5.仕事
5 仕事
学生生活もだいぶ慣れてきて、充実した毎日を送っていたが、学生のほとんどが、アルバイトをしていることもあり、タケシは週に3日、アルバイトというものを生まれて初めてやってみることにした。この仕事はコンビニエンスストアで夜間の仕事だ、俊介と同じところで、やらせてもらうことになった。
事前にお店のことを聞いていたが、店長はとても厳しく、ことあるごとに、文句を言ってくるようだ。店長の大平さんは48歳にもなっていまだ独身だそうだ。
「タケシくん、今まで、アルバイトしたことあるの、な~んか、のんびりしてるけど」
「いえ、今までアルバイトはしたことがないんですよ。」
「なるほどね、まあ、俊介くんの紹介だから、大丈夫だとは思うけど、とりあえず、こっちもお給料を払うわけだから、学生気分は捨てて、しっかりと働いてもらうよ。」
「はい、がんばります。」
「結構、この仕事はきついから、すぐにやめる子が多いから、こっちもあまり期待はしてないけど、とりあえず、頑張って働いてくれよ。」
「はあ・・・」
「とりあえず、しずちゃんが仕事を教えるから、よく聞いて、早く戦力になってくれよ。」
やはり、学生という立場は店長からみると、とても、低い存在に見られるんだな。
全く、まともな面談もしないで、個人のスキルなど関係ない職場なんだな、こんなところで、続けていくことはできるのだろうか。少し心配もあったが、持ち前のポジティブ思考がそんな気持ちをすぐに打ち消した。
「タケシさ~ん」
どこから、声をだしているのか、わからないような、甲高い声で名前を呼ばれた。
「私が~、これから、仕事を教えますんで、ついてきてくださいね。」
とても高校生には見えないような、おもむきで話しをしてきた。
「だいたい、ついてこれない人はすぐにやめますから、だめそうだったら、早めに言ってくださいね、こっちも暇じゃあないんで」
やはりこの子も店長と同じで人を下に見る傾向がある、まだ、何にも仕事もしてないし、私がどういった人間か知らないくせに、なんでこんなにえらそうなんだ。
「まずは、レジ打ちですよ。バーコードスキャンして合計が出ますんで、お金もらってくださいね。お金はクレジット・スマホやスイカなどいろいろな支払い方法があるから気を付けてください。とりあえず、しばらく私の横で見ていてくださいね。」
次から次へとお客がきて、しずこはさっさと処理をしていた。しかも、私はすごく慣れてるのよといった顔でたまに私の方を見ながら、仕事をしていた。そんな中、よく見ていると、カードを使う客はどういった商品をいつも買っているのかが、読み込み時にわかるようだ。そのデータを元にレシートにサービス商品の銘柄がいつも違う。現金の客は男か女かまた年齢がいくつぐらいかを毎回、ボタンで押している、おそらく、商品に対して、どのくらいの年齢層に受けているか確認しているようだ、しかも、タバコ、レジ横ケース内やアイスなど、店員が盛り付けする商品もある、また、公共料金の支払いや、宅配便の受付など、仕事内容が多岐にわたる。店長も商品の品不足の手配をバーコードリーダーのような機械で必死に作業している、全くこんなに忙しいのに、なんてアルバイト料がこんなに安いのだ。不思議でしょうがない。
「タケシさ~ん、もうそろそろ、やってみます?少し、お店もすいてきたみたいだから、」
19時にお店に入ってもう21時かあ、なるほど、仕事帰りの人が多い時間だから、さっきまで混んでいたのか。
「さあ、やってみてください。最初は、失敗することが多くて、店長がすぐに怒るけど、めげないでくださいね。」
相変わらずの上から目線にため息がでたが、タケシはいとも簡単にレジを扱いはじめた。そればかりか、店長や他の店員が何をやっているのか、分析確認しており、お店に入ってから3日ほどで、ほとんどの仕事を覚えてしまった。仕事も慣れてきた、そんなある日、ちょっとした事が起きた、ここは上野駅のそばで、お店にはよく外国人が来るのだが、外国人の女性がしずこと店長に英語で質問をしていた。女性は二人が全く回答できないことにいらだち、少し興奮状態になっていた。タケシはいつも、店長やしずこからはお店に入ったばかりの新人は難しいお客様の相手は絶対にするな、逆に大きな問題になることがある。と言われていたので、近くでだまって見ていた。いつも、威張っている二人が、こんなに困った顔になるんだな~と観察していた。にやにやしている私を外国人女性が近づいてきて、今度はタケシにつかかってきた。でもタケシはケロっとした顔をしていた。店長としずこに
「あの~店長、この女性と話していいですか」
店長は「話すもなにも、この方は外国語で、なにを言っているか、わからないんだぞ」
「僕はよくわかりますが」
「わかるの?」
「はい」
女性は「全く英語も話せないなんて、どうなってるの。」
また、怒り出した。タケシは英語で話しはじめた。
「どうされました」
女性はびっくりした顔でタケシを見て
「チケットをネットで注文したんだけど、このお店の機械の使い方が全くわからないの」
たけしは「あ~なるほど、それなら、僕がお手伝いします、こちらにどうぞ」
タケシはペラペラと流暢な英語で対応した。しばらくして女性は上機嫌でタケシに
「サンキュー、すごく助かったわ。」
「いえいえ、うちの店員が失礼な対応をして申し訳ありません。また、ご利用してくださいね」
と話した。どうせ店長やしづこには何を言っているかわからないからと思ってニコニコしながら女性にあいさつをした。二人はたけしをみて
「タケシくんは英語が話せるんだね。びっくりしたよ。」
なにか、いつも威張っている店長がやさしく話しかけてきて、少し気持ち悪いなとタケシは思った。「なんだよ、タケシくん話せるんなら、早く言ってよ、こっちはもうどうなるかと思ったよ。面接の時にも言ってくれればよかったのに」
タケシは面接の時に店長は自分のスキルのことなど全く聞きもしなかったのに、よく言うよと思った。横で何か自分をずっと見つめている視線を感じた、はっと振り向くとしづこがこちらをみていた。その顔はいつも見下したものとは違い、やさしい顔で自分を見られていて、こちらも何か寒気のような感じがした。どうやら、しづこはこの時からタケシのことが好きになってしまったようだ。
タケシはそんなことも気にしないで、仕事にもどった。毎回、仕事では色々なことがあるが、タケシは自分で直接、お客と話したり、汗をかいて働き、安いながらもお給料をもらい、とても刺激的な日々が送れて、充実感を味わい、とても心地よかった。