第63話 拮抗
忽那は最強最悪キャラですが、八咫烏もまた慎一達と行動を共にする中で大きくパワーアップしていました。余力のある無しは別として、お互いの力は拮抗している段階です。
さて、どちらが勝つのか。
「今度こそ、忽那を倒してわが娘、玉依姫の苦難を取り除いてやる。忽那よ覚悟だ!」
八咫烏は右脚で忽那の顔面を捉え、左脚で右肩を掴んだ。
しかし、それと同時に、忽那は掴まれた顔面が潰れぬうちに右の腕で八咫烏の右脚を引き剥がし -- それには両のほほに深く八咫烏の爪によって抉られた深い傷を残すことになったが -- そのまま掴んだ。
同じく、左の腕で右肩に食い込んだ左脚をも引き剥がして掴んだ。
八咫烏の爪が腕の皮膚を引き裂き、そこから血が迸る。忽那は激痛に耐え、一言も発さず八咫烏の攻撃を止めてみせたどころか、完全に形勢逆転、ちょうどジャイアントスウィングのような体勢になった。
しかし八咫烏も二手先三手先までは読んでいたのか、慌てふためきもせず、
「甘いわ!」
と、八咫烏は残った真中の脚を両の腕が塞がっていて防御が不可能な顔面めがけて伸ばそうとした。
「甘いのは貴様だ!」
忽那は八咫烏の両脚を力任せに弧を描くように振り回し、顔への真中の脚の急襲を防いだ。
しかし八咫烏は諦めない。
今度は嘴を忽那の右、左の腕に交互に突き刺した。
何度も何度も、積年の恨みを晴らすかのように忽那の筋肉を引き裂くべく嘴を突き刺す。
堪らず忽那は八咫烏の両脚を手放した。
電光石火のように続いた攻防戦から一転し、今度は両者はお互いに少し距離を置いて対峙している。
《奴め、何を考えてやがる…まったく考えが読めねえ》
忽那は八咫烏を少々甘く見ていたようだ。連続して繰り出される八咫烏の攻撃に、己の身体が少しずつ傷つき、失った体液のおかげで少し意識が定かではない。
《くそっ、奴の姿が二重に見えやがる》
一方、攻撃に手応えを感じた八咫烏は、
《まだまだ地獄はこれからだ。》
と口元を少しだけ緩ませた。
その時だ。あろう事か、忽那は背中を向けて脱兎の如く逃げ出したのだ。
呆気に取られる八咫烏。
すぐ気を取り直して、
「き、貴様!逃げるのか!?」
と叫んだ。
そしてすぐさま飛び立ち、空から忽那を追いかける。
忽那は、慎一達が一旦撤退して行った方向へ矜持も何もなく、兎に角走る。
停まっているバスを完全に踏みつぶしーー もちろん違う次元レイヤーでの出来事だがーー 街路樹を薙ぎ倒して走った。
《目が見えねえんだよ!一旦撤退してやる。闘神が戻って来ればこの目も見えるようになるだろう。その時がお前の命日になる。少しだけお前を生かしておいてやるんだ。少しは感謝しろ。》
走りながら忽那は心の中でそう呟いていた。
走ってゆくと環状7号線の野方のアンダーパスに差し掛かった。アンダーパスの上は、西武新宿線の野方駅である。
アンダーパスに入った忽那は、急に止まり、そして神経を集中させた。
身体中に、先程放った闘神が戻り、だんだん力が戻ってきた。
八咫烏は、野方のアンダーパスで忽那を見失った。
《あの野郎、隠れやがったな!?》
直ぐに方向を変え、南に向かって低空飛行に移った。
刹那、八咫烏には、高速で迫り来る高エネルギーの熱源、闘騰気が見えた。そして北東の方向に弾き飛ばされた。
《なんと迂闊だった事か…》
まともに闘騰気を食らった八咫烏は、吹き飛ばされるままそう呟いて気を失った。
そして豊玉陸橋の脇にある私学 ーー 東京科学工科大学 ーーの講堂に打ちつけられて漸く止まった。
「おいおい、八咫烏よ、お主大丈夫か?」
声をかけたのはロクだった。
「よくここが分かったな?」
なんとか立ち上がった八咫烏は、身体についた埃を払う。
「ああ。俺は貴様らの居場所など、いつでも把握している」