第52話 交錯する思惑
サキはロクに促され、嫌々ながら瑠璃光を八咫烏に当てた。
折れた翼は形を整え、抜け落ちた羽根は新たに生え揃った。ロクが爪を突き立てて空いた穴は塞がり、出血も収まった。
「な、何故私を生かす…甘い。甘いぞ、貴様…」
傷は癒えたが、息も絶え絶えな八咫烏は、睥睨するロクに向かって訊いた。
「お主が闘わねばならぬのは、ワシや今あそこで八岐大蛇と闘っておるアイツではないじゃろう?」
八咫烏は質問の意味を飲みくだしたが、返答することは出来なかった。
「まあ、良いじゃろう。お主、もう、アイツの邪魔立てはするな」
ロクは八咫烏に念を押して慎一が八岐大蛇と闘っている空間に向かって跳躍した。
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「おい、お主! 随分と苦戦しておるようじゃな! ワシが助太刀してもええぞ?」
「ああ、残念ながらもう五宝具は全部無くなっちまった。援護してもらえると助かる!毒牙にかかって身体がなかなかいうことを聞いてくれねえんだよ!」
「かと言って真言を唱えるほどの体力も残ってはおるまい…おお、そうじゃ!」
ロクは何かを思い出した。
「ワシらの最初の企みを忘れておったわい」
そう言うと、両の掌からを面前にかざして酒の玉を作った。
「おい、八岐大蛇よ。お主らの好きな八塩折之酒じゃ!」
ロクは叫ぶと、蛇頭達に向かって八塩折之酒を投げつけた。
三頭の蛇頭達は争うかのように八塩折之酒を飲んだ。
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ちょうどその頃、首都テレビの報道クルーが《闇》の近くまで第六機動隊山下の手引きでやってきた。
暮林 郁朗は首都テレビ報道局において記者の中でもまとめ役のベテラン記者である報道キャップを拝命している。山下とは暮林が警視庁の番記者時代からの付き合いで、山下はメディアコントロールの一環でうまく情報を暮林にリークしたり、暮林は暮林で、山下の意図を汲んでうまく記事にしたりと、所謂「共生」関係であったと言っても差し支えなかった。
暮林は、目前に繰り広げられている光景が一体なんであるかを理解できないでいた。
「山下さん、これは一体なんなんですか?」
山下は、
「暮林さん、世の中には考えられないようなことが起きるものなんですね」
と、答えになっていない返答をした。そして、
「この現象が可視化されているのは、あっちにいる先生のお陰なんですよ」
と、続けて、道足恭代を指差した。
「こんなもの、放送して良いんですかね。こんなこと言う俺は報道マン失格なんでしょうが」
暮林は道足の方を見ながら、どうして良いか逡巡している。
クルーの一人が、
「キャップ、準備整いました。カメラ回します!」
と告げた。
すると、突然《闇》の中を可視化していたE.G.O.i.S.Tがパワーダウンし、《闇》が《闇》に戻っていった。
「あああ、何も撮れなかった・・・」
カメラは回っておらず、八岐大蛇と慎一が闘う様子は映像としては残ることはなかった。
道足も憤慨していた。
「なんでパワーダウンするのよ? マリー=テレーズ。」
「先生、こんなに長く逆に持ったほうがびっくりですわ。」
悪びれもせず、マリー=テレーズは言い放った。
「十分、記録は残せましたから。」




