僕は少し幸せを感じました
静江さんが稔の家の家政婦さんになりました。
うーん、眠いな……もう少し寝たい……あれ? なんか良い匂いがする……ご飯の匂い? なんか体を揺らされてる? とりあえず、目を瞑ったまま手を伸ばして、触ってみると柔らかい……
「……さん……稔さん。稔さん、7時45分なのですが、大丈夫なのでしょうか?」
「はっ! 7時45分?!」
僕の目の前にちょこっとポッチャリした静江さんが座っていて、僕の体を揺すってた。僕は手を伸ばして静江さんの背中に手を当ててる……
「す、すみません!」
「きゃっ」
僕が勢いよく起きたから、静江さんがちょっとビックリしている。そ……そうだった、静江さんが今日から僕の家政婦として来てくれていたんだ。無意識に腰に手を回していたけど大丈夫だよね……嫌がられてないよね……
「すぐに出社の準備します。この時間なら十分間に合います。起こして頂き、ありがとうございます」
「はい。朝食の準備は済んでいますので、ご飯をよそっておきますね」
僕は急いで洗面所に行って、身支度を整える。あ……静江さんも朝大変だし、ご飯の後に歯を磨きたいかもしれないなぁ……
「では、朝食を一緒に食べましょう」
「はい。でも本当に一緒によろしいのですか?」
静江さん、まだ遠慮してるね。さっきの洗面所の話もあるし、買ってきたものもあるから話ししておこうかな……
「逆に僕が一緒に食べたいんですよ。あと、トレーニングをした後にシャワーを浴びたいでしょうから、浴室も自由に使って下さい。使ってる石鹸や歯ブラシも置いて貰っても構わないです」
「あ……はい……」
僕と静江さんは一緒に食卓に座る。静江さんのご飯美味しいなぁ……今日みたいに寝坊をした時でもご飯を食べれるのは嬉しいな……
「美味しいですよ。朝から元気に仕事ができそうです。静江さんは良いお嫁さんになれますね」
「あ……ありがとうございます。お……お嫁さんですか……」
しまった! 変なことを言っちゃった!
「すみません。ものの例えです。食事がとても美味しかったので……」
「いえ……元気を出して頂けれるなら嬉しいです」
僕がご飯を食べていると、静江さんは何か話をしたそうにしている。
「どうされました?」
「あの……今日、朝来る時にノラに話しかけました。呼んだら応えてくれました」
そうだった……街の様子を教えて下さいって僕が静江さんに言っていたよ。
「ノラと話をしたんですね。まだ居たら僕も話しかけてみますね。これから色んな話を聞かせてくださいね」
「はい!」
静江さんは嬉しそうに微笑んだ。うん、良い笑顔だね。
「ご馳走様でした。僕は会社に行きますので、後はお願い致します。トレーニングも忘れないようにしてくださいね」
「わかりました……」
僕の家にいる時間が多いから、時間の節約をしたほうがいいかって日曜日に考えたんだよね。
「自分の家の洗濯ものなどもあったら、一緒に洗ってもらっても大丈夫ですよ」
「はい……」
そして、僕は準備していた鍵をとりだした。
「あと、小さいですけど、鍵付き収納家具ボックスを買っておきました。鍵は全部渡しておきますので、僕が見ることはありませんので安心して下さい。私物を入れておいて下さい」
「何から何まで、ありがとうございます。家政婦の仕事頑張ります」
◇
「なんか、星田さん? 雰囲気変わりましたね」
田辺さんが僕に話しかけてきたよ。なんか変わったのかな?
「そうですか? いつもと変わらないと思いますけど……」
「なんて言うか……少し感じが柔らかくなった気がします。良いことでもあったのですか?」
もしかして、静江さんに会えたからなのかな? 自分では気付かなかったや……
「たぶん気のせいですよ。いつも通りに頑張ろうって感じですね」
「そうですね。社長が海外出張に行ってしまっているので、僕達が頑張らないといけないですしね」
薫姉さんはアメリカに出張して、帰ってくるのは来週の土曜日だ。凛子さんも連れて行くのかと思ったけど、一人でいっちゃったから少し心配だよ……
「あ、星田さん、今週のどこかで飲みに行かないっすか? 男同士で飲みたいっす……って雰囲気変わりました?」
「田辺さんにも言われましたが、何も変わってないですよ。飲み会は木曜日とかにしますか? 金曜日だと店が混んでしまいますから」
吉田君からも言われたよ……これは気をつけないといけないかもしれない……
「ねえ、稔? 何か良いことでもあったの? 藤堂さんが見つかったとか?」
う……美玲が来たよ。女の勘は鋭いね……でも、藤堂さんはポッチャリしちゃったし、精神も安定してない感じだから、皆には会いたくないよね……
「残念だけど、見つかってないよ」
「そう、私の気のせいなのかな? 何か女の匂いがするけど……」
どうしよう……美玲の勘が鋭すぎて、ちょっと怖い……どう、言い訳しようかな……
「星田さん! もしかしてキャバクラっすか! 今度連れて行ってくださいよ!」
「吉田さん、女性の前でそのセリフはないわよ。リンリンに言っちゃおうかしら?」
「黒崎さん、それは勘弁してくださいっす!」
吉田君ナイス! これで上手くごまかせる雰囲気になったよ。
◇
仕事が終わって、家に帰ってきたよ。あの後、吉田君のフォローのおかげで、何事もなく終わったから本当に助かった。静江さんも帰ったみたいで、家には誰も居ないね……って食卓になにかある?
『おかえりなさい。夕食を作っておきました。温めて食べて下さい。お風呂もタイマーをかけておきました』
静江さんの置き手紙だ。夕食まで作ってくれたんだ。凄く嬉しいな! 僕は夕食を温めながら、ふと部屋を見てみる。何か凄く綺麗になっていない? 洗濯物は綺麗にたたまれているし、必要なものはアイロンがかけられてる。なんか、こういうのいいなぁ……
よし! ご飯を食べて、お風呂を入って、明日からも頑張ろう!
稔は自ら胃袋を捕まれにいってしまいましたね。男性はこういうのに弱いと思います。




