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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第7章 Get Back (取り返せ!)
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第77話 絶体絶命

「有紀様は何も悪いことをしていないではないですか!」

 玉依姫は絶叫するように忽那に言った。


「チカラではもうこの風戸慎一には敵わない。そして俺様は玉依姫(おまえ)を手に入れることは出来なくなった。もう、どうでも良い」

 忽那は子供っぽい理屈を捏ねているに過ぎなかったが、有紀の生命の危機はすぐそこに迫っているように思えた。


「貴様に何の恨みもない。しかしお前を殺めれば俺様は少しは救われるだろう」

 と、支離滅裂な事を口走る忽那に対し、


「ふざけるな! ふざけるな! 人の命をなんだと思っていやがる! 有紀はお前の自己満足のために今まで生きてきたんじゃねえんだぞ! その血で(まみ)れた汚れた手を有紀から放しやがれ!」

 と、慎一は憤怒をぶつけた。


「忽那様! 手を離すのです! 今ならあなたは生前の咎のみの裁きを受ければよいだけです。しかし、生きている有紀様を殺めては、あなたは今後転生などは望めはしませんよ⁉」

 玉依姫は有紀の無事だけではなく、忽那の転生の可能性についてまで考えていたのだ。


「さあ、忽那様。その手を離すのです」


「うるさい。うるさい! うるさい! うるさい!」

 忽那の、生前の学もなく欲望のまま生きてきた本性が発露している。ただ玩具をねだる子供のように駄々をこねているだけの忽那であった。


 しかし状況は慎一や有紀にとって不利であることに変わらず、忽那の改心にも期待ができない。


 ロクは傷んで戦闘力は限りなくゼロに近い。


 サキは死に、瑠璃光による治癒はもはや望めない。


 有紀は忽那の指先一つでどうにでもなり、生死与奪権を握られている。


 慎一は、自分の能力がいかに忽那を上回っていても、このような卑劣な手段を使われるとほとんど無力に等しいことに絶望しかけている。


(むやみに突っ込んでいけば有紀は死ぬ。あいつは既に自暴自棄になって何をしでかすか分からない。しかし、それでも有紀をすぐに殺さないのは、何か心残りがあるからなんだろう)

 慎一は絶望してもなお冷静に考えようとしていた。


(やはり八咫烏(カラス)のオッサンの娘が鍵なんだろうな……)

 忽那は玉依姫に相当な好意を寄せていることはこの短い時間でも分かった。

 

 そして玉依姫も驚いたことに自分をさらった忽那にどういう訳か好意を()()()()()


(頭の悪いオレには忽那の良さなんてまったく分からねえが、ここは一つ玉依姫に何とか頼むしかないのだろうな。オレには選択肢はない)


 そう決めた慎一は、


「玉依姫様ぁ! 頼みがあります! ここに来てはいただけませんか?」

 そう叫んだ。

 忽那は怪訝な顔をして慎一を見ている。


「貴様ァ! 何を企んでいる! 余計なことをするとこの女の頸を刎ねるぞ!」

 忽那の言葉は全く単なる恫喝には聞こえない。


「まあ待て、少し玉依姫様と話をさせてくれ」

 慎一はそう言うと、慎一に血がづいてきた玉依姫に小声で話しかけた。


「あなたが忽那を見限ったのは有紀のためですよね? オレが忽那を追い込みすぎたので忽那は有紀を人質に取るしかなかったのだと思います」

 《嘘をついてでも忽那を赦す》ように説得しようと慎一がそう言うと、

 

「いえ、そうではありません。私が忽那様の事を見損なっていただけの話でございます」

 と玉依姫はそう答えた。玉依姫に方便を使わせようとする事などは通用しなさそうだ。

 

(プランBを使うしかないな)

 そう慎一は独り言ちると、


「玉依姫様、御免!」

 と言って玉依姫を羽交い絞めにし、喉元に瞬時に拾いなおした三叉戟の刃先を突き付けたのだ。


「慎ちゃん! なんてことをするの!」

 一番最初に反応したのは有紀だった。


 ロクも痛みに耐えて片目を瞑りながら、


「慎一! 血迷うな! 八咫烏との約束を忘れたか⁉」

 と叫んだ。


「玉依姫様、こんなことをして大変申し訳ない。でもあなたを傷つけることはしませんから」

 慎一は小声で玉依姫にそう告げた。


 玉依姫は慎一の本心を察したのか、小さく頷いた。


 慎一は今度は大声で、

「忽那! もう一度チャンスをやる。玉依姫様を開放してほしければ有紀を手放せ! さっきも言った通り、オレは地獄の覇権争いみたいなものにはこれっぽっちも興味はねえ。ただ、有紀を連れて帰りたいだけだ! さあ、有紀を放せ。そうすればオレはお前を殺したりしねえよ」


「その女を殺したければ殺せばよい。どうせ俺様はその女に見限られたんだ」

 忽那の答えは慎一の想定内だった。


「玉依姫様はお前のその卑怯な行動が許せないだけだ。まだ諦めるには早いんじゃねえのか?」

 玉依姫は『違う』という目をして慎一を睨みつけた。


 慎一もその視線に一瞬たじろいだが、


「ああ、気持ちはわかるぜ。でもお前は玉依姫様が好きなんだろう? 一度でもその気持ちを伝えたのかよ!」

 と言った。

 

 忽那は今までに見せたことのない微妙な表情をして見せた。

 この男は、幼くして孤児となり這いつくばるようにして生き延びてきて、暴力によって人を殺め、従わせ、そして理不尽に殺された。


 人を愛するという気持ちの機微が分からないままであったのだ。

 

「なんという事! 貴様ァ! 俺様を狂わせるような余計なことを! 余計なことを!」

 様々な感情が忽那の中で入り乱れて自分を最早コントロールすることができなくなっていた。


 それに終止符を打つには選択肢は限られている。


 慎一の提案に乗り有紀を開放するか、有紀を殺して玉依姫が慎一に殺されるのを目の当たりにするか、そのどちらかしかないように思えた。


(この俺様が風戸慎一などに命乞いをするだと? 冗談ではない。全員破滅すれば良いのだ!)

 忽那はあくまでも忽那であった。暴力で人を屈服させてきた男の下らないプライドだけに思考が支配されている。

 忽那の下した答えは、


「さあ、風戸慎一よ。玉依姫(その女)を殺せ。俺様は一向に構わん。そして俺様はこの有紀(おんな)の頸を刎ねることにした」

 だった。


「やめろぉお!! 早まるな!」

 慎一は叫んだが、忽那は既に鋭く尖った爪先を有紀の頸に向かって振り下ろそうとしていた。


 思わず目をつぶった慎一。


 そして覚悟を決めて再び目を開くと、信じられないことにロクの爪が忽那の背中から腹に向けて貫通しているではないか!

 

 忽那は堪らず有紀を手放し、そして背中越しにいるロクに両腕を後ろ手に回して捕まえ全身の骨を砕こうとした。


 ロクの背骨が軋む音がする。


「慎一ぃっ! 今じゃ! その(ほこ)でワシもろとも忽那を貫くのじゃ!」

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