20代の新人。
20代の子も大卒でした。
それも、私よりランクの上の大学。
工場長は
『南さんより、織香ちゃんの方が、頭がいいかも』
と、ニヤニヤしながら話しかけてきました。
若い子は、最初から下の名前で呼ぶんだ…
やっぱりセクハラ工場長。
20代の子は
『織香ですぅ。よろしくお願いしま~す』
と、ニコニコと挨拶をしました。
彼女より1ヶ月だけ先輩の私。
彼女の前職は、コンビニのバイトだったようで、アパレルは初めての事ばかり。
ミスばかりの彼女に、つきっきりの工場長。
織香ちゃんは、ミスする度に
『えへへ』と笑ってごまかしています。
『ごめんなさい』も『すみません』もありません。
それでも工場長は
『仕方ないな~』とニヤけています。
ミシン場のリーダーさんも、ニコニコ顔を甘やかしていて、ミスをしても叱らず、逆に、工場長にクレームを入れます。
工場長はミシン場のリーダーさんには頭が上がらないらしく、敬語を使っていて、知らない人が見たら、リーダーさんの方が、立場が上に見えます。
クレームを言われる度に、ブツブツと独り言を言う工場長。
そのうちに、その独り言が私に向けられてきました。
私は、仕上がった製品の検査と、ボタンやスナップ付けを任されました。
これは、一応、前の会社でもしていたので、ちょっとだけ慣れていました。
…が、私がミスをしたり、ボタンの付け方が、工場長と違うと
『今まで何をしてきたの?
メーカーに居たって、この程度か?』
と、睨み付けての嫌み。
そこに、織香ちゃんが
『工場長~』と言うと、私を睨み付けていたのが嘘のように笑顔になり
『何?』と、いそいそと駆け寄ります。
ある日、織香ちゃんが、芯貼りをする事になりました。
芯貼りとは、衿や、カフスなど、しっかりさせたい場所に、熱で溶ける糊のついた生地(これが芯と呼ばれるものです)を貼る作業。
バイアス地(生地の目が斜めに裁断されているもの)も、端が伸びて、縫いにくいので、端に、伸び止めとして貼る事もあります。
工場長が、一通りやってみせて教えていました。
が。それは、時間のかかるやり方。
織香ちゃんが、工場長に言われた通りにやっていると、ミシン場のリーダーが近づいてきました。
『これは、こうした方が早くて楽よ。あ、でも、やり易い方でいいわよ』
と教えていましたが、織香ちゃんは、リーダーの言った方法を試す事無く、のんびりマイペースで、芯を貼っていました。
半日経っても、半分も終わらない芯貼り。
見かねた工場長が
『南さん、手伝って。あの調子だと、今日終わらないから』
と言ってきました。
私は、リーダーさんと同じやり方が出来たので、結局2/3を、貼りました。
そこでも織香ちゃんは、感謝するでも無く
『工場長、終わりましたぁ』と、笑顔。
この会社って…
続けられるか不安になってきました。