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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第6章 Realm of the dead(黄泉の国へ)
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第55話 煉獄にて

 地獄は、悪人が死後落ちる世界で奈落とも言われているが、煉獄は天国との中間に位置し、現世との往来を可能にしている領域だ。


 玉依姫は ー 八咫烏の娘だが ー 生きたまま忽那によってこの煉獄に囚われている。父親の八咫烏同様、彼女もまた無理やり時空を超えさせられたのだった。


 忽那は、玉依姫に何かをするわけでもないが、煉獄に結界を張って玉依姫の行動を制限した。

 いつもどこから行ってしばらく戻らないが、時折戻ってきてはその大きな体躯からは想像できないほど繊細な、それでいて冷徹な視線を玉依姫に向けるのであった。


 忽那は黙して語らず、玉依姫が何を訪ねても答えることはなかった。


 ただただ、行動を束縛し、冷たい視線でさらに玉依姫を縛るのである。


 流石に長い年月忽那にそうされていると精神を病んでくる。玉依姫は、心身ともに破綻寸前だった。


 この煉獄には地獄に堕ちるほどではないが、罪を償う必要のある死者が来る。

 地獄との違いは、永遠の苦痛を与えられる地獄に対して、苦痛に耐え、罪を償ったと見なされれば極楽へ行けるということだ。


 忽那は、地獄と煉獄と現世の間を往来できる。

 そして時空すら自由に往来できる存在である。


 八咫烏から玉依姫を奪い、ここに匿っている。


 玉依姫は、久し振りに何処からか帰ってきた忽那に向かって、


「忽那様。私はいつ、お父様の元に返していただけるのでしょう」

 と、か細い声で聞いた。


 忽那が言葉を発したことは玉依姫の記憶の限りない。


 玉依姫に近づいては、おもむろに目を閉じて、踵を返して去る。その繰り返しだ。


 危害を加える事もしない。

 玉依姫が聞いていたような、恐ろしい、残忍な妖怪という一面を見たことは一度もなかった。


 またいつもと同じように忽那は目を閉じた。


「まただわ…」

 諦観にも近い感情が玉依姫の心の底に沸々と湧いた。

 そして、彼女は俯き、後ろを向いた。


「お前の父親と相見える事になった」

 玉依姫は驚いて振り返って忽那を見た。


「初めて、話してくださったのね」

 想像していたよりも、遥かに清らかな、透き通る様な忽那の声に驚いていた。


「お父様と相間見えるのですか」


「今、そう言った」

 忽那はそう言い残して、いつもの様に踵を返して檻から去っていった。


 憂のある表情、透き通った声。そして思いのほか優しそうな話し方に、玉依姫は忽那に興味をもった。

 父から引き離し、ここ煉獄に匿った憎い相手なのに。


「いえいえ、私は、彼の方を許してはいないのです」

 独りごちた玉依姫は忽那が自分の侍女を引き裂いた後、ここに連れてこられた日のことを思い出していた。


「父上にお力を」

 と、目を瞑って俗世の入り口に向かって祈りを捧げた。

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