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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第7章 Get Back (取り返せ!)
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第75話 再会

 慎一は、動かなくなったサキの身体をそっと抱きかかえた。


「サキ、サキ、眼を覚ましてくれ!」

 慎一の心はサキに対する憐憫と守ってやれなかった後悔とで一杯だった。


「なんでオレはサキを守ってやれなかったんだろう。サキをあの世でも幸せにしてやれなかった。ウゥゥ」

 ロクはその傍で悔しさと哀しみを押し殺しながら立ち尽くしていた。


「許さぬ。閻魔が許しても、ワシは忽那を絶対に許さぬぞ」

 ロクの怒気は、炎となって自らの身を焦がすほどになった。


 しかし、サキの骸は、だんだん、砂のように崩れて行った。

 

 サラサラと、慎一が抱きかかえているサキの体は腕からこぼれ落ちてゆく。

 

 慎一はそれを掬おうするが、掬っても掬っても指の間からこぼれ落ち、そして空気に溶けるように無くなって行った。


「サ、サキぃ―! 行かないでくれ‼」

 慎一が再び叫び声をあげると、サキの声が聞こえてきた ―― 気がした。


――ネコちゃん、シン兄、アタシはカラスさんも入れて4人でいられた事は本当に幸せだったよーー

 幻聴かと最初は慎一もロクも思った。


ーー みんなと一緒に闘えなくなってごめんね。でもアタシは天国に行くのよ。またいつか生まれ変わったら会えると思うの。それまでアタシ待っているから――

 慎一もロクも、これはサキの遺した本物の言葉だと解釈した。


「慎一よ。ワシたちのやれることはなんだ?」

 慎一は流した涙をそのままに応えた。

 

「忽那を退治する。それ以外に何かあるか?」


「お主も、忽那を倒した後、閻魔と話を付けて生まれ変わるのじゃ」

 慎一はロクの真剣な眼差しを見つめ返し、


「ああ。お前もだよ。ロク。忽那を倒したら一緒に生まれ変わろう。お前が人間に生まれ変わっても、俺がネコに生まれ変わっても、必ずまた会おう。サキも一緒にな」


「お主がアメンボに生まれ変わってもワシがきっと見つけてやるから安心せい」

 慎一はロクの冗談に少し微笑んで言った。


「ああ、頼むぜ相棒。きっと見つけてくれ。オレもお前を絶対に見つけるから」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 サキを亡き者にして浄土送りにした忽那は敗走し、玉依姫と有紀を幽閉している牢獄にたどり着いた。


「忽那様! そのお身体はどうなされたのですか?」

 予想以上に痛んだ姿の忽那を見て玉依姫は悲鳴を上げた。


 サキから奪った治癒能力をサキを亡き者にすることと引き換えに失い、満身創痍となっても治癒できなくなった忽那は正にボロボロとなった身体を引きずるようにしてここまで逃げてきたのだった。



 それでも忽那は強気にも、


「どうってことはない。時期に風戸慎一はここに来るだろうな」

 といい、指先から小さな熱源である闘騰気を放ち、サキが忽那の逃走先を追跡するように指令を出した監視用の式神を撃ち落とした。


「あれほど威勢の良いことを言っていたけど、要するに風戸にやっつけられてここに逃げ帰ってきた、そんな感じ?」

 有紀は忽那に言った。

 

 忽那は顔を歪めたまま答えなかった。

 

 玉依姫も有紀の言葉に心の中が泡立った。


「風戸は今何をしているの?」

 有紀は慎一が来ないことに少し不安を感じていた。


「今俺様が撃ち落とした式神が、時期にこの場所を伝えるだろう。今度は俺様の力の限りを尽くして、おまえの目の前で風戸慎一を亡き者にしてくれる!」

 有紀は身震いしないでもなかったが、


「そこまで追い込まれたあなたに、風戸を倒すことなどできないわ!」

 と凄んだ。


 玉依姫はこの両者のやり取りを無言で見守るだけであったが、気になったことを一言、


「父上はどうなされたのですか⁉︎」

 と忽那に訊いた。そこに八咫烏の気配がなかったからだ。


 忽那は、


「案ずるな。お前の父は強かった。この忽那様を傷つけるほどにな。今も下界におるのであろう。」

 と答えた。


 玉依姫は少し安堵した表情を見せたが、外で大きな音がしたのですぐ厳しく引き締まった顔に変わった。


 この牢獄の建物には前門があり、そこを警護している鬼達が叫び声を上げながら逃げ込んできた。


「貴様ら、何をしている」

 忽那は鬼達を叱責したが、鬼達が答える間もなく黒い化け猫と、大威徳明王(ヤマーンタカ)ーー 慎一がーー現れた。


「有紀、オレだ。慎一だ」

 大威徳明王の姿はしているが、有紀に聞こえてきたのは、もはや懐かしいあの慎一の声だったのだ。


「慎ちゃん……」

 そう発したきり、有紀は何も言えなくなってしまった。


「有紀、こんな事に巻き込んでしまって済まなかった」

 慎一は水牛から降りて続けた。


「それより、黙って逝ってしまって…本当に悪かった」

 有紀は、やっとのことで声が出るようになった。


「慎ちゃん、酷いよ。私、あの日からずっとずっと、本当に悲しかったし、寂しかったよ」

 それを聞いた慎一が、かけるべき言葉が見つからず沈黙していると、


「有紀殿、ワシはロクという。慎一が死ぬ原因を作ったのは、このワシなんじゃ。ワシがあの日路上でうずくまっていたのを、慎一が避け損なってのう」

 そうロクが慎一を庇うと、有紀は複雑な顔になった。


「ロク…さん。そのあなたが何故風戸と一緒に?」


「話せば長くなる。済まぬが、まずはこの忽那を退治てからにさせてもらう」

 ロクはそう言うと、四肢に姿勢を変え、毛を逆立てた。


「有紀、オレたちが闘っているのを見ない方がいい」

 慎一はそう言って有紀を牢獄の鉄格子から遠ざかるように促した。


「そちらは玉依姫様じゃな?八咫烏からそなたを救うよう託けられてきた。玉依姫さまもどうか離れてくだされ」

 ロクは玉依姫にも声を掛けた。


「いいえ、ロクさん。私はここであなたと風戸の戦いぶりを見ています。玉依姫様と全てを受け入れると誓ったのですから」

 ロクはそれを聞いて、


「それではお二方ともどうかご無事で」

 と言い、刹那、忽那に向かってスピードを上げ迫った。


「忽那ァアア!覚悟じゃぁああ!」

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