13 生きるということ
静まりかえったビルの中は外とは違う寒さを感じた。
ユウキとかいう不思議な男に連れられビルの20階へ
エレベーターで上がっていった。
「さあ、着きましたよ」
そこはかなり広い空間で300㎡はあるだろうか。洗練されたデザインのテーブルや
イスが少し置いてあり、その奥にマリが立っていた。
「こんんちは、タケシさん」
「こんにちは、マリちゃんこの人は誰なの」
「ユウキのこと?ユウキは私のパートナー とは言っても恋人ではないわ、一緒にある目的に向かって戦う同志のような存在かな」
「同士?」
「そう、タケシさん、単刀直入に言うわ、私の仲間に入ってもらいたいの」
「仲間?ちょっと待って、マリちゃん急にこんなビルに連れられてこられて、それに僕は君とちょっとカフェでコーヒーでも飲んで少し話をしてみたかっただけなんだけど」
「ごめんなさい、前回、あなたと会ってピンときたの、この人は将来、大きなことを成し遂げられる存在になると。だから、タケシさんから連絡先を前回、聞かれて、とてもうれしかったわ、また必ず連絡がくると思ったから」
「かいかぶりだよ。僕みたいな貧乏学生にそんなことできるわけないよ。」
「ふふふ・・・、タケシさん、私の前でもうそんなウソつかなくていいですよ。
T,Sエンタープライズ代表のタケシ サイトウさん」
「・・・・、マリちゃん僕のことを最初から知っていたのかい!」
「最初は中学の同級生シズコに行きたい美術大学の知り合いが
いるということで大学に行って、はじめてタケシさんに会ったから、最初は全く知らなかったわ。でも、その時、あなたの言動や人に対する気遣い、物事に対しての常人外れした分析力 すぐにタケシさんがただものではないとわかったわ。
たくさんの方を統率したり、お金持ちであることも、見た目は学生だけど行動はとても学生には見えなかったもの」
「ふ~、全く、ものすごい洞察力だな。そのことを瞬時に見抜くマリちゃんこそ、すごすぎるでしょ」
ふたりは目を合わせた途端、思いっきり笑ってしまった。それを横で聞いているユウキも
楽しそうに二人を見ていた。
「マリちゃん、さっき仲間と言ったけど、どんな仲間なのかな。
友達になりたいということかな。いや、このビルやユウキさんがいることや僕に声をかけてくることから、たぶん、世界に向けて何か発信、いや、もっと大きなこと・・・」
しばらくタケシは考えた。
「想像だけど、この日本いや世界を大きく変えるプロジェクトをやろうとしているのかな」
また、近くにいるユウキが楽しそうに笑った。
「やっぱり、間違いなかったわ。タケシさんで」
マリもまた楽しそうに笑った。
「タケシさんには、仲間になってもらいたから、正直にすべてを話します」
急にマリの目つきが変わった。
「私は飛島マリ、中学3年生にそこにいるユウキと出会い、近い将来、この世界、人類を滅亡から 守る使命を任せられた、平和への使者なの」
ユウキは口をポカンと開けてその話を聞いていた。
「マリちゃん、僕もそれなりに人生を生きてきたけど、ちょっとその話はとても信じられないな、だいたい、なんで人類が滅亡するということがわかるの?」
「タケシさん、ハインリッヒの法則はご存じですか」
「知ってるよ、たしか、重大事故が1件起きるにはそれに至らなかった29件の軽微な事故がありその背後にはヒヤリハット(ハットしたりすること)
事故寸前の300件の異常があることだよね」
「さすがです。この世界にも大きな犯罪や戦争や大規模テロなど、いきなり起きているようですがそこに至るまでには、たくさんのヒヤリハット状態異常があるからです」
「う~ん、確かにそうかもしれないけど、近い将来に必ず起きるっていうことを信じろといわれてもな~」
「確かにそうですよね・・・」
そばで話を聞いていたユウキがマリとタケシに近づいてきた、
「マリ、もう全部タケシさんに話したらどうかな、お互いのことを信じるためにはそうするしかないよ」
マリはうなずいて、
「タケシさん、そこにいるユウキだけど・・・実は宇宙人なの」
「え、マリちゃん、僕のことをからかっているの?こんなこと言われたら余計信じられなくなっちゃうよ」
「本当よ、う~ん、どうしたら信じてもらえるか。あ、そうだ。
タケシさん行きたいところありますか」
「どうしたの、急に、よくわかない質問だけど。
そうだな~忙しくてなかなか行けなかった、浅草の
おじいちゃんの家に行きたいと思ってるけどね」
「近いですね、住所はどこですか」
マリはタケシに聞いた住所をユウキに確認して
「ユウキ、私とタケシさんを連れてッて」
「了解、マリ」
ユウキは腕に手をあてて、聞いたことのない言語でつぶやいた。
その瞬間、目の前に閃光が走った。
タケシは慌てて目を閉じた。
「マリ、着いたよ」
「タケシさん、目を開けてください。おじいさん家に着きましたよ」
タケシが目を開けた途端、家の前で掃き掃除をしていたおじいちゃんと目があった。
「タケシか、驚いたぞ、急に来てこの子は連絡ぐらいしてから来い。」
タケシは何が起きているか、把握できなかった。
あれさっき六本木にいて、今、浅草?
「は、」
眠らされて連れてこられたと思った。
しかし、時計をみたら、さっきいた時間から
1分も経っていない。タケシはマリとユウキを見て信じられないといった顔で
「どうなってるの、これ」
「タケシさん、これでわかったかしら、ユウキのこと」
たけしはウンウンと顔を頷いた。
その横でタケシのおじいさんは
「なんかよくわからんが、お友達もいるのかい、中でお茶でも飲んできな」
タケシはまだ、茫然としていたが、マリが
「タケシさん、大丈夫ですか?さっきタケシさんが言っていたカフェではないですけどおじい様のお宅というのも、お茶をする場所としてはいいですよね」
マリはタケシを見て笑った。
タケシはまたウンウンと顔を頷いた。