僕は有罪判決を受けたようです
稔は美玲にキスをされ、由美ちゃんは涙目になっています。また、稔は静江さんとの仲を取り戻せるのでしょうか?
すごい気まずい……これはお兄ちゃんポジションの威厳がガタ落ちだ……由美ちゃんの目には平気で二股をしながらキスをするエッチな男になってしまっているはず……
由美ちゃんの様子を見てみたけど涙目で僕をずっと見てる。どうしよう……ストーキングの事を注意しようにも、この状況では威厳もなにもないよね……
「稔お兄ちゃんは、由美のことを怒っていないの?」
お? 由美ちゃんのほうから話しかけてくれた。よかった……でも、もう怒るどころじゃないよね?
「怒ってないよ。ちょっとビックリしたけど、由美ちゃんが反省をしているならいいよ」
「うん。お兄ちゃんありがとう……このままだと、どうしようかと思っていた……」
由美ちゃん俯いて涙を拭いてる。あのままだと確かに気まずい感じだったし、黒崎さんには感謝しないといけないかなって、あれ? 顔を上げた由美ちゃんの目がなんか怖い……
「トコロデ、美玲さんが言っていた藤堂さんとのキスとはナンデショウカ?」
「え?」
「ソシテ、先程の美玲さんとのキスは一体どういう事デショウカ?」
「…………」
由美ちゃん?! 気持ちの切り替え早いよ! 言葉が昔のロボットみたいになってるよ。今どきのAIでも、そんな風に話さないよ。まばたきをしようよ……駄目だ、冷や汗が止まらない。
「ギルティ」
ぐはー。お兄ちゃん死んじゃうよ……
「罰として、お兄ちゃんは私とキスをする必要がアリマス」
「ないから! ほら、ご飯食べに行こう!」
由美ちゃん、言ってることおかしいからね! これから説明に時間がかかりそうだ……
◇
僕はとっても疲れたよ。由美ちゃんの尋問がキツかった。途中で『二人も三人も変わらないよ』とか言って、キスをしてこようとするし……もちろんブロックしたけど、僕のどこが良いんだろう?
とりあえず気持ちを切り替えて、今からが大事だ。静江さんに電話しないと……黒崎さんがくれたアドバイスだけど、上手くいくのかな? でも、このままだと関係が気まずいままになっちゃう。
『プルル、プルル』
なかなか、電話を出てくれない。
『はい。藤堂です』
「静江さん? 稔です。今、お時間を頂いてもよろしいですか?」
『はい……』
静江さんの声が暗いよ。でも、黒崎さんのアドバイスを信じるんだ!
「静江さん、僕は今の関係のままでしばらく過ごしても良いと思ってます」
『え……?』
「静江さんはキスを受け入れてくれました。だけど、静江さんは今の関係を望まれるのですから、何か理由があるのだと思っています。無理に話す必要はありません。だから、お試しデートを続けていきましょう」
どう? アドバイス通りにしたよ? 反応は? あれ? どうしよう……無言だよ……失敗したの? 僕はどうしたらいいの? こういう場合の対応のしかたは聞いてないよ? あわわ……
『……ありがとうございます』
うきょー! 黒崎さんのアドバイス凄い! お……落ち着け、ガツガツした男は嫌われるのは駄目だと女性誌にも書いてる。ここは、しっかり、がんばれ僕!
「こちらこそ、ありがとうございます。たぶん静江さんは色々と気持ちを整理されたいと思いますので、このあたりで失礼しますね。また連絡をします」
『あの!』
え? 駄目だった? どんでん返しないよね?
「は……はい、なんでしょうか?」
『私……なんて言ったら良いのか……稔さんが素敵すぎて、私の気持ちがついていかないというか……自分に自信がないというのか……稔さんが思っているような女性でもなくて……』
違ったよ。たしか女性誌の好きなのに別れるってパターンに書いてあった。自信がないときに不安になると……これは対応ができるよ。
「大丈夫です。ゆっくり進んでいきましょう。色々違っているなら、お互いに変えていけばいいと思います」
『お互いに……変える……』
「そうですよ。焦る必要はないと思います。だからお試しデートをしてるんじゃないですか」
『わかりました。でも、もし稔さんに別にいい人ができましたら……そ、その時は遠慮しないでください。本当にありがとうございます。私からも連絡します。おやすみなさい』
静江さんとの電話はおわったよ。ふー……黒崎さんのアドバイスってすごいね? というか神の啓示? これはお礼を言わないといけないよ。よし、メッセージしよう。
『美玲、ありがとう。アドバイス通りで上手くいったよ。美玲のおかげだよ』
よし、これで明日から頑張れそうだ……って、返信がきた?
『どんな風に上手くいったの?』
『お試しデート継続になったよ。藤堂さんからは別の人ができたら遠慮しないでくださいと言われちゃったけどね』
『まあ、当たり前よ。この貸しは前払いでキスを頂いたからいいわ』
そうだった……僕は黒崎さんともキスをしたんだ。思い出したら恥ずかしくなってきた……
『でも、由美ちゃんの分の貸しは残ってるわよ。そっちも仲直りできたみたいね』
『それもありがとう』
なんか、黒崎さんに頭が上がらなくなってきたよ……
『ところで稔は分かってる?』
『何が?』
『付き合ってないにせよ、稔は私を含めて4人の女を天秤にかけてるんだけど?』
え? そんなこと……あれ? 僕って、もしかして酷い?
『既読はされているから、頭がついていってないってところかしら? でも一言書かせてもらうわよ』
え? え? え?
『ギルティ』
うわーん。そんなんじゃないのにー!
ほんと、男は恋のフォルダ管理といったものです。「男女でちがう恋の保存法」と言われますが、女性も半分はフォルダ管理みたいですよ?




