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一話:転生

 小さいおっぱいは貧乳。

 大きいおっぱいは巨乳。

 では、普通サイズのおっぱいは?

 ――俺は出世に全く興味が無い。

 しかし、巨乳党の第一人者としておっぱいには是非とも出世して欲しい。

 そこで今回は“貧乳から普通サイズのおっぱいへ出世しても、そこに適切な表現が無いのは不公平じゃないか問題”について考えてみよう。

 などと前置きしてはみたものの、結局のところ普通サイズのチチなのだから、ストレートに『普乳』でいいんじゃないかという気はしている。

 需要でいえば当然、貧乳や巨乳に大きく水をあけられているわけだが、普通に普及しているという意味もダブルミーニング的に付与されることから、これ一択なんじゃないか?

 いや……でもちょっと待てよ。

 フニュウという響き自体に、包まれるかのような柔らかさを帯びた巨乳的語感が含まれてはいないか? これじゃあらぬ誤解を与えてしまいかね――お、あの娘、ブラ透けてる。ゴチでーす。

 ……とにかく、少しでも貧乳や巨乳(別のチチ)を匂わせるような表現があるなら『普乳』はダメだ。

 なら、いっそのこと平均的なチチで『平乳』とするか。

 読みはヘイニュウとしたいところだが、ヒラチチと呼ぶほうがより卑猥だろう。

 が、しかし! これも万が一、平らなチチなどと読まれた場合、貧乳よりさらに平らなおっぱいを連想されてしまう恐れがあるんじゃぁないか。

 『普乳』同様ただの可能性の問題ではあるが、やはり1%でもそのような危険があるなら、苦しい選択だが……却下せざるを得ないだろう。

 あとは適したチチで『適乳』なんてのも思いついてはいるが、こんなのはそもそも出世云々で始まったこの考察の意味自体を消し去ってしまう、非常に危険な思想だといわざるを得ない。

 金髪ロリっ娘は貧乳が適乳であるし、黒髪ドジっ娘は巨乳が適乳となり、現存する全てのおっぱいがその垣根を越えこの定義にしか当てはまらなくなるのでは、まさに本末転倒だ。

 いや、待てよ。

 現存する全てのおっぱい……。

 おぉっ! それならありふれた乳で『凡乳』なんてどうだ!?

 そうだ、これだよ! 貧乳、巨乳といった特徴を持たず、ナンバーワンにならなくてもいい全ての『乳』に対する完璧な……表現じゃ……ない、わ。

 良く考えてみたら『乳』の一つ一つは違う個性を持つ特別なオンリーワンのはずだろ。そこを履き違えて結論を急ぐなど俺らしくもない。

 でも……クソッ、もう思いつかないぞ。一体どんな呼び方をすればいいんだ――と、両手を頭に乗せて文字通り頭を抱えた。

 やはり今になって考えると、()()で、()()()()()()()()()()という()()()()()()()()、頭を抱えて腕で死角を作ったというその間抜けっぷりが、猛スピードで接近するトラックに気付くことができなかった原因だろう。

 さらにそのエンジンルームからは、軽油が燃焼されて発生した圧力によりピストンが上下する重く低い唸りが響いてきていたはずだが……イヤホン経由で爆音再生中のMOT()TO () in () run() ()()()☆によって、聴覚も完全に異次元を彷徨っていた。

 こうして幾重の自業自得(不幸)が重なった結果、巨大な壁のように迫り来るトラックにインパクトの刹那ようやく気が付く、という間抜けな事態となった。

 もちろん気が付いたときには既に遅く、瞬間的に脳内を駆け巡ったこんな走馬灯……いや走馬考? しか得られなかった自身への諦めとまだ見ぬ生乳への憧れは、鼻が潰れ前歯が折れ眼球が破裂し右腕と右足が千切れる程の衝撃により死という本能の恐怖に一瞬で塗り変えられ、ついに我が二十八年の人生に幕が降りることとなった――


 「はずだよな……やっぱ……」

 「なっ……」


 死の直前に見たあのピンクの透けブラと、それに付随した取り留めのない思考を何度か思い返してみたが、やはり、俺は死んでいるという結論に到ってしまう。

 なお、痛みは記憶に無いため、幸運にもというべきか……即死したってことになる。

 むしろあれで生きていたのなら、アメコミよろしくな宇宙からきたスーパーヒーローとして、様々な苦悩と共に今までの人生を楽しんできているはずだが、残念なことに、俺はアニメとゲームにしか興味が無い、しがない営業マン。

 正真正銘の一般人だ。


 「白装束でも……ないな。っつーかスーツ無事でマジ助かった」

 「何者だ……?」


 夢を見ていた、もしくは現在進行形で見ているとしか思えないほど現実味が無い上に、こんなときに幽霊といえば白装束という安易な発想しか出てこないが、下ろし立てのスーツが無傷なことに気がつきとりあえずホッとする。

 ササっと服の上から全身のポケットをまさぐると、耳に付けていたはずのイヤホンや、ティッシュにハンカチ、スマホといった小物類は全て中に入っていることが触感で分かった。


 「んっ? なんでスーツが無事なんだ?」

 「なぜここに、いや、いつからそこにいた……?」


 俺と一緒に跳ね飛ばされたはずのイヤホンがポケットに入っていることにも違和感を覚えるが、それ以上に、初めて袖を通したかのような皺一つ無いスーツを着ていることがそもそも不自然だ。

 あの事故の衝撃からしてボロボロになっていないとおかしいんじゃないか?


