12 再開と使命
12 再開と使命
大学内の木々もすっかり葉を落として東京はもうすぐ冬になろうとしていた。
タケシはやはり、大学祭の時に会ったマリのことが忘れられなかった。
たしかに、アメリカに戻る前に他にもやりたいことはある、だが、どうしてもマリに会って
色々と話してみたいと思っていた。
タケシは教室の窓から外の空の雲を見ながら、ボーっとしていた。
「こんなにも惹かれる女性が今までいただろうか。あんなにまるで魔女のような感覚、
まったく読めない感情、とにかく連絡をしてみよう」
タケシは俊介には内緒で、人が誰もいない校舎の裏のベンチに腰をかけて電話をしてみた。
「プルルルル、カチャ、はい、タケシさん、どうしました?」
マリがすぐに電話にでた。
「あ、久しぶり、元気?」
「はい、元気です。」
「マリちゃん、また、どこかで会えないかな?、君と色々と話したいことがあるんだけど」
「いいですよ」
相変わらず、マリの返答は早い。
「それじゃ、次の日曜日に山梨の方にいけばいいかな?」
「次の日曜日は東京にいますから、六本木ヒルズで待ち合わせでいいですかね」
「ああいいよ」
「それでは、次の日曜日で」
すぐに電話が切れてしまった。
マリもタケシには興味があったようで、前回あった時に連絡先を交換していた。
「よし、とりあえずこれでよし、あとはバイト先の店長にバイトをやめることをいうか」
タケシはこの数か月、日本で体験したことは、たぶん一生忘れないだろうと思っていた。
自分で体を動かして働くこと、その中で、直接たくさんのいろいろな人と話せるすばらしさ
これで終わってしまうと思うととても切ない気持ちでいっぱいになった。
夜になりアルバイトに行く途中でシズコや俊介にアルバイトをやめる話を電話でした。
実家の都合でということでアメリカに帰るということにした。
アルバイト先について店長にもアルバイトをやめる話をした。人が不足しているから、
やめないでほしいと言われたが、実家の都合ということで、了承してもらった。
そんな時、シズコや俊介がバイト先に出勤日でもないのに、来てくれた。
「タケシ、せっかくバイトもなれてきて、楽しくやっていたのに、本当に残念だ。大学もやめてしまうのか?」
「タケシさん、急すぎます。せっかく、知り合いになれて、親しくなったのに、私、タケシさんのこと
大好きだったのよ」
タケシは二人が自分のことを一生懸命に話してくれることが、うれしくてしょうがなかった。
「ありがとう、あと2週間したら、アメリカに帰ります。本当に楽しかったよ」
俊介が「そうだ、みんなで今度送別会をやろう。いいよなタケシ」
「ああ、やろう」
タケシは残り少ない日々を1日でも無駄にしないようにと思った。
さわやかな雲もない空が広がっている、そんな日曜日の朝が来た。
タケシはマリとの待ち合わせに遅れないように早めに家を出た。
上野から六本木までは電車で行くと日比谷線で30分程度で着く。
一人で行くはずなのだが、最近気が付いたのだが、アンダーソンが見えないところから
必ず出かけるときは尾行している。何度も注意したが、私の身の安全のためということで
付いてくるなと言ってもいうことをきかない。
もう、気にしないことにして、目的地の六本木ヒルズ前に着いた。
30分も前に着いたため、あたりを見渡してもマリの姿はなかった。
しかし、一人の男がニコニコした顔で近づいてきた。
「お待ちしていました。タケシさん」
「あなたは誰ですか。」
「マリに頼まれて来たものです。さあ、こちらのビルの屋上でマリが待っていますから」
「ちょっと待ってください。どういうこですか。あなたは誰ですか?」
「私はユウキと言います。あなたとマリは大変な使命を持っているんですよ。
さあ、どうぞこちらへ、それともう1人のお連れの方は来れませんので、ご了解ください。」
タケシは怪しいその男のあとを疑いながらも、ゆっくりと追うようにビルに入って行った。