僕はなんか仲直りできたようです
藤堂静江さんとのデートの約束を取り付けて、気持ちがルンルンの稔です。
静江さんとのデートが来週末にあるので、僕は急いで仕事を片付けていると田辺君が話しかけてきた。
「星田さん、何か良いことがあったのですか?」
ほえ? いつもと変わらないようにしてたつもりだけど、浮かれて仕事のミスをしちゃったのかな?
「良い事ですか? 特にありませんけど、もしかして何かミスでもしていましたか?」
仕事に影響が出るのは問題だよ。もっと気を引き締めないと……
「いえ、鼻歌交じりで仕事をされていたので、良いことでもあったのかと思いまして……」
え……鼻歌? 良くないよね? でも、ミスしてなくて良かった。正直に話をしておこうかな……
「田辺さん、すみません。気をつけますね。実家に帰ったときにお見合いをして浮かれてたのかもしれません。あと少しでプロジェクトシグマのレビューが終わるので、気を引き締めますね」
その瞬間、僕の周りの雰囲気が凍った感じがした。やっぱり、浮かれていたのかな? 「プロジェクトシグマってヤバイ不具合があるはずなのに? 」とか言ってる。やっぱり見逃してる部分があったのかな? 「お見合い?」っていって目が怖い女性がいっぱいだ……ごめんなさい。浮かれていました……
「星田さん、もう終わりそうなんですか? それなら申し訳ないのですがプロジェクトオメガを見てもらいたいのですが……」
「あ、はい。一応最終チェックしますね。プロジェクトシグマは少し弄ってますし皆が不安になったらいけないので……。そしたらプロジェクトオメガもみてみます」
あれから念入りにチェックしたけど、問題はなかったよ? タイミングによって発生する不具合とかを見つけて対策入れておいたんだけど、何か修正に問題があったのかな? って思っていたら、凛子さんがメガネを輝かせながら僕のほうに来たよ?
「稔さん、社長がお呼びです。社長室まで来てください」
え? 僕何かしたの? 間違った事はなかったと思うけど……
◇
「稔、なんかええ事あったんか?」
ええ! 薫姉さん、何か誰かから聞いたの? 恥ずかしいなぁ……でも、薫姉さんに変なことも言えないし……
「すみません。実家に帰ったら母親にいきなりお見合いをさせられまして……」
ガチャン! って音がいきなり鳴ったよ? 凛子さんがお盆に載せていたグラスに入ったお茶を床に落としたみたいだ……大丈夫かな?
「稔! 気にすんな、それで何かあったんか?」
えぇ! 無視していいの? 凛子さん体調悪そうだよ?
「はい、それで来週末にお試しデートの約束を……」
ガタン! って凄い音が鳴ったけど、凛子さんがお盆落としてるよ? 本当に体調悪いじゃないかな?
「それで?」
薫姉さんの顔が引きつってる……僕悪いことしたのかな?
「とりあえず、週末に余裕ができるように仕事を終らせないといけないので、滞ってるっぽいプロジェクトをチェックしてました」
薫姉さんは「鼻歌を交えながら一番複雑なプロジェクト……こりゃ、他のアーキテクトランクは堪えるわな……」とか言ってるけど、やっぱり問題あったのかな? 仕事は真剣にやらないといけないよね。反省しなきゃ……
「よし、稔。仕事はしまいや。デート用の服でも買いに行ったらえぇ」
え? やばい、解雇されたくないよ。今すぐ挽回しなきゃ! 僕がしゃべろうとすると薫姉さんは言った。
「稔……あのな。お前が(鼻歌を交えながら)仕事を終らせると、皆が(自信なくして)困るねん!」
薫姉さんの声が聞き取りにくいけど、僕が仕事をいいかげんに終らせると皆が困るって言っていたよね? 薫姉さんは浮かれてるなって言いたいんだ……反省だよ……
「社長! 私は断固として(お見合いとデートのことを)確認すべきだと思います!」
うわー。真っ青な顔をした凛子さんは、僕が浮かれて仕事をしていたことを確認すべきだって言ってる……困ったなぁ。凛子さん体調大丈夫かな? 薫姉さんも頭抱えてるし……
「稔、はよ行け! それが今すべき事や! 仕事は評価しとるし労働時間は関係あらへん」
薫姉さんの言うとおり、静江さんとデートするのに今の手持ちの服だと心配な気がする。とりあえず、服を買いに行こう。
◇
僕はいきなり会社を追い出されたので、街を巡ることにした。服を買うとしたら美容師の順子さんの紹介の店でもいいんだけど、あそこの店員さんは何か怖いし困ったな……とりあえず適当に店でも見てみるかな……
「星田さん?」
ん? 誰かに声をかけられたよ? って、黒崎さん! なんで? しかも少し怒っている気がする。
「星田さん、何で黙って立ったままなのですか?」
うわぁーどうしよう。周りの人も見てる気がする。「彼氏との喧嘩?」とか言ってるし、黒崎さんのような可愛い子が僕を相手にするわけないじゃん。えーと、黒崎さんにしないといけないことは……
「ごめん」
とりあえず、ここは謝らなきゃ。あれ? 黒崎さん固まってる? 手を取られた……え? 黒崎さんが手を握ってくれてる?
「星田さんが頭下げてると私が謝らせているみたいじゃない。早く頭上げて。ここを一旦離れましょ!」
黒崎さんがそのまま腕をとって体を起こしてくれる。そのまま腕組んで歩き出したけど、どうなってるの?
「そ、そうね。い……いいわ、許してあげる。私も前に酷いことを言ったし……おあいこね。だから、仲直りの印に私のことを美鈴って呼ぶこと。私も稔って呼ぶわ。それで決まりね」
「え? く……黒崎さ……」
「美玲」
黒崎さんの口調が怒ってる感じがする……ここは名前呼びしないといけないけどドキドキだよ……
「み……美玲さ……」
「美玲」
え? 呼び捨て? でもこの感じだと、さん付けしたら逆に怒られそうだし……
「えーと。美玲でいいのかな?」
「うん。稔。それでいいわ。稔は服を見ていたみたいね。じ……時間があるから私も付き合ってあげるわ」
あれ? いつのまにか黒崎さんと買い物することになっちゃった。えっと……たしか女性誌に女の人といる時は他の女の人の話題は厳禁って書いてあったよね……
黒崎美鈴さんは実はツンデレきゃらでした。でも今まで登場してきた女性の中では、一気に稔に切り込んできています。以下、各女性の稔に対しての呼び方です。しれっと凛子さんが名前呼びをしていますね。
稔:薫姉さん、美玲
稔さん:静江、凛子
稔おにいちゃん:由美
※土日祝日はお休みになります。次回は10月24日の予定となります。ストックがなくてギリギリまで書いてしまっていました。今週中にメインの登場人物は出しておきたかったのです……




