僕は秘密を隠し通すつもりです
薫姉さんが海外出張から帰ってきました
今日は正念場だよ。薫姉さんが日本に帰ってるはずだから、今日の朝ごはんに「久しぶりに日本食を食べたい」って感じで僕の家に来そうな気がする。でも、静江さんがいるからビックリするのも予想できるよ……
「アロハ~。稔、帰ってきたで!」
薫姉さん……アロハはハワイだよ……貴女は本場のアメリカ本土に行ってきたんでしょう? まあ、この程度のボケは予定通りだよ。
「稔、元気しとったん……って……し、静江っちやん?! 稔、見つかったんか!」
期待を裏切らない反応だよね……ここはあらかじめ決めていた作戦を実行だよ。
「家政婦の静江さんです」
「家政婦の藤堂静江です。よろしくお願い致します」
実は静江さんとは事前に、こういう展開になるだろうって相談しておいたんだよ。
「いや、おかしいやろ! なんで朝からいるねん!」
「それは、僕が朝食からお願いしてるからです。静江さん、朝ごはんは3人分でお願いします」
「はい、わかりました」
ここまでは予定通りだ。相手は薫姉さんだから油断はならないよ。
「そうか……なんか判らんけど、言いたくない事もあるんやな? まあ、ええわ。それより静江っちが無事で良かったわ」
「はい。偶然に出会うことができて、家政婦をお願いしてるんです。朝食の支度と部屋の掃除をお願いしています」
あれ? 意外と普通の反応だよ? 薫姉さんの興味のポイントがわからないよ?
「ところで静江っち、なんかグラマラスになったか? こうボンッキュッボンとなっとるぞ?」
「そ……それは稔さんに手ほどきを……」
わー! ちょっと静江さん、それの発言は誤解を呼ぶよ! でも、静江さんは2週間でだいぶ痩せたんだよね。気にしないようにしてたけど、胸とお尻は大きいままでメリハリがついたというか……
「き、筋トレの話ですよ! 誤解しないでくださいね」
「ある意味びっくりしたやん! ほんまは一緒に住んどるんちゃうんか?」
ほら、やっぱり誤解したよ……一緒に住むのを一瞬想像しちゃったけど、家政婦のお仕事は静江さんのリハビリだし、お互いにプライベートがあるからね……
「そんな事あるわけないじゃないですか。はい、ご飯を食べますよ!」
「そうやな……じゃあ、ご相伴に預かるわ……って茶碗蒸しやん! 和食たまらんわ!」
僕達3人は朝食を食べ始める。うん、茶碗蒸しも美味しいや!
「静江さん、この茶碗蒸し美味しいです。いつもありがとうございます」
「稔さんは、いつもしっかり食べてくれるので作り甲斐があります。褒めて頂きありがとうございます」
静江さんはニッコリと微笑んでくれる。ん? なんか薫姉さん僕達を見てるよ? まあいいや。
「静江さん、街の様子はどうですか? 何か新しい発見はありましたか?」
「はい、昨日は電車に載って海離宮恩賜庭園に行ってきました。静かでとても落ち着いていました」
公園の散歩って良いよね……静江さんのリハビリ終わったら、一緒に行きたいなぁ……って、やっぱり薫姉さん、僕達をみてるよね?
「薫姉さん、どうされました?」
「お前ら見てると、砂糖吐きそうや……会ったばっかりやのに、また旦那に会いたくなるわ」
ん? 砂を吐くほど甘いってこと? そんな要素あったかな……って、旦那?!
「え? 薫姉さん結婚してたんですか?」
「あほか! しとるに決まってるやろ! こんなええ女を男がほっとくわけないわ」
薫姉さんは心外なって顔をしているけど、旦那さんいるのに僕の家に普通に来るってオカシイよ?
