僕は情けないままだったみたいです
金曜日になったので稔は吉田君に連れられて合コンに参加しました。
今、僕は会社の同僚の吉田君に連れられて合コン会場に向かっている。……吉田君は、盛り上がるって言ってくれたけど、本当に大丈夫かな?
オシャレな店だよね。最近の合コンってこんな感じなんだ。学生の時はお金もなかったから安い居酒屋だったけど、社会人の合コンは違うんだなぁ。確かこういうのは男性が多めだったよね。昔は奢るのが当たり前だったけど、そういうのも変わってきたって雑誌に書いてあった。まあ、給与ももらってるし僕が多めに払うのは良いよね?
「星田さん、なんか場慣れしてるって感じで落ち着いてるっすね。大人な振る舞いが渋いっす!」
「そんなことないですよ。吉田さんの交友関係の広さを尊敬しますよ」
「ありがとうございます! 星田さんは合コン久しぶりって聞いたんで、場の温めは任せてください! いつもの職場トーク、かなりイケてますから!」
あれ? そんなに職場で話してるっけ? 薫姉さんから「相手の気持ちになって話をしろ!」ぐらいしか言われてないんだけどなぁ?
そんな中、相手の女の子達が到着してきた。うわー可愛い子が多いなぁ。黒崎さんに似ている人もいる……って、黒崎さん?! や……ヤバイ!
僕が黒崎さんから見つからないように気配を消していると吉田君が挨拶を始める。
「今日は皆さんと出会えて最高っす! 僕こと吉田と清水さんが知り合いで、今回の場を作らせてもらいました! 今日は楽しんで飲みましょう! 乾杯!」
うわー……始まっちゃったよ。黒崎さんとは対角に座ったから大丈夫だよね? 8人いるから何とかなるよね? なんか、背中に汗かいちゃうよ……
「吉田さんとはどういうご関係なんですか?」
隣の子が話しかけてくれてるけど、黒崎さんが気になって会話にならないよ……怖いよ……バレてないかな……とりあえず、笑顔をキープしておこう……
「あれ? 星田さんの事が気になるっすか? この人、マジでスーパーマンっすよ! 仕事は出来るし、料理も出来るんっすよ! ね、星田さん!」
吉田君、あまりハードル上げないで……お酒の席だし自慢系は良くないって本に書いてあったし……
「そんなことないよ。仕事は僕は皆のお手伝いしてるぐらいで……料理も嗜む程度だよ」
「また、謙遜してー! 毎食作ってるって言ってたじゃないっすか! あと、謙遜してるけど、仕事はまじヤバイんだよ。目の前でバンバン不具合が治っていくのを見たらビビるよ!」
「吉田君、不具合って言っても皆わからないよ?」
少し酔い出してる吉田君をフォローしなきゃ。あと、なんか褒め殺しされてるみたいで、むず痒い……
「大丈夫っすよ! ここにいる女の子達は業界近いから、分かってくれるっす。俺も星田さんみたいになりたいっす!」
うん。吉田君は酔ってるね。隣の女の子は「筋肉あるんですね」って触ってくるから、後でお金を請求されそうでちょっと怖い。そして僕は、黒崎さんに正体がバレてないかが気になって仕方がない。まあ、黒崎さんは楽しそうにしてるみたいだから僕も楽しいかな……
◇
やっと合コン終わったよ。なんとか切り抜けたよ。吉田君からは「2次会行きましょう!」って言われたけど、そういう気分にはなれなかった。とりあえず帰ろう。
と思ってたら、突然誰かに腕を掴まれた。ええ! く、黒崎さん? これは、動揺を見せちゃいけない。
「星田さん? 私も2次会の気分じゃなくて……もし、まだお時間あるなら私と飲み直しませんか? 星田さんとは席が遠かったのであまり話せなかったし……それに星田さん、たまに私を見てくれてましたよね?」
うわ……見てたの黒崎さんにバレてたんだ。だめだ、心拍数が上がるよ。ここは冷静に切り抜けるんだ。
「わかりました。黒崎さん。近くに良い店があったと思いますのでそこで飲み直しましょう」
「わぁ、私の名前を覚えててくれたんですね。ありがとうございます!」
僕が黒崎さんの事を忘れるわけがないじゃないか……僕は街のリサーチで見つけていたお酒が飲める店に彼女と一緒に行くことにした。
◇
「「乾杯!」」
僕は黒崎さんと乾杯をする。黒崎さんは僕だってことを気付いてないようだ。元同じ会社だったので、彼女の愚痴とかを聞くことができてる。
「星田さんと話すと、とっても楽しいです! なんか、わかってもらえる感じがする」
「はは。そう言ってもらえると嬉しいよ。黒崎さんは可愛いから想ってもらえる人はいっぱいいたでしょう?」
今の僕は黒崎さんが言っていた鏡で自分を見直せと言った言葉が良くわかる。だから、あえて昔を思い出す言葉を言ってみた。黒崎さんとの思い出を捨てきれない情けない自分を断ち切るために……
「そういえば、数カ月前に会社に星田という名前の人に告白されました。あ、星田さん、気にしないでください。その人は名前が一緒でも星田さんとは全然違います。ダメダメな人だったので、もちろん断りました」
黒崎さんは名前を出すことで何か話題にしたかもしれないけど、僕は自分の免許証をそっと彼女に差し出して見せた。
「黙っていて、ごめんね。でも僕は黒崎さんの事を騙したくないんだ……僕の好きな人だったから。もし黒崎さんが騙したことに腹が立って、今日の事を吉田君達に言いたかったら言ってくれても構わないよ」
僕は呆然としている黒崎さんを残し、会計を済まして店を後にする。ちょっと涙が出た。やっぱり、黒崎さんを嫌いになれない。僕は情けないまま、生まれ変われてないままだ……また、振られちゃったな……
ちょっとだけシリアス回でした。恋愛コメディなのですが、恋愛要素を増やすためにはこういうのも必要だと思っています。