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一話:自由貿易都市

 ~~~ようこそ!自由貿易都市グステンへ~~~

   武具、雑貨、衣装、食品、一級あります。

   傭兵、職人、商人、板前、一流おります。


 関税のないこの都市には各国から品物が集まり、

 昼夜を問わず取引が行われています。


 グステンは他国との不可侵条約を結んでおり、大変

 治安が良く、更に目利きのある商人が多数在住して

 おりますので、品物の確実性において比肩する国は

 ありません。


 自由貿易都市という土地柄、来訪の目的や、身分を

 問わず、どなた様も同じお客様としてお迎えさせて

 頂いておりますので、どうぞ心置き無くごゆっくり

 観光とお買い物をお楽しみください。


             作成:グステン観光協会

             協賛:グステン鍛冶組合

                ロイタージェン

                ルル商会


 「厚みのあるわら半紙……いや、もっと手触りいいな……」


 メリシアと二人で道端のベンチに腰掛けながら、さっき街角で貰ったチラシに書かれたこの街の紹介文を一通り読み終えたところで、その紙質の良さに気付き少し驚いた。

 表面が若干デコボコしているため、恐らく活版印刷されたものなのだろう。オモテとウラの両面に、手書きっぽい文字と品物や風景の挿絵が印刷されており、見ていて楽しめるよう工夫されている。

 なんとも嬉しいことに文字はひらがな、カタカナ、漢字を使って書かれていて、何の不自由も無くスラスラ読むことができた。

 しかし問題は、漢字があるのならそこから平仮名や片仮名が生まれていくわけで、この世界に中国がある、もしくはあった、とならなければ説明が付かないということだが、そういう文字の起源的なモノについてどうなっているのかメリシアに聞いてみたところ


 「ヒラガナ、カタカナ、カンジ……ですか? この文字のことをソウタ様の世界ではそう呼ぶのですか?」


 なんていう調子で、市場のとき同様、ハテナマークだらけの表情を返されてしまい、唸るしかなかった。

 ここグステンまでは、二人をしがみつかせた丸太を俺が担いで、丸一日以上かけて走ったり跳んだりしてきたのだが、その道中でも色々とこの世界について聞いてはいた。

 だが、何というか……結局、この世界では俺の培ってきた常識が通用しないというか、ツッコミどころが多すぎてワケが分からないことばかりだった。

 中でも、やはり危惧していた通り暦や時間の概念がこの世界に無いことが分かった時は、度肝を抜かれた。

 月も太陽も一つずつあって、一日に一度交互に昇ったり沈んだりするのは同じだが、月は満ち欠けせず常に満月で、曜日も月日も年末年始も無いときてる。

 何日経過したかとか、朝昼夜とか、そういうのは全て体内時計的なもので賄っているようで、今日が誕生日とかそういうことまで感覚で分かるらしく、当然ながら時計もカレンダーも聞いたことがないと言われてしまった。

 年齢の話をしてみたところ、メリシアは十九歳になったばかり、おっさんは三十七歳だと言われたが、月日の概念が無いのに自分の年齢を把握しているという不可思議な現象については――


 「普通に生きておれば成長を実感できるように、年齢もそれぞれが自分で把握できるものだろう? お主の世界はそんなことも何かを見なければ分からないのか……不便よなぁ……」


 などと同情顔で言われてしまい、口がアングリと開いてしまった。

 時間の概念が無いなど……目覚ましが無ければ平気で昼過ぎまで寝ていられるような俺にとっては、マジでとんでもない話である。

 さらに、初めて会ったときにおっさんが乗っていた馬的謎生物 (シュロルという種類らしい) を筆頭に、蝶のような羽根を持つ鳥(タバランだっけ?)とか、出会った瞬間蛇みたいな動きで逃げてったワニの頭をしたカニ(グムリ、あの謎肉の正体……)とか、そういうそもそもの生態系が違う割には、オールタニアの市場でも見かけたように、野菜や果物などの植物だけは、なぜか元いた世界と全く同じだったりする。

 進化とかそういうのってこの世界では一体どうなってるんだ?

