僕は一緒に喜びを分かち合いました
前回の結果として、静江さんが見つかったことを薫姐さんはごまかし切れたみたいです。
金曜日、仕事が終わって家に帰ると玄関に靴が残ってたよ。静江さんはまだいるのかな? 僕がそっとリビングに入ると静江さんがソファでスヤスヤと寝息を立てていた。
「疲れてたのかな……」
なんとなく言葉が漏れたけど、起こす気にはなれないので、そのままソファに静江さんを寝かしておく。そうだ! ちょっとサプライズをしようかな。
僕は冷蔵庫を確認する。キャベツに、鶏肉、豆腐があるよ。僕は鍋を取り出し、カツオ出汁パックをいれて出汁を取る。具材それぞれを一口サイズにカットして、まず鶏肉を鍋に投入した。鶏肉に火が通るまでに鰹節と醤油ベースのつけダレを作る。鶏肉に火が通ったら、豆腐とキャベツをいれる。あとはしばらく煮込んだら、簡単豆腐鍋の完成だよ。あっ、静江さんが起きたみたいだ。
「す……すみません! 私、寝てたみたいで……本当は帰らないといけなかったのに」
「大丈夫ですよ。静江さんは少し疲れてたんですね。逆に無理をさせて申し訳ないです。今から帰ってもご飯を作るのが大変でしょうから夕飯を一緒に食べませんか? お鍋を作ったんですよ」
静江さんは下を向いたままだ。もしかして、夕飯を一緒に食べるのは嫌だったのかな……どうしよう……浮かれてたのは僕だけ?
「あの! 明日の朝は病院に行く日なんです……」
「え?」
あ……静江さんと再会して、もう1ヶ月経ったんだ。たしか静江さんは病院に行くのは1か月後って言ってたよ。そうか……だから不安で疲れてしまったんだ。
「本当は手紙で伝えておこうと思ったのですが、書けなかったので……」
「大丈夫ですよ。じゃあ、明日は家政婦の仕事をお休みにしましょう」
残念だけど、明日は僕一人だね……ちょっと、寂しいけど病院に行くんだから仕方ないよね……って、あれ? 静江さんは何かまだ言いたそうにしてる。
「結果を……結果を聞いてもらえないですか? 明日、診察が終わったら必ずここに来ますので」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。どんな結果でも僕が聞きます」
静江さんは顔を上げて、僕を見つめてきた。静江さんの頬が少し頬が赤らんでる。
「そして……もし、明日……お医者様から大丈夫と言われたら、お祝いにキスをしてほしいです……」
「え? あ……わ、わかりました」
なんか、僕も恥ずかしくなったよ。二人して下を向いてると、『グ~』って音が聞こえた。静江さんのお腹が可愛いく鳴ったよ。静江さんが顔を真っ赤にして手で隠してしまった。
「さあ、ご飯を一緒に食べましょう。食べないと元気がでないですからね」
僕は静江さんの手を取って、食卓の椅子に座らせた。
◇
土曜日の朝。もし、今日の検査が大丈夫だったら、静江さんも自信が持てるようになるし、僕の役割も終わりかな。約束もしてたし、静江さんの再就職先をそろそろ探さないといけない。再就職先が決まったら、今の家政婦さんで来てもらっている関係も終わりか……ちょっと寂しいな……
そんなことを考えながら、再就職のことを調べて朝を過ごすと、あっという間に昼になった。僕はカップラーメンを食べる。たまに食べるジャンクフードは悪くないけど、朝も昼も一人でご飯を食べるのは味気ないよね……食べ終わって、ぼーっとしているとチャイムが鳴ったよ。
僕は急いで玄関にいく。静江さんはドアをあけて家に入ってきた。息を切らしているよ? そして、なんか顔が嬉しそうだ。
「稔さん! お医者様から、もう大丈夫って言われました!」
静江さんは靴を脱ぐと、僕の胸に飛び込んで抱きついてきたよ。僕も思わず静江さんを抱きしめる。胸が当たってる……体が柔らかい……良い匂いがする……って理性が飛びそうだった! 危ない……
「本当に良かったですね。これで静江さんは大丈夫です」
静江さんは僕に抱きついたまま顔を上げたよ。僕のほうが背が高いから自然と上目づかいのようになる。すごく可愛い……しかも目が潤んでる。僕たちは自然と惹かれあって顔を近づける。そして、そのままキスをした。
お互いの唇が触れていた時間はとても長く感じたよ。唇が離れた時、静江さんは恥ずかしくなったのか、僕の胸に顔を埋めてきた。しばらくして、静江さんは僕を抱きしめている腕を緩めて少し離れた。
「ありがとうございました。午前はお掃除ができなかったので、今からしますね」
静江さんは恥ずかしそうに微笑むとリビングのほうに行こうとする。
「あの!」
「はい、なんでしょうか?」
あ……名残惜しくて、思わず呼び止めてしまったよ。
「朝と昼は一緒にご飯を食べれなかったので、夜一緒にご飯を食べに行きませんか?」
「もちろん、喜んで」
静江さんは笑顔で答えてくれた。よかった。でも、静江さんが再就職したら今よりも一緒に過ごせなくなるのか……やだなぁ。なんかいい方法はないかな……そ、そうだ! いい考えがある! これは会社で薫姐さんに聞いてみよう。
次回は最終話になります。稔は何を思いついたのでしょうか?




