第61話 矜持
久しぶりに闘神、知神、精神の概念をだしました。
初めて読む方に説明ですが、21話「チカラ」に説明的な描写がなされています。
攻撃をする力、「闘神」、知恵で闘神を活かす「知神」そして、闘神と知神を掛け算的に強くする心の力「精神」をそれぞれのキャラクターが持っているのです。
忽那はサブボス的なキャラなので、大きな力を持っています。
「うぅっ」
肋骨を何本か折られた状態では、力を込めるのにも激痛が走り、意図せず呻き声が上がる。
それでも八咫烏は、
「さあ、貴様と決着をつけねばならん。掛かってこい」
と右の翼を突き出して、忽那を挑発した。
「掛かって来いとは噴飯ものだな」
忽那は鼻で笑った。
「何を笑っている?怖気づいたか?忽那」
八咫烏の強さは飛翔能力とその俊敏性、三本の脚の破壊力である。
翼が忽那の熱源の攻撃によってかなり損傷してしまった今、飛翔能力と俊敏性の何割かは失われている。
「何の強がりだ。この忽那が、貴様ごときに負けることなどまったく想像だにしていないぞ。馬鹿めが」
忽那は余裕綽々で前に出た。
八咫烏はじりじりと忽那に間合いを詰められつつも冷静に分析をしている。
「忽那は、闘神98、知神41、精神86か。改めて化け物だな。43、55、77の俺が勝るにはわずかに勝っている知神を全活用せねばならん。勝つぞ。私は娘を必ず奪還する!」
「何をぶつぶつ言っている。貴様が来ないのであれば、私から行くぞ!」
忽那が両手の掌を左わき腹のあたりで合わせ、力を込め、髪を逆立て、こめかみ辺りには血管を膨らませると、やがて掌の中では、紅く、そして高温に光る熱源、闘騰気を醸成した。
闘騰気は、闘神を一時的に掌にロードし、精神を使って増幅し放たれる。放たれたのち、分散した闘神は忽那の元に徐々に戻ってきて、そして再び蓄えられる。リサイクルが可能な最強かつ無尽蔵な武器だ。
「集中しろ。集中しろ」
八咫烏は忽那の掌に注目し続けている。同時に忽那の表情の変化にも気を配らねばならない。
闘騰気が放たれる瞬間には、忽那の表情には必ず -- 忽那自身は気が付いていない -- 変化がみられるからだ。
一瞬、忽那の口許に、上顎の牙がちらりと見えた。
「今だ!」
八咫烏は上空ではなく、忽那に向かって飛んだ。その刹那、闘騰気は忽那が前に突き出した両方の掌の間から轟音を立てて放たれた。
闘騰気に向かって高速で飛躍を試みた八咫烏。
闘騰気は無慈悲にも、八咫烏に正確に向かっている。
ぶつかる、そう思われた直前、八咫烏は濡羽色をした翼の羽根をあたりに撒き散らし、そして硬化させた。
闘騰気は、闘神を高速で振幅させたものだ。硬化した八咫烏の羽根は炭素繊維化され闘騰気を一部吸収、そして自らを破壊することで分散させたのだった。
「なんだと! 闘騰気を避けるなど不可能…」
と言いかけた忽那に鋼鉄のように固く、力強い八咫烏の三本の脚が忽那の胸部をえぐったのだ。
忽那の咆哮を聞くのは初めてだった。
「どうだ。忽那。貴様が見下していたような弱い相手か?この私は」
八咫烏はかつて神武天皇を長髄彦との闘いで勝利を導いた時のことを思い出していた。
「これがこの私、賀茂建角身命の矜持である!」
胸を抉られ、痛みに顔を歪めている忽那は、それでも、
「何が矜持だ。くそガラスが!」
闘神をまた再び集めて闘騰気を放とうとしたが、まだ十分な闘神の回収はできていない。
すかさず八咫烏は、高速で飛び、今度は巧みに体を入れ替えて忽那の脚の肉を抉った。
体を捻った際、身体からは尋常ならぬ苦痛を感じた。
お互いに
「ぐああぁぁぁああっ!」
「ぬぅうううぉおおおおおおお!」
と、苦痛に耐えきれずに悲鳴があがった。
忽那は、ついに片膝をつくことになった。
「クソガラスめ。闘騰気を連続で撃てず、闘神と精神が減った状況をうまく利用しやがったな」
と独り言ちたが、不敵に笑った。
「貴様にしては知恵のあるよい攻撃だったな。しかし、お前はここまでだ」
こんどは八咫烏が鼻で笑った。
「何を言っている。貴様の闘神の多くは、すでに失われているのだぞ?今更命乞いをしても無駄だ。貴様をここで倒すことは、貴様が今まで殺めてきたすべての者たちへの手向けだ! 覚悟せよ! 忽那!!」
八咫烏は再び忽那に突進していった。
必ずしも強いものだけが勝つわけではない、そんな事を書きたいと思っているのでこれら3つの力は便利な物語のアイテムとしてこれからも出てくると思います。