僕はトレーナーになりました
稔は静江さんを家政婦として雇うことを決めました
今日は休日だったけど静江さんが朝から家に来るので朝早く起きた。そろそろ約束の時間の8時だよ。まさか、来ないってことはないよね? あ……チャイムが鳴った。鍵が開けられ、ドアが開くと静江さんが入ってきた。
「す、すみません。お邪魔致します」
「静江さん、いらっしゃい。気にしないで上がってください」
静江さんは、オドオドとした感じでリビングまできたよ。そんなに緊張しなくていいのに……
「キッチンの使い方はわかりますね。材料は冷蔵庫に入っています。足りなかったら材料費込でお給金を渡す予定なので、それで買ってください。まずはご飯にしたいので朝食を作ってください」
本当だと僕も手伝うのがいいと思うんだけど、お仕事って言っちゃっている手前だから手伝えないよね。僕は自分の部屋に戻ってパソコンを起動する。しばらくネットでニュースをみてると美味しそうな匂いが漂ってきた。
「朝食が出来ました」
食卓の上をみると一人分の朝食が置いてあるよ。僕は台所に行って、もう一個茶碗を取り出して、ご飯をよそった。あとは、お味噌汁も注いでと……
「あ……あの……」
「別に僕が食べ終わるまで待つ必要はないですよ。一緒に食べましょう。その方が効率もいいです」
僕はおかずの皿を真ん中に置き直して、ご飯とお味噌汁を対面に置く。
「でも……」
「じゃあ、家政婦の仕事として、僕と一緒に御飯を食べて下さい。そして、仕事が終わった後に街に出て、その様子とかをご飯の時に教えて下さい」
僕は静江さんの手を取って座らせる。
「はい、一緒に食べましょう! 頂きます」
「い……頂きます」
やっぱり、ご飯は一人より二人で食べたほうが美味しいからね。少しでも静江さんの緊張が和らぐといいけど……
「静江さんの作ったご飯美味しいですよ」
「ありがとうございます……」
まだ、緊張してるのかな。話しかけてあげたいけど、どんな話題がいいのかな……
「あの……猫……」
「え?」
「マンションの入り口に猫がいました……稔さんは街の様子が聞きたいと……」
しっかり僕が言ったことを聞いてくれてたんだ。話しかけてくれて良かったよ。
「あいつはノラっていうんです。まあ、僕が勝手にノラって呼んでるだけですけどね」
「ノラですか……」
「そうです。でも、ノラって呼ぶと返事してくれるんですよ」
「返事してくれるなんて、可愛いですね」
他愛のない話だけど、静江さんは少しずつ僕に話をしてくれるようになって、食事は終わったよ。今日は静江さんの生まれ変わりの初日だ。僕がしっかりしないとね。
「食事が終わったら、掃除洗濯をお願いします。そして、今日は少し街に出ましょう」
◇
僕達は街に出かけている。僕の行き先は決まっている。
「静江さん、歩く姿勢が悪いですよ」
「でも、こんなデブの私が一緒なのは申し訳なくて……」
「静江さんは少しだけポッチャリされましたが、申し訳ないということはないです。胸を張って下さい」
なんか、薫姉さんに怒られた時を思い出しちゃったなぁ……って、目的地に到着だ。
「順子さん、おはようございます」
「あら、稔さん? この前に髪切りに来たばかりなのに凄く早いわね。どうしたの?」
「今日は僕じゃなくて、この人をお願いしたいんです」
僕が静江さんの肩を持って、順子さんに押し出すと、「えっ……あっ……」って静江さんが戸惑ってる。
「あらー。髪……かなり傷んでるわね。あ……私、島田順子よ。よろしくね」
「稔さん? この子は私のお任せでいいの? ちょっと時間をもらうけどいい?」
「はい、是非お願いします! 僕はスマホを持ってきていますので、時間はなんとでもなります」
やっぱり、髪も傷んでいたんだ。順子さんに任せておけば間違いないね! 僕も最初はここで髪を切ってスタートしたし、これで良いはずだよ。
小一時間が経過して、順子さんが僕のところにやってきたよ。僕はスマホを片付けて、静江さんのほうをみる。
「完成したわ! 稔さんから見て、どうかしら?」
流石、順子さんだね。長い髪を利用してポッチャリした静江さんの感じをあまり出さないように工夫してくれてる。あと、髪が凄いキラキラしてるよ。
「ありがとうございます! とても可愛いと思います」
「ところで、この子は稔さんの彼女?」
順子さんはコッソリ僕に聞いてきたよ。やっぱり女性だからこういう部分は気になるんだろうな。
「そうなれば嬉しいですけど、ちょっと訳ありなんです」
「ふーん。そうなんだ……ちょっとポッチャリしてるけど可愛い子ね。頑張って!」
順子さんにお礼を言って店を出た。僕の時はこの後に体重計とか鏡とか買ったけど、それらは全部僕の家にあるから大丈夫だ。よし、家に帰ろう。
「稔さん、あの……お代は……」
「これは、これから静江さんが頑張れるようにっていう、僕からのプレゼントです。とても似合っていますよ。胸を張って帰りましょう」
「あ……ありがとうございます」
「帰ったらジャージに着替えて貰いますね。やって貰うのは家政婦の仕事だけじゃないですから」
生まれ変わりといえば、やっぱりあれだよね!
