1.おっさん→美少女の場合―6
ハァ、ハァと肩で息をするタモン。
筋力が追いつかないが、どうやら体の使い方自体は、男の脳みその要領で動かせるようだった。
「ひ……ひどい……親父にもぶたれたことないのに……」
男は部屋の片隅で、鼻血を噴出しながらガクリと力尽きる。
が、それをそのまま許せるようなタモンではない。
“鬼のタモン”と呼ばれていた――会社で営業部長を務めていた時の血が騒ぎ、タモンは男に掴みかかった。
「おい!! 寝てないで起きろ!! これはいったいどういう状況なんだ! 俺にも分かるように説明しろ!!」
「い、いだいっ! 二度もぶった! 三! 四! 五! 六! 七! あああ、もう殴らないでぇぇぇぇぇっ!」
さっきまでの尊大な態度は何処へやら、男はボロボロと涙を流して、少女の姿のタモンに対して頭を下げている。
こんな情けない男に屈服しそうになったのかと、タモンは自分で自分が情けなくなった。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 奴隷術で召喚した奴隷は、ちゃんとオレの言うことを聞くお嫁さんになるって聞いてたのにっ!! ひどいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いや、嫁って……お前、いったい何歳なんだ? どう見ても未成年だろ」
「十七歳」
想像以上に若かったので、タモンはボコボコに殴ってしまったことに若干罪悪感を覚えた。
外人の年齢は見た目によらないと学習するタモン。
「とりあえず何か服を貸してくれないか? このまま裸で話し合うのもどうにも居心地が悪い」
男にこれ以上抵抗する意思はなさそうだったので、タモンはまず衣服を要求した。
男は黙ってテーブルの上を指差す。
そこにあったのは、ブラジャーやパンティーにミニスカートと、どう見ても女ものの衣類の数々である。
「舐めてんのかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「こ、これ以上殴らないでください……死んでしまいます……」
“鬼のタモン”の再来に、男は既に死に掛けていた。