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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第6章 Realm of the dead(黄泉の国へ)
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第64話 タッチポイント

「マリー=テレーズ、庶務課に非常用電源の使用許可もらったわ。それで電力は足りて?」

 内線電話では、全く埒が開かなかったので、道足は走って庶務課に行って許可を取り付け、その足で戻ってきた。


 息は上がっているが、眼は輝いていた。道足は明らかに興奮している。


「先生、それに関しては問題ありません。ただ、新宿の一件とは違って、電源車はないので、どうやって給電するのかが問題です」

 マリー=テレーズは率直に答えた。


 道足の答えは意外なものだった。


「それもちゃんと確保したわよ。私を甘くみたわね?」

 非常用電源は、学内のコジェネレーターを稼働させる。

 

 燃料はすでに充填されていて、直ぐにでも稼働させれば電力供給が可能だった。そして給電の方法については、学内の主要スポットには給電グリッドがすでに組まれており、「E.G.o.I.S.T」を学内どこで照射してもほぼ死角はない。


「先生、確保したと仰いましたが、正しくは『既にあった』ですわね?」

 マリー=テレーズは道足に突っ込む。


「あら、結果オーライという言葉があるのよ。日本には」


「泥縄式、という言葉もございますわ、先生」

 マリー=テレーズの減らず口も大したものである。


「マリー=テレーズ、それで『この世ならざるもの』は何処に居るのよ」


「それについては、この私めにお任せ下さい。何しろ私は結界師なので」

 道足は、「結界師」という言葉を聞いて、やれやれ、という顔をしたが、事実はどうあれマリー=テレーズが「この世ならざるもの」を感知できる事は否定できない。


「はいはい、結界師さん、何処なの」


「そこです」

 マリー=テレーズは大講堂を指さした。


 道足は半信半疑ながらマリー=テレーズ向かって指示を出す。

「E.G.o.I.S.Tの準備は良くって?」


「はい先生。グリッドに接続しましたわ」


「はいはい、どんどん」


「先生、わんこそばをついでるみたいに言わないでください」


「何でバレたのよ」

 適当に言ってるのがバレて頭を掻いた。


 マリー=テレーズがトリガーを引くと、E.G.o.I.S.Tからまた大きな雷鳴のような音が鳴り響き、講堂の前に、軍荼利明王、化け猫、八咫烏、そして小さな女の子が現れた。


「※○♀$⁂!!?!!」

 道足は興奮が過ぎて言葉にならない言葉を発した。


「おい、またアイツらだ」

 慎一が道足とマリー=テレーズがE.G.o.I.S.Tから何かを照射する事で自分たちを可視化しているのに気がついて言った。


「ワシが、話して見るかのお」

 ロクはそう言って道足の方に向き直して言った。


「おい、お主ら。誰なんじゃ?ワシらを普通の人間どもに見せるその道具は何なんじゃ?」


 道足にとっては、想像の斜め上をいく展開だった。


「ま、ま、マリー=テレーズ! 何か喋っているわ!」


「先生、落ち着いて。日本語ですわよ?」


 道足は深呼吸をした。


 少し興奮を抑えられた。


「私はこの大学の助教、道足恭代よ。貴方は誰」

 ロクは答える。


「道足殿、ワシはロクと申す者じゃ。少し訊きたい。その妙な物でワシらをどうするつもりなのじゃ?」

 道足は戸惑った。

 

 答えなど用意していない…と言うよりも自分の研究対象と会話すると言うことなど全く想定していなかったからだ。


「ワシらを、見せ物にするつもりかのお?」

 ロクは少し不機嫌そうに尋ねた。


「この装置は『E.G.o.I.S.T』と言うの。貴方達を可視化する装置なの」

 道足は出来るだけ丁寧に説明した。


 しかし、


「なんだよ、やっぱり俺らを見せ物にしたいんじゃねえか!」

 軍荼利明王の憤怒した表情で慎一が言い返す。


「ち、違うわ!これは霊科学にとって本当に重要な一歩なの。貴方方を見せ物にするつもりなんて…」


「それではどうするつもりか、分かりやすく教えてくれぬか? 道足殿よ」

 感情を圧し殺しながら八咫烏が詰め寄る。


「お姉さん、アタシたち、色々あってこんな姿になっているんだけど、悪いことをしてるわけじゃないのよ。その、少し、話せませんか?」

 サキは会話を提案した。


「まず、その装置を使うのは止めてくれないか。装置がなくても、話し合う事は出来るんだぜ。道足さん」

 そう慎一が言うと、道足はマリー=テレーズに命じてE.G.o.I.S.Tを停止させた。

 

 マリー=テレーズはもちろん不満顔だ。


「さあ、止めたわよ。どうするつもり? それとも私を担いだのかしら?」


「まあそんなに慌てるでない。道足殿」

 そう言ってロクがスーッと現れた。


「済まぬが、姿を現せるのはワシだけなのじゃ。他の者たちにはワシが質問を取り次ぐ」


「そう、分かったわ。それで貴方は何者?」


「ワシは鍋島藩臣下、龍造寺又七郎の飼い猫又六郎と申す。主人の母、たつの怨み晴らすため化け猫となって生き延びてきたんじゃよ」

 道足は質問を続ける。


「あの仏像はだれ?」

「あやつは軍荼利明王じゃ。その正体は慎一という。丁度一年前、この先で死んだ。許婚がおっての、心配で成仏できなんだ」


 マリー=テレーズは顔を手で覆って、

「God...」と呟く。


「あの女の子は?」マリー=テレーズが訊く。


「あの子はサキという。慎一と同じ日にならず者に殺された。殺させたのはサキの両親じゃ」

 マリー=テレーズの心は張り裂けそうになった。


「そして、カラスだが、本物の八咫烏じゃ。お主らも知っておろう?」


「し、知らない…」

 道足は正直な女だった。


「八咫烏も知らんのか、と怒っておるぞ。まあ、それは良い。この通り、ワシらには見せ物になりたくない理由があるんじゃ。道足殿の『研究』とやらが何を言っておるのかワシにはとんと分からんが、どうかこの又六郎の顔を立てて諦めてはくれぬか?」

 道足は往生際も悪い。

 

 ロクの言っている事は理解できるものの、自分の研究を進めない限り学者としての未来も不確かなものになる。逡巡しているうちに、ロクが慌てだした。


 ロクは、

「済まぬが、ワシらは戦わねばならん。一度消えるぞ。悪く思うな」

 と一言言って霧のように居なくなった。


 そう。忽那が八咫烏についに追いついたのだった。

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