僕は30才デビューをしていたようです
稔は、薫姉さん、静江、美玲、凛子、由美と吉田君でホームパティを開いています。
この状況はどういうことだろう……女性陣は楽しそうに談笑している。話題は食事の味みたいだけど、なんだか皆の顔が赤いよ?
「吉田さん、皆に何を飲ませたのかな? 甘いって言ってたけど?」
「星田さん、気になるっすか? ウェルカムドリンクは、ビールに梅酒を混ぜたものっすよ! ビールが苦手な女の子にはメッチャ受けるっす!」
梅酒のビール割り?! そんな飲み方あるの、知らなかったよ。
「2杯目は、ビールに炭酸飲料のDDレモンを入れてウォッカを足したものっす! これも甘くなるっすよ」
それってレディーキラーって言われる部類のお酒じゃない?
「で、その後に由美ちゃんからは、お酒っぽくない名前のものが良いって言われたんでカルアミルク」
それって、ウォッカベース!
「黒崎さんは柑橘系が良いって言ったんでスクリュードライバー、凛子はモスコミュール」
両方ともウォッカベースだよ!
「藤堂さんは紅茶みたいのがいいって言われたんでロングアイランドアイスティー」
それはウォッカとテキーラをベースにしてるよね……
「で、社長にはテキーラのショットっすよ?」
ベースの欠片も失くなって、テキーラそのまま?!
「星田さんの料理が美味いっすから、お酒がすすむっす! 凄いっすね!」
いや……僕はこの状況を作り出す事ができた吉田君を凄いと思っているよ……あれ? 黒崎さんが静江さんのところに近寄ったよ。
「ところで、静江さんは稔のどんな所が好きなの?」
ちょっ! 黒崎さん! あわわ……皆が注目しちゃったよ!
「えーと……皆さんもご存知だと思うのですが、稔さんは考え事をすると頬を2回ちょこちょこって掻くんですよ? その仕草が可愛いくて。あと、困ると言葉が詰まって、首を少しコテンってしてから話すんです。電話の時とか想像したら何か楽しくなるんです……って、どうされました?」
うわー。僕にそんな癖があったんだぁ……静江さんよく見てるね……って、黒崎さん目を見開いてるよ? 凛子さんは涙目で「負けた」って言ってるけど、何の勝負なの? 逆に由美ちゃんは目をキラキラさせてる?
「静江さん、わかります! お兄ちゃんの良いところ知ってますね! あと、あくびする時にちょっと肩をすぼめてからするところとか、可愛いですよね!」
由美ちゃん……ちょっと、マイナー過ぎるよね……なんで、そんなこと知ってるの?
「そんな静江さんに良いものを見せてあげます! じゃーん、お兄ちゃんの高校の時の写真です!」
え? なんで、そんなの持ってるの? 由美ちゃんが小学生のときだよね? って、3人が集まって食い入るように見てるよ? 恥ずかしいよ……
「そして、これが大学生の時です!」
ええ?! 僕の大学は都内だよ? 由美ちゃん地元の高校だよね?
「由美ちゃん? どうして大学生の写真を持ってるの?」
「え? 文化祭で隠し撮りしたからだよ? どうしたの、お兄ちゃん?」
僕は本当に由美ちゃんの事が心配になってきたよ? 皆もなんで? って顔してるけど、僕の考えがおかしいの? みんな酔ってるだけだよね?
「それで……これが……忘れもしない、お兄ちゃんが大学生のころに彼女といた写真……お兄ちゃんをフッて悲しませた時はどうしてやろうかって考えたけど、今は別れてくれて良かったって思ってる」
由美ちゃんの笑顔が怖いよ……流石に皆もドン引きって……全然引いてないんだけど……むしろ、静江さんがニコニコして頷いているのは何故?