◇
帰ってきてから僕と静江さんはジャージに着替えてる。
「静江さんには、家政婦のお仕事が終わったら、そのまま僕の家でトレーニングをしてから帰ってもらいます。これは契約の一部だと考えてサボらないで下さいね」
「トレーニングですか……」
「はい。いわゆる筋トレですね。初めては難しいので、初日の今日は僕がトレーナーとしてサポートします。今日だけ全身のトレーニングをしますが、普段は1日ごとに上半身と下半身のトレーニングを交互にしてもらいます。腹筋に関するメニューは毎日で大丈夫です」
僕は後で使うトレーニングベンチとダンベルを持ってくる。昔は集中してやってたなぁ……なつかしいな……
「特にしっかり鍛えたほうがいいのは、大胸筋、広背筋、大腿筋です。つまり胸と背中と太モモですね。では初めはスクワットから始めましょう。筋トレは姿勢が大事なので支えますよ」
静江さんにスクワットの姿勢を教えて、数回やってもらう。やったことがないと、姿勢がだんだんおかしくなるんだよね。僕はお尻の位置を修正させたり、太モモの位置を修正させたり、前傾姿勢になってきたらお腹や腰を支えたり……って……普通に静江さんの体をペタペタ触ってる?! 意識したら駄目だ! 僕はトレーナーなんだ、意識しないぞ!
スクワットの後、胸を鍛えるダンベルプレス、背中を鍛えるダンベルプルオーバーなどをやった。回数は少なく複数回セットを回す。静江さんは息も絶え絶えになっている。
「頑張りましたね。これで終わりです。最後にプロテインを飲んで下さい」
「は……はい……いつも稔さんは、これをやっているんですか……」
「そうですね。夜に少しやっていますね。最初はきつかったですけど、もう慣れました」
静江さんは水で溶かしたプロテインを飲んでるけど、苦しそうだ。たしかに最初は抵抗があるんだよね。慣れると美味しいけど……
「プロテインも常備してあるので、家事が終わったらトレーニングをして必ず飲んで下さい。飲み終わったらウォーキングをします」
静江さんにはジャージと一緒に靴も持ってきてもらって来てる。僕は静江さんと公園に向かう。
「トレーニングの後は、約30分から1時間のウォーキングをします。ちょうど息が上がるかどうかという所をキープするのがコツですよ。では、始めましょう」
静江さんが歩き出したので、僕は後を着いていく。
「これが終わったら、ゆっくりシャワーを浴びて下さい。これを月曜日から土曜日まで続けてもらいます。家政婦の仕事も日曜日はお休みにします。初日なので明日は多分動けないと思いますよ」
「わ……わかりました。が……がんばり……ます」
あ……話すのも辛いよね。最初はそんな感じだよなぁ……でも、平日僕は会社に行かないといけないから、筋トレやウォーキングの相手はできないし、今は慣れてもらうしかないよね……
トレーニングは私の実体験を元に構成していますので、そこそこ効果はあると思います。1ヶ月4キロは当たり前に痩せれます。