 「世にも奇抜な万話(よにきば)とかにありそうなシチュエーションではあるけど……」

 「おい、聞いているのか」


 子供の頃から好きだったテレビ番組が脳裏を過ぎる。

 もしも本当に奇抜な世界に紛れ込んでしまったのなら……果たして抜け出すことはできるのか?

 っつーか、どうせ突っ込まれるならトラックではなく可愛い子に突っ込まれたかった――いや突っ込みたかったのだが、結局一度もその夢は叶わずに死ぬという悲劇を迎え……いや、意識あるから迎えてないのか。


 「はっ、も、もしかして、まだ生乳チャンス残ってたりする?」

 「質問に答えろ!」


 でもおっぱいって貧乳も巨乳もあるのに普通のおっぱいは……と、思考が何回目かのループに入ろうとしたそのとき。唐突に、八百屋で大根でも品定めするかのような視線で俺を値踏みしている、見知らぬ騎士から怒鳴られた。

 うん。いや、騎士て。

 目の前の騎士は、プレートアーマーと呼ばれるタイプの西洋甲冑に全身を包まれている。

 頭には目元だけが空いたフルフェイスの兜を被っているため、視線以外に表情をうかがい知ることはできないが、声の調子から怒っていることだけは伝わってきた。

 ふと、その鎧が以前心を折られまくったゲームに出てきたものとほば同じだということに気が付き、コスプレイヤーか! と合点がいくも、俺の悪いクセか、はたまた神がかったそのクオリティのためか、怒らせていることも忘れて見惚れてしまった。

 全身の所々に錆びや凹み、欠けているところや車の10円傷を深くしたような引っ掻き傷があり、そうとう手間を掛けて製作されたものと見受けられる。

 まさしくコスプレに命を張っているかのようなその出来栄えにマジスゲェと感動を覚えるが、それと同時に、あまりの現実味の無さに言い知れぬ不安が急激に込み上げてきて、慌てて周囲へ視線を巡らせる。

 暗く、恐怖さえ感じるうっそうと生い茂った木々を、目の前にある焚き火の明かりがぼんやり照らしていて、火を囲うように並べられた木の棒に刺してある何かの肉からは、時折、油がパチリと跳ねる音が聞こえてくる。

 レイヤーの隣には本人の物と思われる荷物が乱雑に置かれていて、木に倒れかかっているサンドバッグのような見た目のずだ袋から、何に使うのかも分からない道具がこぼれ出ていた。


 「は、はは。ど、こだ……ここ」


 登校中のJKが眩いばかりの光を放ちながらスカートを翻す清清しい朝にアスファルトの上で四肢爆散したはずが、次の瞬間には、レトロゲー専門のゲーセンかと見紛うばかりの闇に包まれた森の中でレイヤーと焚き火を囲っている……そんな突拍子もない状況に、頭の中が真っ白になってしまう。

 レイヤーはというと、突然の出来事で戸惑っていたのが時間の経過と共に冷静になってきたようで、焚き火を挟んで反対側へ座っていたのにいつの間にか立ち上がり、今ではジリジリとこちらに近付いてきていた。


 「私の、質問に、答えろ」


 質問って……俺、何か質問されてたか?

 察するに、お前はなんでこんなとこにいるんだ俺の一人遊びの邪魔すんじゃねぇ、的なことだとは見当が付くが、ここで正直に『エロゲソングキメながらおっぱいの名付けしてたらトラックに轢かれまして、次の瞬間にはここにいました』なんて言ってみろ……懲役モノの薬物に手を出してる完全にヤバイ奴として、明日の朝刊に載ることになる。

 素直に謝って聞き逃したその質問というのをもう一度言って貰い、そこから会話の糸口を見つけるのが無難かとも思うが、質問に答えろモードが確変中の相手を前にして聞き直すというのもそれはそれで勇気のいる行為ではある。

 そんなこんなを考えている間にも、レイヤーの手が腰に下げている剣へゆっくりと伸びていっているもんだから、焦りも加わってもはやパニック寸前だ。


 「いいだろう……答えないのは貴様が宵闇の使徒だから、ということで相違ないと解釈する」


 あたふたしている俺をよそに、遂にレイヤーの手が剣の柄にかかる。

 シュキィンと小気味のいい抜刀音が沈黙を切り裂き、闇と同化しそうな暗い色の刀身が焚き火の灯りを妖しく反射した。

 っつーか、よ、よいやみの……なんだって?

 さらにここへきて聞いたこともない名詞が出てきたもんだから、思考回路がショート寸前。

 いや、これは冗談抜きに良くない空気だ。

 何か言わなくては。

 相手に敵意が無いことを告げ、お互いの距離を縮めるような、そんな会話といえば――


 「巨乳派か貧乳派かを議論する時、そこにあるのは乳に対する愛だけだと思うんだよ」


 おっぱいのことしかなかった。

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