僕はハッピーエンドになりました……よね?
最終回となります。
月曜日、僕は薫姉さんに話を聞いてもらう為に、仕事が終わったので社長室に入る。僕が日曜日に考えたことを薫姉さんに確認しないと心配だよ。
「薫姉さん、相談があるのですが……」
「稔? どうしたんや?」
今日の作戦を実行するために、あらかじめ静江さんには夕飯まで僕の家にいてもらうことにしている。
「静江さんの検査の結果が出たのですが、問題ないようです。だから、前に話したようにお付き合いをお願いしようと思って、今日家に残ってもらっているのですが、タイミングは大丈夫でしょうか?」
「はあ?」
な……なに? どうして「はあ?」って言ってるんだろ……なんか間違えたかな? 心配なことは相談するのは当たり前だよね?
「稔……土曜に医者が大丈夫って言ったんやろ? 二人でええ雰囲気になったんちゃうんか?」
「キ、キスはしましたよ! そ……その後はお祝いにご飯を食べにいきました!」
あれ? 薫姉さんは頭を抱えてる……どうしたんだろ? この状況って僕が悪いの? 何か間違ってるの? 誰か教えて!
「嘘やろ……稔……そこは一気に付き合おうって言うところやろ! なんなら押し倒してもよかったやん!」
「ええー?! そうだったんですか!」
なんてこったい! 僕も思わず頭を抱えたよ。なんか薫姉さんと二人で頭を抱えて悶絶している様子はかなりシュールな気がする。
「まあ、ええわ。まだ、チャンスはある。それで稔はどうするつもりやねん?」
「再就職先を探す約束をしているので……ぼ、僕のところに永久就職しませんかって言おうと思っています。でも、意味が通じなかったら困るので、結婚を前提に付き合ってほしいと更に言う感じで……そして、同棲してほしいって言おうかと……」
薫姉さん、目を見開いて固まったよ? だめだったかな? しばらくして肩をプルプルさせたよ。
「稔……そ、そこまでクサイ台詞よう吐けるな! まあ、静江っちも鈍そうやから、そのほうがええかもな! いまから頑張ってきいや!」
「な、なんですか?! いつも茶化しますよね! じゃあ、帰ります。お疲れさまでした」
とりあえず、大丈夫って言われたから社長室を出ようとすると、凛子さんと美玲が社長室に入ってきたよ。なんか雰囲気が怖いけど、どうしたのかな?
「美玲と凛子さんはまだ仕事なのかい?」
「ええ……大切なお話を社長としないといけないから……稔、お疲れさま」
二人共どうしたんだろ?
◇
僕は頭の中で何回もセリフを繰り返す。大丈夫、あのときはキスもできたし、今回の申し出は断られないはず……断られないはず……断られないはず。気持ちを落ち着けて、僕は家の扉を開ける。
「ただいま帰りました」
「あ、おかえりなさい。ご飯の準備はできています。支度をしましょうか?」
ああ……「おかえりなさい」って、なんて良い言葉なんだろう……静江さんから良い返事を貰えたら、これを毎日聞くことができるんだ!
「いえ、その前に話したいことがあるので、リビングで聞いてもらえないでしょうか?」
「は、はい……?」
静江さんは不思議そうな顔をしている。二人でリビングに向かう。よし、言うぞ!
「あー……静江さん。貴方はこの一ヶ月よく頑張りました」
「稔さん? どうされました? 青春ドラマの最後の台詞のようになっていますよ?」
なんか、デジャブのような気がするけど、気にしちゃ負けだよ。ここが勝負だ!
「静江さんは、もう大丈夫です。だから再就職先を探してきました」
「え? そ、そうですか……」
ここまでは予定通りだ。ここで「僕のところに永久就職しませんか」って言うんだ!
「静江さん!」
「は、はい!」
静江さんは僕の目をみてる。静江さんの目は心配そうだけど、ここで安心させる!
