工場を知らなかった私
私の前職は、アパレルメーカーで、提携している工場で縫ってもらったサンプルの見直しや、出荷前に、仕上った商品を送ってもらい検査をする事でした。
サンプルの見直しは、デザインの見直しや、生地の見直し。
寸法の見直しをして、枚数を調整して、仕様書(縫い方や注意事項を書いたもの)と、型紙のデータを、工場に送ります。
納期等は、事前に工場の状況をふまえて話し合って決めます。
出荷前の検査では、仕様書通りに縫えているか、寸法が正しいかを判断し、良ければ、工場に『出荷OK』の連絡を入れます。
縫製途中で、生地の不具合(色むら…色が均一ではない事。やプリント不良…生地の模様のズレや色むら)が出た場合、工場から連絡が来るので、その画像を送ってもらい、製品にしていいのか、製品にしてから生地の修正に出すのか、不良の分の枚数を減らすのか…
これも早くに答えを出して、工場に連絡します。
連絡が遅れると、縫製がストップして、納期に間に合わなくなるかもしれないからです。
そんなメーカー側の事情や仕組みを知っている私ですが
工場の見学はした事が無く、今回就職した事で、工場というものが分かりました。
この工場が、仕様書を無視しているという事も。
ある日、工場長が、メーカーと電話をしていました。
『だから〜、出来るわけないだろ。こっちは、おたくだけの商品を縫ってる訳じゃないんだよ。他のメーカーのも作ってるんだから。
納期?守れないよ。提出した予定は、あくまでも予定だから』
正論に聞こえますが、身勝手な話です。
メーカーは何を言ったか分かりませんが、電話を切った工場長は
『全く、話が通じないし、何を言ってるか分からなかったよ』
と、舌打ち。
直後、電話が鳴りました。
『はい。ファッションIです』
電話を受けた工場長の顔が、サッと青くなりました。
『社長、何でしょうか?』
『はい。はい。分かりました。予定通りにします』
工場長は、何度も頭を下げていました。
電話の後に、工場長が、ミシン場のリーダーに言っているのが聞こえました。
『メーカーが、社長にチクった。俺をバカにしてる。無理だと思うけど、納期に間に合わせてくれ』
と。
リーダーさんは『無理でしょ。どうしてもと言うなら、今日から残業します』
と言い
『ごめん皆、今日から残業』と、叫びました。