「いつも、ご飯を食べにくるので旦那さんいないと思ってました」
「あー、世界を飛び回ってるカメラマンなんや。早智也って言うんやけどな」
へー、薫姉さんの旦那さんってカメラマンなんだ……すごいね! 普段は家に居ないから薫姉さんは僕の家に来れるんだね。
「まいたさちや……なんか、幸せになれそうですね!」
「稔、座布団一枚や! また上手い事を言うたな! ん? 静江っち、どうしたんや?」
なんか、静江さんがアワアワしてるよ? どうしたのかな?
「稔さん、米田早智也って言ったら、世界的なフォトグラファーです! 相手にカメラを意識をさせない構図、どうしてそんなところから写しているのかという奇抜性、どれを取っても超一流と言われてる人です!」
「そ……そうなんだ。」
「お、おう。旦那を褒めてくれてありがとな」
忘れてた……静江さんは元ストーカーだったよ。たぶん写真とかも隠れて撮ってたんだね。薫姉さんも若干引いてるよ。
◇
僕は社長に呼ばれて二人っきりで話をしている。多分、色々聞きたいんだろうなぁ……
「ところで、ほんまの所はどないやねん?」
「2週間前に静江さんを見つけたのですが、その……なんというか……自殺しようとしていたんです……偶然見付けることができて、僕が保護しました。その時は少しポッチャリしていましたね」
薫姉さんには正直に言っておいたほうがいいね。なんだかんだって協力してくれるし……
「そして、稔は自信をつけさせるためにダイエットをさせて、毎日様子を見るために家政婦をさせとると……ワイが稔を見てた時と殆ど同じやな?」
「何で分かったんですか?!」
僕がビックリしてると、薫姉さんはため息をついて、コーヒーを一口飲んだ。
「そりゃ分かるで……家のダンベルセットをリビングに置いていたやろ。あと、ワイも稔がそうやった時に、どうやって様子見ようか考えたしな。まあ、おかげで飯を食べに来る習慣ついてもうたわ。で……これからどうすんねん?」
「静江さんはストーカーに至った精神状態の治療を気にしていますから、病院からのOKが出るまで気長に待つつもりです」
「そのあとは、どうすんねん?」
薫姉さんが鋭い目で僕をみてくる。僕はかねてから決めていたことを口にする。
「病院からのOKがでたら、結婚を前提に付き合いたいと思います。静江さんが了承してくれたらですが……」
「凛子や美玲っち、由美ちゃんの事は?」
「3人が僕の事を好いてくれてることはわかってますが、僕には静江さんが合っていると思います」
僕は薫姉さんの目を見る。薫姉さんは息を抜いて微笑んでくれた。
「わかった。協力したるわ。まあ、まだ静江っちからOKもらってないし、フラれるかもしれんから今は一本に絞る必要もないやろ。稔はしばらく黙っとき。一緒にごまかすの手伝ったるわ」
「ありがとうございます!」
たしかに、静江さんからOKを貰えるとは決まっていないんだよな……って、ドアがノックされた。
「社長失礼します」
美玲と凛子さんが入ってきた。ちょっとタイムリー過ぎてビックリだよ。薫姉さんも目が泳いでる。それでごまかせるの?!
「あれ? 稔も社長と話をしてたの?」
美玲が僕の方によってくると、何やら匂いをかぎだしたよ?
「やっぱり女の匂いがする……社長、なにか知りません?」
「さあ? 今日も一緒に稔ん家で朝飯食ってきたが、何も変わらんで? 一緒にタクシーで来たから、ワイの匂いでも付いたんやろか?」
薫姉さんは朝に一緒にいるということで、誤魔化そうとしてくれてるみたいだ。たしかに助かるよ。2人は納得したみたいで、凛子さんが話しだした。
「社長、海外はどうでしたか?」
「ああ、勉強になったわ! 会計報告のあとに伝えるわ。あと、旦那にも会えたし、ええ出張やったわ!」
「え?! 社長結婚してらっしゃるんですか?」
あ……美玲も同じ反応だ。凛子さんは知ってたみたいだね。薫姉さんは苦虫を潰したような顔をしたよ。
稔は腹を括ったみたいですね。ここは私からみると予定路線です。




