第69話 囚われの二人
久しぶりの更新、お待たせいたしました。忽那によって煉獄に連れて行かれたあの二人が一緒になります。
物語はクライマックスに近づいて来ましたよ!
「式神でどうするつもりなんだ? サキ?」
「式神は生き物ではないの。生き物ではないから連れていくのには問題はないわ。それでこの人に代わって黄泉の国で立派に仕事をしてくれるわ」
慎一はもう一つの疑問があった。
「でも、有紀は生きていたのに、あいつに連れていかれたぞ?」
これにはロクが答える。
「ヤツに仮死状態にされたのであろうな。そういう意味でも有紀殿は少々危ない状態にあるようじゃ」
「なんだって⁉ どうしてそんなことを。有紀は何も悪くないのに…」
「慎一よ、道足殿が言うように、忽那はお主の得た力に完全に我を忘れて妖の掟を次々と破ったんじゃろう」
「強いって言っても俺にはよくわからない。でも、ということはあの野郎に勝てるかもしれないってことだよな?」
ロクは首を振って答える。
「勘違いするでない。確かにお主は強くなった。しかし忽那が煉獄でお主を迎え撃つとなればそれなりの覚悟が必要じゃぞ?」
慎一はロクの目をじっと見据えて言った。
「もとより簡単に勝てるなんて思っちゃいないさ。でも、有紀をこんな目に合わせたアイツを俺は絶対に許さねえ。何があったって、俺は有紀を取り戻して見せるさ」
八咫烏が割り込む。
「この八咫烏様がいなくて心細いか? 慎一よ」
「ば、バカ言え! お前がいなくても何とかやれるさ。お前は有紀の代わりをしっかりと務めてくれよ? ボロを出すようなマネはしてくれるなよ?」
「その点に関してだが、俺は何をすればいい?」
その場にいた全員がアゴを外した。
「お主! 変身だけすればいいってもんじゃないことくらいわかっとろうが!」
ロクは八咫烏の足元で見上げるようにして怒鳴った。
「頼むよ、八咫烏ぅ~」
慎一は涙目になって懇願する。
「頼りないなあ、カラスさん…」
サキがそう言うと、八咫烏は狼狽した。
「た、頼りない? この俺様が? はぁ? え? 何言ってるの? どこ直せば良い?」
慎一とロクは顔を見合わせて笑った。
「八咫烏もサキには頭が上がらんようじゃのう?」
「それでいて何か自分の方が立場が上っぽい言い方してるのがカワイイよな?」
道足が痺れを切らして姿の見えているロクと元紀に憑依している慎一に聞く。
「さあ、いつ実行するの? その有紀さんが心配だわ」
慎一も真面目顔に戻って言った。
「ああ、先生の言う通りだ。」
「では、八咫烏よ、後はお主に頼んだぞ」
「任せておけ。俺様はやる時はやるんだ」
力強く八咫烏が答えると全員は声を出して笑った。
「じゃあ、出発だ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここは、どこなの?」
有紀は生温く湿気の感じられる煉獄の牢で気を取り戻した。
ふと気配を感じた。
振り向くと白装束に身を包んだ女性が慈悲深い眼差しで自分を見ている。
「あの、ここは…」
「あなたは、忽那様にここ煉獄に連れてこられたのですよ」
女性は玉依姫、と名乗った。
「煉獄って、あの所謂あの世の事ですよね?」
「そうよ」
有紀はその一言を聞いて血の気が引く思いがした。
「私は白石有紀といいます。何故ここに連れてこられたのか、正直戸惑っているんです」
有紀は今日あった出来事を詳らかに玉依姫に話した。
「その、忽那という人に抱き抱えられてここに来たみたいなんです」
玉依姫は目を閉じて言った。
「それは、難儀なことでしたね。あなたは、もしかするとまだ死んだわけではないかもしれません」
玉依姫にそう言われて有紀は自然と涙が出てきた。
「玉依姫様は何故ここに囚われの身に?」
「私は、閻魔大王に命ぜられた忽那様によってここに人質としてここにいるのです」
「そんな事って…」
有紀は絶句した。
「私の父君、賀茂建角身命があなたの許嫁、風戸様を地獄へ連れて行くように命ぜられているのです」
思いがけない話に、有紀は激しく動揺した。
「風戸をご存知なのですか? 玉依姫様?」
「ええ、お会いしたことはございませんが
、あの閻魔が一目置いているとの話でございます」
「風戸は今どこに?」
「いままで、あなたの側にずっといた筈ですよ」
(慎ちゃんが、私の側に?)
心の中で有紀はそう呟いた。
「あなたは大きな《闇》に包まれたことがございましたね?」
「え、ええ。その通りです」
「あの時、あなたは八岐大蛇に喰われるところでした。閻魔大王は風戸殿があなたを失えば諦めるとお思いになったのでしょう」
「では、なぜ私は助かったのでしょう?」
「風戸様とその仲間たちが、あなたや《闇》に囚われたすべての人々を八岐大蛇を破って助けたのです」
有紀は絶句するしかなかった。
(慎ちゃんは、私を守っていてくれたの…)
涙を拭った有紀は強い意志を込めて言った。
「玉依姫様、私は、私は何でもします。どうすれば良いか教えてください!」
玉依姫は少し翳のある表情をして語り始めた。