「僕のところに……」
「「「ちょっと、まったぁー!」」」
「「え?」」
僕と静江さんが玄関の方をみると、美玲と凛子さんと由美ちゃん、そしてグルグル巻に縛られてる薫姉さんにロープをもってる吉田君がいる……さすがの吉田君も苦笑い……って薫姉さんどうしたの?!
「稔……すまん……全部バレてもうた……」
「稔! 私達に隠し事はなしっていったはずよ! 怪しいって思って由美ちゃんに調べてもらってよかったわ。そのことを社長に問いただしたらすべて白状したわ」
「美玲さんに言われて、お兄ちゃんの家を調査してたら、静江さんがいるじゃないですか! パーフェクトインビジブルステルスチェイサーを甘く見ましたね!」
ええ……なにそれ? どういうこと? それに由美ちゃんの技の名前がパワーアップしてる? って、凛子さんが静江さんの前に歩いてきたよ?
「静江さん、これは会社の書類です。サインをお願いします」
「は、はい……」
静江さんも訳が分からずにサインをしてる?! いや、書類の内容を確認しようよ!
「これで、稔さんが心配されていました静江さんの再就職の件は完了しました。静江さんは弊社の社員として働いてもらいます」
なにそれ?! 僕が準備していた永久就職の言葉はどうすればいいの?! 静江さんも唖然としたままだよ。
「静江さん、私達負けませんからね! じゃあ、落ち着いたことだし、みんなでホームパーティーでもしよ!」
「美玲さんの提案は素晴らしいですね。吉田、酒を買ってきなさい!」
「凛子ひどいっすよ! 人使い荒いっすよ。まあ、いいけど今度またデート頼むっす!」
あ……凛子さん、吉田君とデートに行ったんだ。
「吉田! 映画に一回行っただけで調子に乗るな! 私はまだ稔さんのことを諦めてないの!」
吉田君は凛子さんのパンチを華麗に避けて、お酒を買いに行っちゃったよ……ん? 静江さんはクスクスと笑ってる。
「みなさん! 私も負けませんよ!」
静江さんは、三人の輪の中にいっちゃったよ。あ……ぐるぐる巻にされてる薫姉さんを助けなきゃ。僕は急いで薫姉さんのところに行く。僕は薫姉さんに巻かれている縄を解きながら考えた。
薫姉さんがいなければ、僕は駄目なまま終わっていたよ。薫姉さんの「自身を磨けって」って言葉のおかげだよ。改めてお礼を言わなきゃ……
「薫姉さん、生まれ変わらせてくれて、ありがとうございます!」
「おう! そやな。これからも頑張れ!」
僕と薫姉さんは顔を見合わせると、お互いに笑いあった。
Fin.
これにて、物語は終わりとなります。長期に渡るご支援ありがとうございました。
また、立ち寄ってお読み頂いた皆様、ブックマークをして頂いた皆様、途中にも関わらず評価をして頂いた皆様、本当にありがとうございます。
ここに簡単に感想を書かせていただきます。
今回、初の10万字を超える作品を書かせていただきました。10万字は一つの節目になるという事でチャレンジさせて頂いた次第です。無事に目標を達成することができました。これも皆様の支えがあってのことだと感謝しております。
私のスタイルは、始まり方と終わり方をまず決めて、あとを埋める感じなのは変わっていません。本作品では大枠のプロットに沿いながらも、ネタを考えつつ進めていきました。実はネタ詰まりも起こしかけたのですが、感想のおかげでネタになるキャラを増やせたという背景もあります。
また、本作品の執筆中にゲラゲラコンテストがあり、そのときに色々な方とご縁を結ばせて頂きました。執筆前にご縁を頂いていた方と共に幾度となく感想を頂けましたし、非常に満足した執筆活動だったと感じています。
まだまだ、試行錯誤中ですし、色々なジャンルの小説を書いてみたいと思っています。
さらなるご縁を頂ければ励みになりますので、まだご縁をいただけていない方からも感想を頂けると嬉しいです。
今後もお付き合いして頂ければと考えております。
皆様がよい小説に出会うことを
茂木多弥




