄になったその3人だったが、
ただの高校生として直面した問題に、頭を悩まされたのだった。
それから夜が明けて。
その3人は災いを退けた村の英雄として歓待を受けた。
宿泊場所は村で用意するので、もっと泊まっていって欲しいと懇願されたが、
学校があるからと丁重にお断りして、翌日には迎えの車で家に帰っていった。
課題のノートや教科書は、村人たちの協力もあって何とか回収できたが、
その進捗状況は言うに及ばず。
翌週の週末には再び、その3人で集まって勉強会を開くことになった。
日にちはあっという間に過ぎ去って、次の週末。
ツインテールの女子の家に、その3人が集まった。
名目は勉強会だったが、
しかしやはり話題の中心は勉強ではなく、あの村での出来事についてだった。
ツインテールの女子が、テーブルの上に身を乗り出して言う。
「聞いた?
あの村、来年にはスキー場をオープンする予定なんだって。」
「あら、スキー場にするには雪が足りないって言ってなかったかしら。」
長い髪の女子が、指先でペンを振りながら言った。
ツインテールの女子が、頭の後ろで腕を組んで話す。
「そこはそれ、
独りでに動き出す雪だるまがあれば、山から雪を運んできてくれるって。
あんなことがあったのに、
独りでに動き出す雪だるまを逆に利用するだなんて、
あの村の連中も、ちゃっかりしてるよねー。」
おかっぱ頭の女子が、もじもじと上目遣いで言う。
「そんなに簡単に、独りでに動き出す雪だるまが作れるかな。
あの時は、偶然再現されることもあるなんて言っちゃったけど、
よく考えたらそんなの、そうそう出来るとも思えないよね。
それこそ、百年に一度も無いんじゃないかな。」
「その時は、人工降雪機でも使うんじゃないの。
それか、雪の大砲で山から雪を運ぶとか。」
「それはいいから、二人とも口より手を動かしなさい。」
「はーい。」
長い髪の女子のお小言に、
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が声を揃えて返事をする。
それからしばらく、3人は黙々とペンを走らせた。
部屋の中に、時計の進む音とペンが走る音だけが響く。
そんな静寂を打ち破ったのは、おかっぱ頭の女子の呟きだった。
「・・・あの大きな雪だるま、
独りでに動き出して、何をしようとしてたんだろうね。」
「そんなの、村を壊そうとしたんじゃないの。」
「何のために?」
長い髪の女子が、うっかり疑問を挟んでしまう。
「さあ。
愚かな人間に、罰を与えたかったんじゃないの。」
ツインテールの女子が、ぶっきらぼうに応えた。
しかし、おかっぱ頭の女子には違う考えがあるようだ。
おかっぱ頭の女子が、ポツリと言った。
「もしかしたらね、一緒に遊びたかっただけなんじゃないかな。」
長い髪の女子とツインテールの女子が、意外そうな顔をする。
「遊びたかった?
独りでに動き出した雪だるまが、人間と?」
「そう。
だって、もしも村を壊そうとしたのなら、
たとえわたしたちに邪魔をされたとしても、
転がるなり何なりすれば、出来たと思うの。
歩いていく必要無いもの。
それに、あの大きな雪だるまが別荘を壊した時のこと、覚えてる?
あの時、大きな雪だるまは、転びそうになって手を突いただけなんだよ。
その先に、たまたま別荘があっただけ。
ううん、もしかしたら本当は、
近くにいたわたしたちの上に転びそうになって、それを避けたのかも。」
「あなたがそう思う根拠はあるのかしら。」
「根拠ってほどじゃないけど、
何十年も前にあった災いの話を覚えてる?
その時は村の建物がほとんど壊されたけど、人の被害は無かったって。」
そこまで話を聞いて、ツインテールの女子が腕組みをして言った。
「言われてみれば、変だよねそれ。
村を破壊するのに、わざわざ人を避けて壊したみたい。
むしろ、人に危害を加えるつもりは無かったのかも。」
「そうだとしても、じゃあ目的は何なのかしら。」
「わたしたちや、村の子供たちと同じだよ。
きっと、独りでいるのが寂しかったんだよ。
村の人たちに遊んで欲しかったんだよ。
だから、わざわざ人を潰さないようにして、
村に向かってたんじゃないかな。」
「それじゃ私たち、
あの雪だるまに悪いことをしてしまったわね。」
その3人がしんみりとした時、
ツインテールの女子が口を大きく開けた。
「あっ!思い出した。」
「・・・何?
勉強の邪魔をしないでくれるかしら。」
「勉強なんて、してなかったけどね~。」
そんな二人の話は置いておいて、ツインテールの女子が言う。
「あたしたち、先週はおみやげを買う暇もなかったじゃない。」
「うんうん、それで?」
「何か記念になるものは無いかなーと探したら、これが見つかったんだよね。」
ツインテールの女子が、机の引き出しを何やらガサゴソ漁ると、
手に何かを持ってやってきた。
その手に乗せられていたのは、あの雪だるまに被せられていた毛糸の帽子だった。
帽子を逆さにして振ると、
その中から、小さな木の枝が一本、ポロッと落ちてきた。
その小さな木の枝を、その3人が頭を重ねるようにして覗き込む。
「これ、あの大きな雪だるまの体の一部、だよね。」
「ええ、そうね。
こうして枝だけになってしまえば、無害なものね。」
「・・・ねえ、春になったら、またあの山に行かない?
雪だるまと遊ぶのは無理かもしれないけど、
こうして木や花となら、一緒に遊べると思う。」
「そうだね。
雪だるまになる前の山と、一緒に遊びたい。」
「それは良いわね。
また3人で、あの山に挨拶に行くとしましょう。」
それから誰からともなく、小さな小枝を指で摘んで見せる。
「春はもうすぐ、だね。」
「・・・うん。」
その小さな木の枝には、
小さな芽が顔を覗かせていたのだった。
終わり。
今週は関東にも雪が降ったので、雪をテーマにしました。
もしも雪だるまが独りでに動き出すとしたら、
内部に生き物としての材料が揃った場合かもしれない。
自分の意思で動けるようになったら、雪だるまは何をしようとするだろうか。
そのようなことを考えて、この話を作りました。
お読み頂きありがとうございました。