4.大学
4 大学
タケシがいる大学は日本でも有数の芸術大学だ、そこに入るために、人生の多くの時間を費やし、毎年、たくさんの浪人生が生まれている。このような大学でタケシは日本画を選考している、同じ科の生徒は画力がすさまじく、才能だけでなく、ひたむきに努力する気持ちもすごい。
そんな中、タケシも負けないぐらい絵の才能があった。
それは、タケシの祖父の建造の影響だった。建築デザイナーの建造は設計段階から立体的に建物を造り上げることができ、多くの賞を取ったこともある人物でタケシは小さい時に祖父と一緒に生活していたこともあり、写真からの描写や、平面的な図面から、立体的に絵を描く技術など、時間があれば、色々と教わっていた、持ち前の分析力も時には立体的に絵を描くことで、通常の人とは、違った観点で考えることを教わったといってもいい。
しかしながら、絵はうまいのだが、芸術的センスだけは、少し欠けるものがある。
俊介とは、同じ科であり、親友ともいえる存在になりつつあるのだが、その他にも、高梨や堂本とも親しくしていた。
「タケシは相変わらず絵はうまいけど、なんか、そっくりそのまま描くよね、もう少し、なんていうかソフトに書いたほうがいいんじゃない。」
高梨はいつも頼みもしないアドバイスをしてくる。親切心はありがたいのだが、彼の絵もそんなに芸術的センスがあるとは思えないのだが、だいたい、日本画は、正確に書くことで、評価の上がる科でもある。どちらかといえば、油画のほうが、アバウトに書いて高い評価を受けるようだ。しかし、毎日、毎日、こんな静寂な環境で自分の芸術的技術向上のために時間を使っていることが、充実感があり、とても幸せなことだ。
もう一人、親しくなった堂本はかなり、無口な男だ。まず、自分から話してこない、はっきり言ってしまうと、彼は自分の作品と自分に毎日、酔いしれているからだ。簡単にいうとナルシストといことになる。だが、性格はとてもやさしい、どこかでかければ、無言でおみやげを渡してくれるし、デッサンをしている時でも、鉛筆がなくなって困っていると、すぐに渡してくれる。だが、そういう行為をする自分に酔っているようだが、とにかく、自分に害をおよぼす人間ではない。
そんな中、大学講師をしている竹中がタケシに
「お~い、サイトウ、教授が呼んでいるぞ、早めに片付けて、14時に教授室に行ってくれ」
首をかしげながらタケシは
「わかりました」と返事をしたが、どんな要件だろう。
「タケシ、なんか悪いことでもしたのか、普通、教授がいち生徒を自室に呼びつけたりしないぞ、一緒について行ってやろうか」
俊介はいいやつだが、なにかにつけて、ついてきたがる男だ。
「ドントウォーリ、一人でいけるよ。ありがとうな」
しばらくして、教授室に向かった。さすがに、大学の教授ともなると、それなりの大きな部屋であり、そこには、応接用のテーブルソファー、奥にデスク、その横に大きなモニターが部屋にあり、学生の作品をデータで送られてきたものを見れるようになっていた。
「ご足労をおかけして、すいませんね、サイトウさん」
大河内教授はタケシを無理やり大学に入れてくれた人であり、タケシの素性もすべて知っている数少ない人でもある。
「どうですが、大学生活は」
なるほど、心配をしてくれて、様子を聞くために呼んだのかなと、タケシは安心した。
「おかげさまで、毎日、楽しんでおります。世の中にはこんなに恵まれた環境で自分自身の芸術性を高めてくれる場所があったことに驚きも感じております。」
「全くいきなり、アメリカの恩師から連絡があり、実業家として有名なサイトウさんが、この大学に入りたいと言っている、何とかしてほしいとね。最初は絵もかけない一般の人はとてもついていけない学校だからと言って一時はことわりましたが、サイトウさんの作品を見て、驚きましたからね。」大河内はとても、柔軟な性格をしており、なににおいても適応能力がすごい、そして、いい意味でしたたかな男でもある。
「この学校に入るために、多大なる寄付もいただいて、何か、ご不便なことがあったら、すぐに連絡をください。秘密は絶対に守りますから。」
タケシはしばらく教授と雑談して、部屋を出た。廊下をしばらく歩いたところに俊介たちが心配して待っていてくれた。
「タケシ、大丈夫か、しかられたのか。」
俊介が心配そうに声をかけてくれた。
「なにも心配ないよ、途中から入ったから、様子を聞きたかったみたいだから」
タケシが笑いながら話したことで、三人とも、ほっとした顔をしていた、タケシはこんなことで待っていてくれるなんて、そんなことがとてもうれしかった。