三十三話:中性子星
キュウカクの足元の地面から、コールタールのようなドロドロした液体が滲み出てきて、瞬く間に俺の足元まで浸食してきた。
液体から逃れるため、メリシアのところまで飛び退る。
「な、なんだアレ……?」
「何でしょうか……凄く禍々しいですね……」
「あれは、どうやら物質ではないみたいだ……力場に似ているけど……僕でも分からない……」
いつの間にやらリボンとなってメリシアの腰に戻っていたチゴウが、小さく揺れる。
力場って……守護武神といい魔術といい、この世界の不思議はあといくつ残ってるんだ?
三人揃って得体の知れない謎のドロドロに気圧されていると、キュウカクが解説するようにゆっくりと語り始めた。
「この世界のすべてを構成する要素は大まかに分けて三種類ある。有機物や無機物などの物質を構成する要素……魔術や空間を構成する要素――」
キュウカクが握った手を上に掲げ、
「そして、闇を構成する要素だ」
一瞬の静寂のあと手が開かれる――と、ソレは現れた。
「これは中性子星……お前たちの文明レベルでも理解できるように説明すると、このフィオレンティアを闇の力でチリほどまで圧縮したようなものだ。もっとも、規模は違うが……」
ちゅ、中性子星!?
「さっきお前は妾の触れた闇をココロだと言ったな。ならば、これが妾の――そのココロとかいうやつだ」
や、ヤバイっ!
「妾の制御下にある今は安定しているが……」
「メリシアッ!!」
「ひとたび手元を離れれば――」
慌ててメリシアを抱きかかえて二階層まで逃げ戻ろうとしたその時、キュウカクがゴミでも投げ捨てるかのように、その手に握っていたモノを放り投げた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
凄まじい重力によって周囲にあるすべてのものが崩壊しながら引き寄せられていくのを、とっさに掘った穴の中で地面に両手を突き刺すことで何とかやり過ごしていると……やがてバチンッという音がして静けさが戻った。
おそるおそる穴から顔を出して辺りを見回すと、中性子星があったと思われる場所を中心に一階層の半分以上が球状にえぐられていて、危うくあと数十センチほどで穴まで達していたその威力に気付いて背筋を凍らせる。
「この通り。極大化した重力によって、周囲のあらゆるモノ……光さえも取り込んでからやがて無に消える」
何事もなかったかのような淡々とした口調で、再びキュウカクが語り始める。
「因みに、先ほどのやり取りでおおよそ見当はついているだろうが……妾には物理法則など有って無いようなものだからな。すべては妾が覗きし深淵――この闇の力によるもの。お前の言う愛とやらでどう止めるのだ?」
「……ぐっ」
「さぁ、見せてみろ」
キュウカクのその想像以上の力に、さっきカッコつけて愛の力とか言わなきゃ良かったと、ここへきて後悔の念が押し寄せる。
クソッ! あ、アレを……ヤるしかないのかっ!?
「何を黙っている。先ほどまでの威勢はどうした? 妾をこれ以上失望させるな」
キュウカクが、再びこれみよがしに手を掲げる――と、その手の中には明らかにさっきよりもデカイ中性子星……いや、下手をするとブラックホールくらいのヤツが作られつつあった。
あんなものが解き放たれたら、迷宮どころか周囲の惑星すら巻き込みかねない。
――もはや躊躇している場合ではない!
「メリシア……」
最愛の人の名前を呼ぶ。
メリシアは不安そうに眉を寄せながらも、その瞳に信頼の光を浮かべて俺を真っ直ぐ見てくれた。
覚悟を――キメるんだ。
「おっぱいを、揉ませてくれ」
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