僕には死亡フラグって関係ないと思ってたよ
僕は星田稔、30歳。ある大手会社のプログラマーだ。一応エースと言われ重宝がられている。まあ、お世辞だろうけど……
「おっ! ノラおはよう!」
自分なりに爽やかに猫に挨拶。こいつは住んでるマンションでよく見かける。勝手にノラって名前を付けてしまっているが、「にゃー」と挨拶を返してくれるので本人も認識してるんだろう。
今日でプロジェクトも終わる。デバッグの日々は辛かった。でも、あることを励みにやってきた。そう、僕は今日は黒崎美玲さんに告白をするんだ!
さっきは爽やかになんていってしまったが、正直僕はカッコイイ訳ではなく小太りだ。ちょっとオデコが広がってきたかもしれない。でも、黒崎さんはいつも笑顔で接してくれる。男は経済力って言うし、僕にはそこそこの貯金もある。絶対に上手く行くはずだ。
この戦争が終わったら結婚するんだ! なんて死亡フラグがあるけど、それは戦争が終わらないから死んじゃうんであって、プロジェクトには終わりがある……と言うか、今日完了だからフラグが立つこともない!
これから、僕と黒崎さんとの未来が待ってる! 名前呼びで「美玲ちゃん」「稔くん」とか言い合っちゃうのかなぁ……むふふ……
と妄想をしながら、僕は足取り軽く会社に向かった。
◇
僕はプロジェクト完了式に出ている。まぁ、式と言ってもプロジェクトに関わった人で、立食形式で軽食を食べるだけだけどね。車で来てる人もいるからノンアルコールで、飲みに行きたい人は後で居酒屋だ。
あっ……黒崎さんが一つ離れた場所にいる。相変わらず可愛いなぁ。もきゅもきゅサンドイッチを食べてる。お! 黒崎さんの周りに人が居なくなった。今がチャンスだ……
「黒崎さん、お疲れ様。やっとプロジェクト終わったよ!」
「あ、星田さん。お疲れ様です。今回も大活躍でしたね」
おお! これはイケる。好感触だよ! 今日の運勢は星7つだったし、この機会を逃す手はない!
「黒崎さん、2次会の前に少し時間ありますか? 話したいことがあって……」
「え? なんですか? 今すぐでもいいですよ?」
う……流石に此処じゃ恥ずかしいな。よし、場所を変えよう。
「ちょっと、周りに聞かれたくないことなんです。場所を変えていいですか?」
「いいですよー。めずらしいですね。星田さんから相談なんて?」
まあ、相談じゃないんだけど、場所を変えれるならいいかなぁ。よし、屋上に行こう!
「屋上でいいかな?」
「いいですよー」
僕と黒崎さんは、屋上に向かった。屋上は夕日が照っていて最高のシチュエーションだ。これならいける! 黒崎さんに彼氏がいないのは既にリサーチ済みだ。
「なんですか? 相談って?」
黒崎さんは可愛い目を僕に向けてくれている。美玲ちゃん、僕が幸せにするよ。
「み、美玲さん! 僕と付き合ってください!」
よし言った! 完璧だ……って、あれぇ? なんか、困った顔してる?
「申し訳ないけど、駄目かな。星田さんには、もっと素敵な人がいいと思うよ?」
まさかの黒崎さんのお断り……いや……多分照れてるんだ。ここは押しだ!
「そんなことないよ。黒崎さんは素敵だよ。ほら、僕はある程度貯金もあるし、黒崎さんに苦労はさせないよ。だから……」
はっと息を呑む。黒崎さんの背中から黒いものが見える。えっ?なんか「ストーカーになられても……」とか言ってる。何この状況?
「星田さん……キモい。太ってるし、まじでお断り。鏡見てから出直して」
うそーん! この状況なに? ラノベでメイド喫茶のメイドさんに惚れて告ったら全然いつもと違ってるってのに似てる……いや、違う! ここで挽回しないとライフゼロになっちゃう。
「い……いつも頑張ってますね。そういうの尊敬しちゃうなって言ってくれてましたよね。好意を持ってもらってたのかと……」
「星田さん……あんなの真に受けてるの? こんなブラック会社のプログラマに惚れるわけないでょ? 馬鹿じゃないの! 何? この屋上への呼び出し? 中学生レベル? まじで死んで欲しいレベル!」
そこから僕は覚えていない。戻って2次会の会費を事前徴収されてお金を出した気がするし、「おい。2次会の会場はそっち方面じゃないぞ」って呼び止められた気がする。でも、僕は行きつけの居酒屋で飲み潰れていた。居酒屋の主人には止められたけど店を出る。迷惑をかけちゃいけない。フラフラするけど家に向かおう……
黒崎さんの対応は、普通の対応だと思います。いきなり告白されて相手に意気込まれても困ります。そういう時はきっぱりと興味がない意思を示したほうがよいと思います。ただ、残念な主人公はまともに受け取ってしまっていますが……