僕は合コンに行くことになりました
稔は会社に上手く馴染んでいるようです。仕事に関しては元エースなので問題はなさそうです。
「星田さんって、毎日定時になったらすぐ帰るからビックリしてたっすけど、レビューや提案が常にシステムに登録されてますし凄いっすよね。俺も仕事が早くなった気がするっす!」
僕が薫姉さんの会社に入って数週間経ったある日、若手で軽い感じの吉田君がいきなり話しかけてきたから驚いた。
え? だって、それが仕事だし、定時に帰らないとご飯も作れないし……薫姉さんがたまに食べにくるから気も抜けないし……あれ? リーダー格の田辺君も話に加わってきた?
「うんうん。僕らも仕事に余裕ができたというか、定時に帰れる日が多くなってプライベートが充実してきたんですよね。最近では星田さんがアーキテクトにつく仕事に入りたいって希望もあるぐらいですよ」
それはみんなが綺麗なプログラムを書いてくれてるから、僕はちょっと見るだけで仕事終っちゃうし……あ……二人共、雑談始めちゃった。まぁいっか……僕も休憩しちゃおう。
「そんなことないですよ。皆さんが頑張ってくれるおかげで僕も頑張れますから。二人のプライベートの充実の手伝いが出来ているなら良かったです」
爽やか会話マニュアルだと、謙遜しながら笑顔で良いはず。上手く笑顔作れてるかな……
「くー……さすがはイケメン! 言う事に余裕があるっす。こんな彼氏がいる彼女が羨ましいっす」
イケメン? もしかして僕の事? 吉田君……視力測り直したほうがいいよ? 彼女? 3ヶ月前にフラレたばっかりだよ! でも、フラらたことは隠しておきたいなぁ。よし、これも会話マニュアル通りに……
「そんなにモテないですよ。彼女はいないですし。二人はどうなんです?」
僕の話は軽く流して同じ質問を笑顔でブーメラン返し。これでいけるはず。
「まじっすか? 彼女いないっすか? じゃあ、合コン行きましょうよ! 俺がセッティングするっす!」
吉田君! まだ喰い付くの? 会社の女の子達のいる前で大きな声で僕に彼女がいないなんて言わないで……ほら、周りの女の子がチラチラと僕らを見ているよ。ブサイクを脱出した普メンが自惚れるなって思われてるんだろうなぁ。ここは早く話題を終わらせちゃおう。
「ちょっと休憩しすぎましたね。そろそろ仕事に戻りませんか? 僕も仕事終わらせたら家に帰ってご飯作らないといけないですから」
「まじっすか? 料理もできるんですか? 完璧超人っすね! あ、仕事の邪魔してスミマセンでした」
吉田君、変なツッコミやめて! ああ……周りの女の子達から「ちょっと、料理……」とか言われてる。薫姉さん……料理ができるのはポイント高いんじゃないの? なんか変な空気流れちゃってるよ? もう、いた堪れないから急いで仕事しよう。会話って難しいよ……
◇
はあ、何とか仕事終わったよ……なんか、女の子達の目が怖かったし、早く帰ろうっと。
僕が定時になっていそいそと帰る準備をしていると、吉田君が近寄ってくる。
「星田さん! 金曜日暇っすか?」
吉田君……今日はグイグイくるね?
「特に予定はないですよ? どうしました?」
「よかったっす! 合コン行きましょう! 昼に誘いますって言ったじゃないっすか!」
え? 昼のお誘いは社交辞令じゃないの? 合コンは大学生の時に行った事あるけど、あまり馴染めなかったし……なんか断る言い訳ないかなぁ……
「ほ、ほら! 僕はもう30才だし、吉田さんのような若い集まりだと浮いちゃうんじゃないかな? そんなの悪いよ」
よし! 上手い言い訳ができたぁ。あれ? 周りから「30才なの?」とか言われてるし……やっぱり、老けて見られてるのかな?
「星田さんって若いのに落ち着いてるなって思ってたら、やっぱり大人だったんすね!」
え? 吉田君には若く見られてたんだ? でも、合コンはハードル高いなぁ……ここは正直に言ってしまおう……
「合コンなんて、しばらくしてないし、集まって飲むなら会社の皆と飲むなんてどうかな? なんだったら、僕の家でホームパーティーでも……」
「いや、星田さんが合コンにくれば、盛り上がるの間違いないっす! じゃあ、決まりで!」
周りから「ちっ」って声が聞こえる……え? もしかしてホームパーティーとか気持ち悪かったのかな? 吉田君は勝手に決めてどっかに行っちゃうし……
僕が途方に暮れて、とにかく帰ろうと準備していると凛子さんが近づいてくる。どうしたんだろ?
「星田さん。ホームパーティー。言ったからには開催してくださいね?」
ええ……凛子さん……そこ拾うの?
稔は薫姉さんに仕込まれて、会話をできるだけ爽やかにすることを心がけています。稔は上手く対応したみたいですが、どう答えて良いか困る会話や質問ってありますよね。