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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第6章 Realm of the dead(黄泉の国へ)
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第58話 初見(ファーストコンタクト)

 三途の川を渡り切り、忽那は下界に降りようとしている。


 向こう岸に渡り、茨の藪を抜け、暗い洞窟のような、遂道のような所を川の水を滴らせなが歩いている。

 向こうには下界の光が見えている。


 下界に行くことについて、閻魔には許可を取っていない。


「閻魔は後で煩いことを言うのであろうな」

 忽那は肩を怒らせて呟いた。


 久しぶりの下界だ。


 地獄へ堕ちるべき死者の魂の鼓動を全身で感じる。


 忽那ほどの実力者であれば無数とも言える死者の魂の中から、あの男を ー 風戸慎一を ー 見つけ出すのは造作もないことだ。


「ほう、噂通り八咫烏の奴も一緒にいるじゃないか」

 筋骨隆々の、銀の長髪、顔はその体躯に見合わない小ささ。熊の皮を襷掛けのように纏った忽那は程なく慎一たち一行を五日市街道で見つけた。


 ロクが程なく反応する。


「お主ら、物凄い妖気じゃ。備えるんじゃ!」


 その刹那、強い熱源が四人を掠めた。


 八岐大蛇とは違い、忽那は闘いを下界を巻き込むことはしなかった。慎一たちには、熱源は派手に道路を捲り、ガードレールを薙ぎ倒し、そして近隣の建物を吹き飛ばした。

 しかしこれは次元のレイヤーが違うため、下界の現実には影響を及ぼさない。


「おい、これはとんだご挨拶だな」

 八咫烏は防御の姿勢のまま、忽那に言った。


「誰だよ、この化物は?」

 慎一は熱源の凄まじさに慄きながら八咫烏に訊いた。


「忽那、ようやくお出ましか」

 ロクはいつのまにか化け猫に変化していた。


「忽那だと?お前か。八咫烏の娘さんを誘拐したのは!」

 慎一もすっかり軍荼利明王に変化を終えて言った。


 銀髪を掻き上げながら忽那は、


「貴様を連れに来たんだよ。風戸慎一」

 名前を知られていたことに少し面食らった慎一は


「俺もちょっと有名みたいだな」

 と茶化して言った。


「貴様のようなどうでもよい咎人になぜ閻魔は躊躇するのか知らんが、俺は閻魔の言うことなどもう聞くつもりはない」

 忽那の眼光はさらに鋭くなった。


「閻魔に背いたと言うことではワシの方が先じゃがな。ワハハ!」

 とロク。


「ネコちゃん、さっきのアレ、物凄かったけど大丈夫なの?」

 サキが八咫烏の陰から覗き込みながら聞いた。


「なあに、俺が始末してやるよ」

 ロクが答える前に慎一はそう言うと、五法具の一つ三叉戟(さんざげき)を片手に忽那の前に立ちはだかった。


「忽那とか言ったな?俺をどうでもいい咎人とさっき言っただろ。気分悪い奴だな。お前」


「それ以上でもそれ以下でもあるまい? 何か不服なのか」

 忽那は軍荼利明王となった慎一よりもさらに倍ほどの背の高さで、見下ろすように答えた。


「慎一よ、早まるでない! 奴は今までの妖とは全く次元が違う…」

 とロクが言いかけるや否や、忽那はまた熱源を両の掌を合わせて発射した。

 

熱源は確実に慎一を捉えて、瞬く間に吹き飛ばした。


「ゔぁああぁぁ!」

 百mは吹き飛ばされただろうか。

 

 慎一はマンションの壁に激突し、壁をぶち抜いて辛うじて止まっている。熱源を受けた部分は焼けただれ、変色してしまっている。

 それでも慎一は起き上がって吠えた。


「クソオォおおお! お前なんかに負けねえぞ!」


「どうやって俺に勝つのか見せてみろ。雑魚が」

 忽那はそういうなり再び熱源を放った。

 

 熱源はまたも慎一に当たり、吹き飛ばされた上に今度は業火に包まれてしまった。


 慎一の悲鳴が聞こえてくる。


「まずい、サキよ、瑠璃光じゃ!」

 サキはロクに促されると直ぐに瑠璃光を慎一に当てた。


 慎一を包んでいた業火は消えて、慎一の火傷も瞬く間に治癒した。しかし闘うほどの体力が戻っている訳ではない。


「余計なことをしてくれる。お前だろう?式神を送って操っているのは」忽那はサキをみて唸るように言った。


「ひっ、ひぃいぃ」

 サキは慄きながら八咫烏の陰になおも隠れている。


 慎一が吹き飛ばされた先から漸く三人の元に戻ってきて言った。

「速くて避けきれねえ。アレをなんとかしねえとな」


「言難いが、今の貴様には無理だ。いったん引くぞ」

 八咫烏はそう言ったが、


「お前まで俺の力を見縊(みくび)ってるのか?」

 と慎一。


「そうではない。忽那のことも知らずに無闇に闘っても死ぬだけだ」

 八咫烏に続けてロクも言う。


「八咫烏よりはっきり言ってやろう。お主の今の力を全部出しても敵わぬ。先ずは引くぞ」


「ふざけるな、逃げたってまたこいつは追ってくるんだろう!やるしかねえだろうが!」

 慎一はそう言ったが、その時サキが放った瑠璃光で強制的に眠らされてしまった。八咫烏の指図だ。


「後は任せろ」

 八咫烏はそう言って忽那の前にすくっと立ちはだかった。


「俺が時間稼ぎをする。その間、貴様らは出来るだけ遠くに行くんだ」


「任せたぞ。お主も死ぬなよ」

 ロクがそう言い、慎一を担ぎ、サキと共に逃げた。


「八咫烏よ、貴様は俺には勝てぬ。そこを退くのだ」忽那は右手の尖った人差指の先を八咫烏に指して、それを右の方へ水平移動させて立ち去るよう促した。


「そうだな、貴様には一度敗れている。しかし、この八咫烏を甘く見るとどんなことになるか見せてやろうじゃないか。貴様もタダでは済まないぞ?」

 八咫烏は自信ありげな顔をして答えた。

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