僕は一度上がった生活水準を下げれなさそうです
稔は静江さんとの朝のひとときが楽しくなっています。
静江さんが家政婦として僕の家にきてから変わったことが多いよ。まず、家が華やかになったよ。ホコリが溜まっているところはない。前はコロコロなんかで落ちてる毛やホコリを取っていたけど、そんなことをしなくて良くなったよ。花が部屋に飾られて良い香りがする。
お風呂の匂いもシャンプーの影響なのかな? すごい良い匂いになったよ。ちょっと静江さんと一緒に入っている気持ちになったのは内緒だよ。それに気が付いた時は思わずベッドでゴロゴロしちゃったよ。そして、目の前にいる静江さんの笑顔……
「稔さん、どうされました?」
「いえ、いつも美味しいご飯をありがとうございます」
静江さんは最初来た時はオドオドしていたけど、最近は落ち着いて話ができるようになったよ。それに、ちょっとずつ痩せてきた気がする。まだポッチャリしてるけど、このままいけば直ぐに痩せるんじゃないかな……
「稔さんが美味しいと言ってくれるので、とても嬉しいです」
「街で何か気付いた事がありましたか?」
静江さんは毎日見たことを話してくれる。最近の僕の楽しみの一つになってるよ。
「はい。最近は銀杏の季節なんだなって思いました。今度、茶碗蒸しをつくってみてもよいですか? 稔さんは銀杏は苦手ですか?」
「流石に街に落ちてる匂いは少し苦手ですが、茶碗蒸しは好きですよ」
静江さんって凄いな……茶碗蒸しって難しいんだよ。固まっていなかったり、卵だけが固まっていたり……
「わかりました。今度作ってみますね」
「あ……そうだ」
今日は吉田君と一緒にお酒を飲もうって話していた日だったよ。静江さんはあれから夕食も作ってくれてる。僕は無理しなくてもいいですよって言ったけど、静江さんが作りたいって言ってくれたから甘えちゃってる。
「今日の夜は会社の同僚と飲みに行く約束をしています。今日は夕食は大丈夫です」
「わかりました。明日もお仕事ですので、飲み過ぎには注意してくださいね」
静江さんは優しいな。いつも気遣ってくれるよ。
「ごちそうさまでした。では、会社に行ってきますね」
「はい。いってらっしゃい。車に気をつけてくださいね」
最近は、「いってらっしゃい」って言葉が凄く好きだよ。こういうのって良いよね。もう前の生活に戻れなさそうだよ。
◇
「星田さん、最近厳しいっす! 全然、答えを教えてくれないじゃないっすか!」
「吉田さん? 学校じゃないんだから、答えがあるものではないんですよ」
僕は枝豆を口に入れ咀嚼してビールで流し込む。久しぶりの居酒屋の食事も美味しいね。今は僕と吉田君と田辺さんで飲み会中だ。
「前は困ったら、星田さんの公開フォルダを見に行けば、ロジックが難しいところの答えがあったっすよ。それが今はないっす」
「いやいや、吉田さん……それは駄目だよ。星田さん、そんな事していたのですか?」
うーん。そういうつもりで、事前準備をしていたわけじゃないんだけどね……気になっていた部分をいつでも見せられるようにしていたけど、吉田君はそれを見ながら仕事をしていたのか……
「前は少し余裕がありましたので、ちょっと見てた時があったんですよ」
「3週間前ぐらいのときですね。あの時は一人で会社の仕事をやりかねない勢いで仕事をしていましたね」
そうなんだよね。薫姉さんに怒られたから止めたけど、たしかに吉田君の様子じゃ、あのやり方では駄目だね。これは改めて反省だよ。
「せっかく凛子に良いところを見せようと思ってたっすよ」
「田辺さんが言う通り、仕事を自分で考えることを止めてしまったら、いざ一人で仕事する時に困ることになりますよ」
吉田君はちょっと残念がっていたけど、納得はしてくれたみたいだよ。田辺さんがビールを煽ってグラスを空にすると、僕に聞いてきた。
「ところで、星田さん? 最近いいことでもあったんですか? やっぱり雰囲気が変わりましたよ」
「そうっすよ! なんか大人の余裕って感じっすね。黒崎さんと付き合うようになったとかっすか?」
そんなに変わったかな? 確かに静江さんが居なくなった時に、なんか美玲に怒られてフラれたし……
「いやいや、美玲には付き合おうかって言ったけど、フラれましたよ」
「マジっすか! 黒崎さん、星田さんの事を好きって感じだったすよね? フラれたんっすか? お互いに気まずくないっすか?」
でも、あれから普通にメッセージもくるし、仕事でも普通に話すし、今度ご飯に行こうって言われてるし……どうなんだろう?
「気まずいって事はないかな? 前の会社からの知り合いだからかもしれないね」
「いや……星田さん。その理由はありえないですよ。黒崎さんは今も星田さんの事が好きですね。告白するタイミングが悪かったんじゃないですか?」
田辺さんは、新しく運ばれてきたビールを煽った。たしかに、美玲は前にタイミングが悪いって言っていたよ。今回も悪かったのかな……でも、今の関係も悪くないからね……
「駄目っすよ、星田さん! 黒崎さんにフラれたからって、凛子に行くのは反則っすよ!」
「はは、そんな余裕はないですよ。そんなにモテナイですし……」
僕は焼き鳥を食べながらビールを口に含む……あ……メッセージだ。ビールを飲みながらスマホの画面をみる……うぐ?!
「どうしたんですか?」
「何があったっすか?!」
二人が僕のスマホの画面を覗き込んだ。あ……まずい。スマホの画面には、しなだれる感じで全身を写しながらも胸元でネイルをかざしてる凛子さんの写真。ちょっと大きめのTシャツを着てる感じだから、胸元が緩い。凄くエロく見える。これは、誤解されるよね……
「なんすっか、このお宝画像! これ凛子じゃないっすか!」
「いや……これは……」
やばい……絶対に軽蔑されるよ……2人の目がちょっと怖い……
「「星田さん!」」
あはは……もう、乾いた笑いしか出ないよ……どうしよう……
「この凛子の画像頂きたいっす! 他にもありませんか!」
「あ、私もお願いできますか?」
はい? どういうこと? 助かったの?
「凛子から、こんな画像もらえるなんて、どんな魔法を使ったんっすか? 羨ましいっす!」
2人には後で画像を渡したよ。ごめん凛子さん、収集がつかなくなったんだよ。そして、2人にはネイルを褒めたら写真を送ってくれるようになった事を伝えておいたよ……
リクエストがあった凛子さんの写真の回をつくってみました。ご満足頂ける感じでしょうか?