 こんなときに婆さんがいてくれたらもっと細かく聞けたのに……などと一瞬考えてしまうが、エリウスを庇う婆さんの姿がフラッシュバックしたため、すぐに頭を振って思考を中断し、手元のチラシに目を戻す。

 表面には街のアピールポイントに観光案内を混ぜたようなものしか書いていないので、破かないように注意しながらチラシを引っくり返し、裏面にも目を通す。

 裏には、色々な品物の挿絵と名前、そしてそれぞれの値段と思しき数字とアルファベットが所狭しと書かれていて、スーパーのチラシみたいな様相を呈していた。


 「このグラストソードってヤツの横に書いてある20Jてのは値段でいいんだよな? 安いの?」

 「それはジェイではなくJUL(ジュル)と読みます。グラストソードはバルギスの上級騎士団正式装備品ですね。私も相場は知りませんが……オールタニアで買おうとすると倍くらいはしますから、安いと思います」

 「へぇー。ていうかジュルって何?」

 「統一通貨です。といっても、貨幣価値は国によって違うのですが、大体100MOL(モル)で1Jになります」

 「1モルは?」

 「大体100PAL(パル)です」

 「1パルは?」

 「1Pは1Pですね」

 「なら100ジュルは?」

 「Jより大きい通貨単位になるとFOL(フォル)になりますね。オールタニアでは1000Jで1.2Fくらいです」

 「もう一声! 1000フォルは!?」


 メリシアが堪らずに吹き出す。


 「フフッ、お城と調度品一式が買えてしまいます」


 ふむ……百ずつ通貨単位が上がっていくのかと思えば、ジュルからフォルの時だけ千くらいで上がるのか。

 江戸時代、鉄貨や銅貨に対して銀貨や金貨の価値が圧倒的に高かったように、フォルは銀貨や金貨的な特別の価値がある貨幣ということなのだろうか。

 通貨単位はP=パルが最小単位で、M=モル、J=ジュル、ときてF=フォルが最大の単位か……覚えておかないと。

 パルモルジュルフォルパルモルジュルフォルパルモルジュルフォルパクジュルモグジュルパクモグジュルジュルモグパクジュルジュルジュル……。


 「あ、あの……ソウタ、様……?」

 「ハッ!」


 いかんいかん……単位を覚えようとしてたはずが、いつのまにかメリシアをパクパクジュルジュル(もちろん脳内で)してた。

 暫く無言でおっぱいを見つめながらそんな妄想をしていたものだから、不審がられているじゃぁないか。


 「あ、いや、おっさん遅ぇなぁと思って」

 「そういえば、おっしゃる通りですね……どうしたのでしょう」


 おっさんが『ここで少し待っておれ』と言って目の前の建物に入り、どれくらい経ったのか……。

 メリシアとの、今日の夜メシ何にする? 宿屋はどんなところにしたい? これはなに? あれはなに? といった内容のたわいもない雑談がひと段落ついて、チラシに目を通しながら再び雑談していたら、ほぼ真上にあった太陽も気が付けば少し傾いてきていた。

 彼女いない暦=年齢のこの俺が、こんな美人と楽しくお話ししているという奇跡が起きているのだから、この瞬間(とき)永遠(とわ)に続け! と思わないでもないが、昨日の今日ということもあってさすがに心配になってくる。


 「ちょっと様子みてくるわ」

 「私も行きます」


 メリシアが後ろからトコトコとついてくる。

 思えばオールタニアのおっさん家で出会ったときから、必要が無ければ俺より前に出ようとせず、必ず後ろからついてきている気がする。 

 今だって、メリシアがスッと前に出たかと思ったら、そのまま建物の扉を開けてくれた。

 気を遣わせてるなぁ、これ本来なら俺の役目なのになぁと何だか悪いことをしてる気分になるが、顔を伏せてどうぞお入りくださいと言わんばかりのメリシアの気持ちを無下にするわけにもいかず、そそくさと扉をくぐる。

 中は落ち着いた感じのホテルのロビーみたいな空間が広がっており、奥にあるフロントらしきカウンターにいた男がこちらに向かってお辞儀をしてきた。


 「ようこそロイタージェンへ」


 無駄に高い天井からはシャンデリアがつり下げられていて、それだけ見ると金持ち趣味っぽい感じもするが、嫌味のない内装とフロント係の男の爽やかな笑顔で見事に打ち消され、むしろ雰囲気造りに一役買っていた。

 元いた世界でも入ったことがないタイプの場所なので少し緊張してしまうが、そんな俺に追い討ちをかけるかのごとく、男が再び声を掛けてきた。


 「本日はどのようなご用件でございましょう」

 「あっ、えーと、おっさ……連れがここにいるはずなんですが」

 「クロンベルク様でしたら、只今商談中でございます」

 「クロンベルク?」


 聞き覚えの無い名前が出てきてついオウム返ししてしまうが、すかさずメリシアが後ろからフォローを入れてくれる。


 「トルキダスの姓です」

 「へぇー!」


 おっさんのフルネーム、トルキダス・クロンベルクっていうのか。名は体を表すというか……いかつい名前だなぁ。

 つーか、こんなに長いことかかる商談って、いったい何をしてるんだ?


 「よろしければお取り次ぎいたしますが、いかがなさいますか?」

 「あぁ、いや、少し長いので心配になっただけで、特に問題が無ければいいんです」

 「左様でしたか……では、様子だけでも見てまいりましょうか」

 「すみません。助かります」

 「とんでもございません。少々お待ち下さい」


 男は柔和な笑みを浮かべ、フロントの隣にある扉の前まで移動する――と、ちょうど扉が開いて中からおっさんが出てきた。


 「おっさん、すまん。待ち切れなくて様子見にきちまった」

 「おぉ、二人とも待たせて悪かったな! 喜べ、さっそく仕事が見つかったぞ!」

 「は? し、仕事?」

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