1.おっさん→美少女の場合―1
違和感でタモンは目を覚ました。
いつもであればこの時間に目覚まし時計が鳴るはずなのに、今日は何の音もしない。
このままでは会社に遅刻してしまうと焦って――タモンは、昨日言い渡された事実を思い出した。
「そう、だ……俺はもう、リストラされて……」
はは、と乾いた笑いしか出てこなかった。
大学を卒業し新卒で入社して、身を粉にして働いてきた十八年間。
「んでもって……離婚を言い渡されて……」
リストラの事実を打ち明けると、妻から突きつけられたのは非情な緑の紙だった。
家庭を顧みることなく、仕事に打ち込み続けた男。
その男が家庭に戻ろうとした時、そこには既に、居場所がなかったのだ。
「ほんと……泣けてくるぜ……」
熱いものが込み上げるのを感じ、タモンは目頭を拭おうとした。
――が、動かない。
「は?」
右腕も、左腕も動かないのだ。
何か頑丈なロープのようなものを巻かれて、その先はベッドの脚にしっかりと固定されている。
「ん? ん? ん?」
何があった。
いったい昨夜、何があったのだ。
よくよく見るとベッドは自分の家のものではないし、薄暗い室内には甘ったるい紫色の煙がもくもくと焚かれている。
そうか、飲みすぎたんだ、ヤケになってそっち系の店に行ったんだ――というタモンの都合の良い解釈は、部屋に入ってきた一人の男によって打ち砕かれることになる。