僕を助けてくれたのは天使? それとも……
星田稔は女性に振られて、お酒を飲んで自暴自棄になりました。不摂生が駄目なんですけど……
頭がくらくらする。何がなんだか分からない。僕は死亡フラグを回避してたのに……なんだよ……「死んで欲しいレベル」って言葉が頭のなかでリフレインする。ああ……黒崎さんが望んでいることは僕が死ぬことかなぁって何となく考えちゃった。目の前には大きな道路がある。黒崎さんは望んでいる。飛び込んじゃえばそれでいいのかなぁ……そして、なんとなく道路の目の前に立つ。よし、あとはEnterを押すだけだ。僕は車がたくさん走ってる道路に飛び込もうとして…………凄い衝撃を受ける。
わき腹が痛い。僕は歩道に転がっていた。蹴られていた事がわかった。側にいたのは可愛い女の子ではなく、スタイリッシュな姿をしたおば様だった……
「てめぇ。なにやってるんだ!」
仁王立ちのおば様は厳しい口調で僕に訴える。僕にとってはもうどうでもよいことだ。
「ほっといてください! 貴女にとって他人の僕が何しようが知ったことじゃないでしょう?」
僕はうずくまりながら答える。正直どうでもいい。頭が痛い……
僕はいきなり両手で胸ぐらを掴まれる。おば様は凄い形相でにらめつけてきた。
「お前、自分が住んでるマンションの奴やろ! ええか? そんな奴が目の前で死のうとしたら気分悪いんや! 人が死のうとしているのに止めない奴がいるんか? あぁ?」
おば様は胸ぐらを掴んでいた手を放し、すくっと立ち上がる。なんか、カッコイイ。そして、おば様は僕の手を取って僕の体を起こす。
「とりあえず、お前の部屋に行くぞ! それから話を聞いたる!」
おば様は僕の手をとって歩き出す。そういえば、女の人と手をつなぐのも何年ぶりだろ? そんなこと考えてるとすぐにマンションに着いた。僕は自分のマンションが近いこともわかってなかったんだ。おば様に僕の部屋番号を聞かれて部屋まで連れていかれる。
「きったない部屋やな。どうやったら、こんなんになるんや?」
おば様は部屋に入ると僕をソファに投げ捨てて冷蔵庫まで行き、勝手に中身を物色する。いろんな意味で凄い人だよ。
「おぉ! ビールあるやん。頂くで! お前は飲みすぎなんで水な! じゃあ、話を聞いたる!」
おば様はそう言うと、僕が買い貯めしていたビールをグビグビ飲みだす。僕はしぶしぶ今日起こった出来事を話していく。
「はぁ……なるほどなって……アホやな? 世界の人間の半分は女やぞ? そんなつまらない事で死のうってアホのすることや」
おば様は椅子に座って踏ん反り返って、ゲスを見るように吐き捨てる。
「すごい良い娘なんです。見てもないのに酷いことを言わないでください!」
僕は黒崎さんを事をつまらないと言われた気がして反論する。
「そうか……まぁええわ……ところで、お前仕事なにやってたん? いくら貰ってたん? そいで年いくつや?」
おば様は僕の反論を軽くスルーして言ってくる。プライベートも突っ込んでくる。もういいよ! 全部嘘なしに答えればいいんだろ!
「システム興行でプログラマやってました。年収は800万ぐらいです。年齢は30才です」
酔っ払っているので頭が痛い……おば様は「あのケチ会社のブログラマで年収800万円? 30才?」とか言っていたが、酒がまわっていて良くわからない。同業者かな? まぁいいや、とりあえず今はおば様対応だ。
「よし、わかった! お前、会社辞めろ。再就職先は自分が面倒みたる」
はぁ? 何言ってるんだ? このおば様……って蹴られた。痛い……いつ椅子から立ち上がったんだ?
「どうせ死んでたんだ。自分があんたを生まれ変わらせたるわ。どうせ会社も行き辛いやろ?」
そうだ……おば様の言うとおりだ……一度死にかけて救ってもらったのは確かだし……
「そうですね。一度は死んだんですよね。会社辞めても問題ないですね」
僕は独り言のように答える。
「そやそや、問題ない! 今日はいっぱい泣いて疲れたろ。誰かに聞いてもらってスッキリしたやろ。とりあえず、そのまま寝な」
ああ……確かに疲れたよ。僕はまどろみの中、眠りに落ちていく……
おば様は天使ではないと思います。だからといって悪魔でもありません。人口の半分が女性であるという事は、人口の半分は男性でよね。男性も女性も前向な考え方が重要だと思います。