「星田さん、かなり愛されてるっすね? あ……皆のグラスが空いたんで、飲み物つくってくるっす!」
吉田君は逃げたよね? 絶対に逃げたよね? 薫姉さんは無表情で手酌でテキーラショットを飲んでるよ……
「それで、これが前の会社の時のお兄ちゃん」
「あー、稔が格好悪い時ね……」
黒崎さんは告白の話は言わないでくれた……って、不摂生だった頃の写真を凛子さんに見られた?! 絶対に笑われる……
「静江っちは、この頃の稔をお見合い写真で選んだんやな? 物好きやな?」
「はい。それほど悪くないと思いましたし、優しい人が良いと叔母にお願いしていましたし……」
「そうですね。私は細マッチョも好きですけど、このような熊さんみたいのも悪くないと思います」
凛子さんは物好き? どういう事? 本人がいうのもなんだけど、凛子さん……趣味が悪いと思うよ?
「でも、出会った時に格好良い人が登場してビックリしました」
「静江さんはそういうけど……お兄ちゃんは、どんな時でも格好いいよ! 凛子さん分かってるね!」
なんだろう……このカオスな状況……
「どうしたんっすか? なんか盛り上がってるっすけど? はい、飲み物持ってきたっすよ!」
「はは、なんでもないですよ。吉田さん。由美ちゃんも写真の話は終わろうか……」
◇
あの後は女の子同士で楽しそうに話をしてたよ。会話に混ざろうとしたら内緒ですとか言われて会話に混ぜてもらえなかったから、吉田君と薫姉さんの三人で飲んでた。いつの間にか吉田君は皆の飲み物をソフトドリンクに入れ替えていたみたいだ。二日酔いは辛いっすからねとか言ってたよ。
それから、薫姉さんが女の子全員分のタクシーを呼んでくれて、女の子は帰っていった。タクシーが着く毎にひとりひとりエスコートを強制されたけどね……そして今は吉田君と二人で家にいる。吉田君は片付けを手伝ってくれると言って残ってくれてる。
「星田さんって同時にモテたことって初めてっすか?」
「え? どうして、そう思ったんですか?」
たまに吉田君って鋭いところあるよね。
「いや、なんか全体的に戸惑っていた感じがしたっすから。俺も高校の時にモテ期が来てビビったことがあったっすよ。高校デビューって感じっすね」
「僕は30才になるけど沢山の女性に同時にモテたのは初めてだよ。いい大人なのにどう対応して良いのかわからないよ。みんな可愛い上に良い子だから……」
「良いじゃないっすか! 30才デビューだって! 今は楽しめば良いんっすよ!」
「いや……でも……」
僕が困った顔をしていたら、吉田君が真剣な目を向けてきた。
「星田さん。自分の話で申し訳ないっすけど聞いてくれますか? 俺の両親って離婚してるっす。あ……でも、めちゃ仲いいんっすよ。なんか価値観の違いとかで離婚して、お互いに再婚してるっす。また面白いことに、結構頻繁にお互いの家族で会ってるんすよ。だから、俺は両親が4人いて結構可愛がってもらえて、兄弟もそれぞれの家にいて、皆からお兄ちゃんって言われてるんっす!」
例え離婚した両親の仲が良いっていっても、吉田君にとって余り言いたくない話の筈だよ。吉田君は何かを僕に伝えようとしてくれてるんだ。
「あー、何を言いたいかって言うと……昔じゃありえない考え方かもしれないっすけど、愛情の形って色々あるんじゃないかと思うんっすよ。ほら、事実婚やLGBTとか色々ある時代に、まだお付き合い前の段階で一人を無理に選んで、他に冷たくしなきゃいけないってルールもないでしょうし、本人たちが納得してるなら仲良くしててもいいじゃないっすか? でも、凛子は俺に振り向かせますから、覚悟っすよ!」
吉田君……ありがとう。何か楽になったよ。
まだ、終わっていません。最後のプロットの実施をします。おそらくですが、あと10話ぐらいで完結する予定です。吉田君のおかげで、タイトルを物語内に入れ込むことができました。




