15 日本呈国
浅草の建築設計者だったタケシの祖父の家は外装は和風だが内装においては
西欧風に造らられており、タケシ達がいるこの部屋もステンドグラス風の採光や
レンガ調の暖炉まであり祖父の設計が細部にまでいきとどいていた。
そんな部屋でマリは何から話して良いか考えてていた。まるで、
座禅をして目を閉じている僧侶のようにそのせいか、部屋は静尺に包まれていた。
1分ぐらいだろうか、目を開けてギロリとタケシの方を見て
「タケシさん、私は、いえ、私たちとこの世界を救うために一緒に戦ってほしんです。
私たちがこのまま何もしなければ、あと20年で人類は滅亡してしまいます。」
タケシは黙ってマリの話に集中した。
「私は、この日本を世界で最もすばらしい国として、そして、世界に平和をもたらす存在に
したいと思っています。そのためには、今の軟弱な政治体制をなくして、
新しい国とする必要があります。そう、国名は日本呈国
政治・経済・環境・軍事・教育などあらゆる面で世界最高の国としたいのです。
その手伝いをタケシさんにお願いしたいのです」
タケシはしばらく考えた。
「マリちゃん、日本帝国はまずいんじゃないかな、第二次大戦で戦争犯罪として
世界から罰せられた国だよね。そんな名前じゃ、どうかな?」
マリはハット気が付いたように
「ごめんなさい、説明が不足していたわ。呈国のていはしめす・あらわす・さしだすの
呈なの。」
「なるほど。」
「タケシさんも、しばらく日本にいたから、知っていると思うけど、
今の日本は平和ではあるけど、日本人は自分の国のことや自分のことだけを
考えていればいいと思っていて、それはテレビの影響が大きくて、経験も実績もない、
くだらない司会者が上から目線で、政治や企業など、ひとの荒を探して、
文句や意見を言っている、自分は何もできないし、世の中のために、
行動することもできない、そのことで日本人は汚染され、
人の悪口しか言わないようになってきている。どれだけ、国民に悪影響を及ぼしているか
考えもしない視聴率重視なだけ、芸能人は芸能人の仕事をして、
司会者には本当に実績のある経験者に任せればいいんだけど・・・」
マリはなぜ、テレビのことを話したのかタケシは不思議だった。
「マリちゃん、そんなテレビが何か関係あるのかな。あまり、関係しているようには
思えないんだけど。」
「そうね。昔、テレビのない時代は周りの人からいろいろなことを直接教わり、
常識というものを覚えていったけど。今はテレビがその常識を教えているの。
だから、常識のない無能な人が社会のことで報道としてテレビで話せば、
国民のレベルもどんどん落ちていくわ。これが、原因のひとつになるの」
「原因?」
「タケシさん、自分のことだけしか考えない人が世の中にあふれたら、どうなると思う?」
「それは、自分が満たされているときは、問題ないだろうけど。
今までの生活が変化したら、争いが起きるかもしれないね」
「そう、今の日本が一番やらなければいけないこと。
それは、テレビやネットでの情報発信の内容を変えることなの。
映画・ドラマ・お笑いなどはもちろん問題ないんだけど、
実績もあり、有能な方が、報道番組等で日本人をより良い方向へ導いていくことが重要なの」
「なるほどな~、そういう考え方もあるよね」
マリはすかさず
「タケシさんはまだお若いけど、日本のメディアを良い方向に舵を
取っていただける方になってほしいんです。」
「ちょっと待って、そんなことができる人はテレビ局のオーナーとか、
スポンサーとかになるよね。僕もそれなりには資産があるけど、
とても、そこまでできる力も資産もないよ」
マリはユウキと目を合わせて笑いながら
「お金は私が用意します。思いっきり、やっちゃって下さい」
タケシがあきれた顔で
「マリちゃん、、そんなお金って、1億・2億じゃできないよ、
たぶん、数百億円は必要になるんだよ」
マリはまた笑って
「大丈夫です。なにも心配ありません。もし良ければタケシさんが
動きやすくするために、タケシさんの会社を私が買って、
タケシさん代わりに新しいCEOを手配してもかまいませんよ」
タケシは驚いた顔して、
「マリちゃん、聞いてもいいかな、マリちゃんは何をしている人なの。18歳の女の子が
そんなお金、なんで持っているの?僕をからかっていない?」
マリはなるほどといった顔で
「それでは、場所を変えましょう。」
タケシの祖父に挨拶をして、浅草を後にした。