二十五話:序列第一位――究覚――
剣圧というのか、突風のような凄まじい圧迫感が二人のほうから押し寄せてくる。
「戒祖流剣術、驟雨」
「戒祖流剣術、炎火」
ギャリンッ――ガガガガガガッッ!
次々と技を繰り出すその動きはスローモーション状態でも捉えることができず、時折――フッ――フッ――と刀を重ねる二人の姿が見えたと思えば、また消えるのを繰り返している。
入り口の扉の陰からこちらを伺うように覗き込んでいたメリシアの元へ辿り着き、スローモーションを解除すると、もはや刀がぶつかり合う音しか聞こえなくなってしまった。
「何が起きてるのかイマイチわからんな……」
「ソウタ様でも見えないのですね……私も先ほどから見ようと努力はしているのですが、ダメですね……」
おそらく時の止まった世界で存分にやり合っているのだろうが、もし守護武神のゲンカイが負けた場合、再び十階層まで戻って盟約し直さなければならないのは少し手間だ。
しかし、任せると言ってしまった手前、いまさら助太刀するのも何だか悪い気もする……。
「諦めて決着がつくのを待つしかないか――」
「決着ならばついた」
「うぉっ!?」
ビックリした!
「いきなり出てくるなよ……」
「驚かせたのならすまぬな。メリシア殿のお陰で、自らの剣を超えることができたのが嬉しくてな、つい気が急いてしまったのだ」
再び部屋の中を覗き見ると、前のめりにくずおれたゲンカイもどきが、シュワシュワと泡のように消えていくのが見えた。
「剣に目覚めてからはひたすら修練の日々を送ってきたが、このような高揚感は初めてだ……感謝するぞ」
「いえ……喜んで頂けたのなら良かったです」
二人に視線を戻すと、クールイケメンは何処へやら――子供のように瞳をキラキラさせながら爽やかに笑うゲンカイに対して、メリシアが困ったような笑みを浮かべていた。
それもそのはず、興奮のあまりゲンカイはメリシアの手を両手でガッシリ握って離そうとしないのだ。
普通なら引き離す場面なんだろうが、なんだかそんな二人が面白くてつい見物していると、メリシアから抗議の眼差しで訴えられてしまった。
「あー、ゲンカイ。悪いけど先を急ぐんだ、一旦戻ってくれるか」
「――はっ! これはすまない、メリシア殿。また何かあればいつでも言ってくれ、助太刀しよう」
「わ、分かりました、またお願いしますね」
ゲンカイが消えたあと、メリシアに向かってゴメンと軽く頷いてから、一階層へと歩みを進め始める。
とうとう次が最後、キュウカクの待つ武林迷宮の最深部だ……。
無駄に緊張しながら螺旋階段を下りていき、ついに一階層――最深部の扉の前に到着した。
「それじゃ、開けるぞ……」
「はい……」
ゴクリと生唾を飲み込んで、ゆっくりと扉を押し開いていく――と、扉の隙間から二つの目がこちらを覗いてきた。
「待ちくたびれたぞ」
「っ!?」
コワッ!
ギョっとして、思わず扉から手を離し、跳び退ってしまう。
すると謎の存在が扉を向こう側から引き開いていき、薄暗くて良く見えなかったその全身が露わになる。
俺はというと、まさか向こうが扉を開けるとは思っておらず、不意をつかれたこともあって目をギュッとつぶりながら情けない悲鳴をあげてしまった。
「ヒィィッ」
「……なんだそれは。妾の声を聞いた存在にしては胆力がないな」
聞いたことのある女性の声がして、ハッと視線を送る。
そこには、呆れた様子で腰に手を当てながら仁王立ちしている、明らかにうら若い――十五、十六歳と思われる――ツインテールの美少女がいた。
「妾は究覚。守護武神の第一位にして、この世の深淵に触れし唯一絶対の存在だ」
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