第51話 死闘
慎一は、唯一残った六番目の蛇頭に食いつかれ、体の自由が奪われた。全身に蛇頭の毒が回り、痺れている。
「我らを舐めるなと言ったはずだ!」
六番目の蛇頭は舌を出し入れしながら大きく吠えた。
「くっ、ぐおおぉおお!!」
慎一は痺れで身体が言うことを聞いてくれない。
それでも軍荼利明王と化した慎一は何とか反撃を試みようとするが既に金剛杵が粉砕された時点で五法具は全て失われた。
「こうなったら四の五の言ってられねえ。」
体力の消耗は激しいが、金剛軍荼利真言を唱えた。
「Oṃ khili khili vajra hūṃ phat(オン キリキリ バサラ ウン ハッタ)!!」
ようやく、慎一の腕に噛み付いた六番目の蛇頭を吹き飛ばすことはできたものの、ダメージはあまり与えられていない。
痺れと、消耗で慎一は視界が狭くなった。
「くそう、眼が霞んでよく見えねえ。これ以上真言を唱えるとなると、体力的に結構やばいな。」
六番目の蛇頭は、体制を整えてふたたび慎一に襲いかかる。
慎一の後方に回り込んで背中に食らいついた。
ドクン、ドクンと毒が注入されるのが分かる。
痺れと激しい痛みが交互にやってくる。
慎一は堪らず大きな声で呻いた。
「がぁあああぁあーぁあ!!!!」
「シン兄!」
突然サキが目覚め、慎一に向かって叫んだ。
「アタシが瑠璃光を使って治してあげる!」
サキが慎一に向けて瑠璃光を放つと、六番目の蛇頭はなんと大きく尾を振って体制を入れ替えたのだ。
瑠璃光は慎一ではなく、八岐大蛇に当たり、5番目、三番目の蛇頭が復活した。
「えええええ」
予想外の展開にサキもパニックになった。
「おいおいおい」
慎一もしかりである。
「せっかく後一頭だったのに…」
「ああああ! シン兄! ごめんなさい!!」
五宝具はすでに失われ、敵は三頭。
絶体絶命に思われた。
一方、八咫烏との闘いではロクも苦戦していた。
八咫烏の上空からの急降下による攻撃は、ロクの体力を奪って行き、最初の頃の様な大きな跳躍は果たせなくなっていた。
化け猫と化したロクの身体は、最早ボロ雑巾のようだ。
「八咫烏の奴め、なかなかやりおる」
「ロク、と言ったな。どうだ。私の爪の切れ味は?」
「そんな鈍、どうってことはないわい!」
「よくもそんな強がりを!トドメを刺してくれる!」
そう言って八咫烏は垂直に急降下を始めた。
ロクは微動だにしない。
怪我で最早動けないのか、そう思われた時、八咫烏の爪の軌道を爪あてて外し、八咫烏の背中におい被さった。
「貴様!何をする!」
「お主の弱点はここよ。覚悟は良いか!?」
ロクは勢いよく八咫烏の背中に爪を突き立てた。
「グワァアウアウー!」
カラスらしい鳴き声をあげて八咫烏は、悲鳴をあげ、それでも尚ロクを振り落とそうとして翼を左右に激しく振った。
ロクは振り落とされないよう必死に突き立てた爪に力を込めて抜けないようにした。
「こやつ、まだ闘えるのか?」
「貴様など!貴様など!振り落としてくれる!」
ますます八咫烏は暴れてロクを振り落とそうとした。
「これで大人しくせい!」
ロクは左手の爪も八咫烏の首に突き立てた。
力尽きた八咫烏は、ロクもろとも墜落した。
墜落の衝撃で、ロクの身体は八咫烏から離れた。八咫烏も、ロクも瀕死の重症である。ロクの頭からは夥しい黒い体液が流れ出ている。
八咫烏の怪我も尋常ではない。
羽根は折れ曲り、鮮血を四方に飛び散らせている。
それでもロクは立ち上がり、
「八咫烏よ、目を覚ますのじゃ!貴様はこのような事を二度としてはならぬ!」
サキはすかさずロクに向けて瑠璃光を放った。
「わ、私の負けだ…」
八咫烏はそう言ってうな垂れた。
「い、いかん。サキよ、八咫烏に瑠璃光を当てるのじゃ!すぐにじゃ!」
「え、また復活しちゃうじゃない。アタシ、ヘビさん蘇らせちゃって慎ニィをピンチにさせちゃったのにまたやるの?」
「黙って瑠璃光を当てるんじゃ!」




