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十六話:序列第二位――元戒――

 扉を開け、だだっ広い空間の中心で根を張ったかのように微動だにせず正座している人物の元へと歩いていく。

 メリシアは剣の柄に手を添えて臨戦態勢を整えているが、俺はなぜだか自宅の廊下を歩いている時のようにリラックスしながら、一歩ずつゲンカイに近づく。

 あと十歩ほどの距離まできたところで、正座したままのゲンカイが声を掛けてきた。


 「良くぞ参られた。来客など初めてのことであるから、失礼な振る舞いをするかもしれぬが、ご容赦くだされると有難い」


 顔は伏せているため見ることができないが、透き通るような声はイケメンのそれを思わせる。

 着ている服は、この世界でスタンダードな襟付きのポロシャツではなく、作務衣と紋付羽織袴が合体したような一風変わった装いで、言葉遣いも相まって武士感が凄い。


 「俺らも土足で踏み込んでいる身だし、気にするなって。俺は今井奏太、こっちはメリシアっていうんだけど、アンタ達にはこの娘と盟約を結んで欲しくてさ」

 「イマイソウタとやら、それ以上の力を欲してなんとする?」

 「力が欲しいのは俺じゃなくてこの娘だよ」

 「だがそれを行使させるのはイマイソウタ、そなたであろう。御主らの関係はおおそよの察しがついておる」

 「か、関係って……」


 早くも恋人同士であることを見抜かれたのか!?


 「メリシアとやら、いくら主人の命令とはいえ、女人の身でこのようなところへ随伴するなど感心せぬぞ」


 俺の思い過ごしだった!

 ゲンカイの言葉に、心外とばかりに一歩前に進み出たメリシアが、怒気を孕んだ声で反論する。


 「ソウタ様は、こんな私を常に対等に扱ってくださいます。私に命令をされたことなど一度もありません。ここには守護武神の皆様のお力をお借りするべく、自分の意思で来ました」

 「ほほう、風体に似合わぬ女傑であったか……これは失礼致した。ところで――」


 ゲンカイの姿が消えた。


 「その割には警戒心が足りておらぬようだが?」


 気が付くと、俺の首元には反りがあって刃紋が浮いている片刃の刀――日本刀が押し当てられていた。

 初動も含めた一連の動きが、いっさい見えなかった……。


 「っ!?」


 ギキィンッ!


 メリシアが慌てて剣を抜き、日本刀を跳ね上げる。

 一歩下がったあと、半身になって片手で日本刀を構えるゲンカイと俺の間に、メリシアが割って入る。


 「良い太刀筋をしているな」

 「クッ……!」


 ゲンカイが伏せていた顔を上げてこちらを見る。

 胸まである長髪から覗き見える顔は、予想どおり、透き通った湖畔を思い起こさせるようなイケメンそのものだった。

 スッと通った鼻筋と、目元をキリっと際立たせる細い眉が中性的なその容姿に男を色付けている。

 元居た世界なら、トップスターの男性アイドルとして、世界を席捲(せっけん)していただろう。


 「(それがし)の名は元戒(げんかい)。この武林迷宮の序列二位にして、世界最強を自負する剣の道を極めし者なり。メリシアよ、盟約を望むのならば力を示すが良い」


 そんな美丈夫にメリシアが相対しているのを見ると、なんだかショップで寝取られ同人誌を見かけたときのようにハラハラしてしまう。

 元々諦めていたこともあって自分の容姿にコンプレックスを感じたことはないが、そんな俺に劣等感を抱かせるほどゲンカイのルックスは完成されていて、男の俺ですらうっとり見惚れてしまうほどだった。


 「剣帝、メリシア・コーネルス……推して参るっ!」


 数秒の静寂のあと、先に動いたのはメリシアだった。

 ゲンカイの呼吸の合間という絶妙なタイミングと、駆け寄った勢いを利用して胴を横薙ぎにいったその剣がゲンカイの服に触れ――たと思った次の瞬間には、メリシアが地面に倒れていた。

 いったい何が起きたのかさっぱり分からないものの、一対一の勝負に手を出すこともできず見守ることしかできない俺と、同様に自分が何をされたのか見当もついていない様子で立ち上がれずにいるメリシアを、ゲンカイが一瞥する。


 「……ふぅ。止めにせぬか? 力量差が分からぬほど未熟でもあるまい?」

 「何を……っ!」

 「先ほどの太刀筋で見込みがあると思ったのだがな……身のこなしが女のそれではな……」


 メリシアがゲンカイを睨みつける。


 「舐めるなっ!!」


 光が走ったあと、金属が風を切るピンッという音と衝撃が体に当たってきた。

 しかしやはり、気が付けばゲンカイは元居た場所から三歩程度離れたところに移動していて、地面を背にして放ったとは思えない尋常ならぬメリシアの斬撃はむなしく空を引き裂いたのみだった。


 「当たらぬよ」

 「馬鹿に……馬鹿にしているのか……っ! なぜ避けるだけで反撃しないっ!!」

 「ふむ……メリシアよ。御主は自分より劣る者と真剣に勝負をしようと思えるほどに落ちぶれておるのか?」

 「……ッッ!!」


 メリシアがギリギリと歯軋りする音がここまで聞こえてくる――ゲンカイは明らかに、ワザと心を折ろうとして辛辣な物言いをしているようだ。

 なぜそうするのか、理由がまったく分からないのは気になるが……メリシアの会心の斬撃を避けたことで、ゲンカイが先ほどから消えるように動いている謎のほうには見当がついたため、公平性を保つべく助け舟を出すことにする。


 「ゲンカイ、悪いんだけどちょっと時間貰ってもいいか? メリシア、ちょっと作戦会議しよう」

 「もちろん構わぬよ」


 ゲンカイがさらに数歩後ろへ下がってから刀を鞘へ納める。

 それを見て会釈してからメリシアの手を握って引き立たせ、二人の立ち合いを見て導き出したゲンカイの能力について耳打ちする。


 「そ、そんなことが……」

 「できるみたいなんだよな。だから、このままじゃ不公平だと俺は思うんだ。そこでさ……」

 「……はい、是非お願いします」

 「よし、決まりだな」


 メリシアから離れて、ゲンカイへと視線を移す。


 「待たせて悪かった。続けてくれ」

 「……続ける? イマイソウタ、御主が某と死合(しあ)うのではないのか――っ」


 言葉が終わる前に、メリシアの斬撃がその長い髪の毛を切り落とした。

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