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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第7章 Get Back (取り返せ!)
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第72話 渡り船

少々概念ぽい話にはなってしまいました。実際の宗教の地獄、煉獄、天国の概念とは違いますのでそこはフィクションという事でご理解を。



 ロクの導きで慎一とサキは煉獄の入り口にたどり着いた。


 三人が手を取り合いロクが念じると、光に包まれ下界から消えて ー素粒子レベルに分解されてー 空間に空いた小さな闇の入り口に吸い込まれていったのだ。


 煉獄にたどり着くまでの間、素粒子に分解されているためか意識や記憶はない。


 実は煉獄に辿り着いたときに、素粒子から元の姿に戻り記憶を正確に思い出すと言うことは困難なことにもかかわらず、煉獄に送られて、又は自ら望んで来た者達は誰しもが当たり前のように元の姿に戻るのである。


「ここが煉獄ってやつか…」

 慎一は物珍しそうに辺りを見回した。


「何を言っておる。ここはまだ入り口じゃぞ?」

 ロクが訂正して嗜める。


「えっ、ここじゃないのかよ」


 長く続く洞窟の如き通路が先に伸びていた。通路の中は殆ど光がないが、歩き進むうちに目が慣れてくるから不思議なものだ。


「死んだ人は、みんなここを歩いてくるのね」

 サキは神妙な面持ちで呟いている。


「そうじゃ。いきなり地獄もいきなり天国もないんじゃよ。煉獄で振り分けられて慎一は地獄へ、サキは天国に行くんじゃ」


 慎一はロクの頭に拳骨を見舞った。


「いてて、なにをするんじゃ!」


「お前、しれっと酷いことを言うよな?」


「実際お主を地獄に連れて行こうとする妖が次から次へと来ておる。間違ってはおらんじゃろう?」


「その事なんだけどさ」

 慎一は少し寂しそうに言った。


「地獄から這い上がることって出来ないのかよ」


「出来るぞよ。ここでは閻魔の裁きが七回ある。それに沙汰によってお主は『罰》を受けるんじゃが、その罰は永遠とは限らないんじゃ」


「罰が終わるまでどれくらいかかる?」


「閻魔の裁き次第じゃな」

 慎一はため息を一つついた、


「まあ、そう落胆するな。その続きをまだ話してはおらん」

 ロクは諭すように話を続ける。


「地獄の役割は《贖罪》じゃ。贖罪が終われば輪廻転生と言って、お主は誰かの新しい命としてまた蘇る」


「誰かの…命…」


「そうじゃ。誰かの新しい命じゃ」

 サキも疑問をぶつける。


「私は天国に行くってネコちゃんは行ったけど天国ではどうなるの?」


「お主たちの言葉だと《天国》じゃが、ワシには《浄土》の方が通りがいいわい。神々も輪廻転生、すなわち何度も蘇る命の循環から免れぬのじゃ。それを超越した存在は仏陀しかおらん」

 サキは目を白黒している。


「サキにはちと難しかったかのう?」


「要するに、アタシも誰かに生まれ変わるの?」


「いくら居心地がよくとも、浄土に居続ける事はご法度じゃ。人間道、すなわちあの世に対するこの世に不幸な者がいる限り、浄土にいるものは仏としてまた戻らねばならないのじゃ」


「よくわからないけど、地獄へ落ちても、天国へ行っても、また誰かとして生まれ変わるのね?」


「ああ、そうじゃ」

 サキは少し安心したようだ。


「シン兄とも、ネコちゃんとも次の人生で会えるかなあ?」

 慎一はそれを聞いて疑問に思ったことをロクに聞いた。


「なあ、ロク。お前は猫じゃん?」


「お主、気は確かか?」


「いやいやいや、そうじゃなくてさ」


「なにがそうじゃないんじゃ!」


「猫は死ぬと今度も猫として生まれ変わるんだよな?」

 サキもそうだろう、と頷いている。ところが、


「不正解じゃ。次に何に生まれ変わるかは分からんぞ」

 慎一もサキも衝撃を受けたようだ。


「って事は、オレは次に生まれるときは人間とは限らないって事か?」


「そうじゃ。お前は次にネコに生まれるかもしれん。水溜まりにいるアメンボになるかもしれんのぅ」


「えー、アタシやっぱり人間がいいな。どうしたらまた人間に生まれ変われるの?」

 好き好んで人間以外に生まれ変わりたいと思う人間はあまりいないであろうとは思うが、人間に生まれ変わる前提条件があるのであれば聞いておきたい、それが人情というものだ。


 三人は洞窟のような長い暗闇を抜けて、今度は三途の川に出た。

 三途の川の岸にあ渡し船が待っていた。ロクが少しもじもじしている。


「お主らは冥銭なんぞ、持ってはおらんじゃろうなあ」


「冥銭ってなんだ?」

 

「渡し船はタダじゃないんじゃ」

 それを聞き二人は呆然とする。


「いや、死んだ人お金持ってないよね? 普通? なんで? あの世ってひどくねえ?」

 

「だから冥銭っていうのを死んだ者には握らせるという習慣が昔からあったんじゃよ」


「オレたちどうすればいい?」


「まさかじゃぶじゃぶ川に入ってわたるの?アタシ泳ぎは苦手なんだけど」

 サキは怯えている。


「ワシが何とかしてみよう」

 ロクはそう言うと、船頭の鬼に何やら話しかけている。二人は知り合いなのか、随分と親しげだ。


「鬼の船頭が言うには、六文払えぬものは衣服を剥ぎ取ると言っておる。慎一、お主はかまわんな。さて、問題はサキじゃが…」


「いやん、ネコちゃんエッチ!」

 と言って明後日の方向を向いてしまった。


「鬼は今回に限り許してくれるそうじゃ」


「えっ、本当?」

 サキが喜んで反応すると、ロクは肯いている。


(なんか怪しいな。そんなに簡単には行くはずもないだろ!)

 慎一は、


「おい! ロク! 」

 と呼びかけた。

 船には死者が次から次へと乗り込んでいる。


 「お前、何を鬼に言ったんだ?」


 「『忽那を倒す男が乗ってくる』と言ったんじゃ。此奴らも忽那には良い気分はしておらん」

 

「煉獄でもオレはそこそこ有名ってわけか」


「ぬかるでないぞ。忽那は手ぐすね引いて待っておる」


「ああ、オレも負ける気はしねえよ」

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